７１話 祝杯と暗躍と
「では、ノドカの勝利を祝い……」
「「かんぱーーーいっ！」」
夜。
ノドカの決闘の勝利を祝い、ささやかながらも宴が開かれることに。
ちなみに、提案者はアルティナだ。
……よくよく考えると、事あるごとに宴会を望んでいるような気がする。
酒が好きなのだろうか？
彼女も大人だから、あまり口うるさいことは言いたくないが……うーん。
酒に溺れないか、ちょっと心配になるな。
「改めておめでと、ノドカ♪ 良い剣だったわよ」
「ありがとうございます、アルティナ殿。剣聖であるアルティナ殿にそう言っていただけると、とても嬉しいのであります」
「もう、そんな堅苦しい喋り方しないでよ。あたし達、友達じゃない」
「友達……でありますか？」
「そうよ。友達だからノドカのことが心配だし、ノドカが勝って嬉しくて、こうしてお祝いをしたいの！」
そう言って、アルティナはぐいっと酒を飲み干した。
新しく注ぐ。
それ、けっこう度数が高いのだけど……うーん？
「だから、もっと気楽にして？」
「はい、ありがとうございます！」
「ぜんぜん気楽になってなーーーいっ」
「す、すみませぬ！ 拙者、誰に対してもこういう口調でして、どうにもこうにも……」
「ま、いっか。それがノドカらしいってことだしね」
「理解していただき、ありがたいです」
「それじゃ、飲みましょ！ ほらほら、グラスが空になっているわよ？」
「わわわっ」
アルティナが笑顔で酒を注いで、ノドカが慌てている。
うん。
こういう時間はとてもいいな。
師弟関係だけではなくて、家族のようでもあり……
楽しくも温かい時間が流れていた。
「師匠も飲むでしょ？」
「そうだな、いただこう」
「はい、どうぞ」
アルティナが酒を注いでくれた。
それを口にして……
「ごほっ！？」
喉が、喉が熱い……！？
というか、痛い！？
なんだ、この酒は！？
「どうしたの、師匠？」
「どうしたもこうも……アルティナ、その瓶を見せなさい」
「はい」
アルティナから酒の入った瓶を受け取り、説明書きを読む。
……アルコール度数、４５％と書かれていた。
「アルティナ、この酒は……」
「師匠の言いたいことはわかっているわ。これじゃあ弱い、って言いたいんでしょ？」
「違う！？」
「でも、ごめんね。気軽に街に買い出しに行けないから、こんな弱い酒しかないの。今日はこれで我慢してちょうだい」
「我慢もなにも……くっ」
体がふわふわと浮くような感覚。
頭がぼーっとして、ちゃんとものを考えることができない。
たった一口飲んだだけなのに、一気に酔いが回ってきた。
このような酒を飲んで、ノドカは大丈夫なのだろうか？
彼女の方に目をやると……
「はらほろひれ……」
ノドカは目をぐるぐると回して、テーブルに突っ伏していた。
だよな。
そうなるよな。
「あれ？ ノドカ、もう寝ちゃったの？ 決闘で疲れちゃったのかしら……んく」
アルティナは見当違いのことを口にしつつ、さらに酒を飲む。
水のように飲んでいて、それでいて、大して酔っているようには見えない。
アルティナは、ちょくちょく二日酔いになっていたが……
その理由と原因が、ようやくわかった。
こんな度数の高い酒を水のように飲んでいたら、二日酔いになって当たり前だ。
「ねえ、師匠」
「うん？」
度数の高い酒は避けて、優しい酒を飲んでいると、アルティナが神妙な顔をする。
「こういうフラグみたいなこと言いたくないんだけど……」
「どうしたんだ？」
「あのシュロウガって男、このまま諦めるかしら？」
「……難しいかもしれないな」
彼は、女性というだけでノドカを下に見ていた。
さらに、プライドも高そうだ。
今回の決闘はノドカが勝利したものの……
それで素直に納得するとは思えない。
「逆上して、暴走する可能性はあるだろう」
「そっか……はぁ。シグルーンといいシュロウガといい、男ってろくでもないヤツね。あ、師匠は別よ？ 師匠は、とても素敵な紳士だし♪」
「はは、ありがとう」
こんなおっさんを紳士と言ってくれるなんて、アルティナは口が上手いな。
世辞だとしても嬉しくなってしまう。
「むぅ……師匠、あたしの本心、絶対わかってないでしょ」
「なんのことだ？」
「もういい！」
なぜかアルティナはふてくされてしまい、さらに大量の酒を煽る。
結果……
「んー……すぅ、すぅ……むゅ」
「くぅ、くぅ……ござるぅ……」
酔いつぶれた女性が二人。
やれやれ、と苦笑することしかできない。
俺は二人をベッドに運んで……
自分は、最近、増築が完了した寝室で寝るのだった。
――――――――――
「……わかったな？ 俺様の言う通りにしろ」
「それは構わないが……しかし、大丈夫なのか？ こんな無茶をして」
「道場のためとはいえ、お嬢をさらうなんて……」
「うるせえなぁ！ てめえらは、黙って後継者である俺様の言うことを聞けばいいんだ！ わかったな！？」
