7話 薬草採取のはずなのに……?
軽い騒動に巻き込まれたものの、冒険者登録は完了した。
さっそく依頼を請けて街を出る。
請けた依頼は薬草採取だ。
簡単な依頼だけど、でも、危険は潜む。
採取中に魔物と遭遇するかもしれないので、しっかりと剣を持ってきた。
「薬草なら慣れたものだ」
おじいちゃんと一緒に暮らしていた時、色々と教えられたからな。
薬草の知識も一通り叩き込まれている。
「簡単な依頼だけど……でも、しっかりとやらないとな。こういう小さなものを積み重ねていき、立派な冒険者になるものだろう。塵も積もれば山となる。まあ、俺は年齢が積もっているんだけどな、はっはっは」
……虚しいことを言ってしまった。
――――――――――
「よし、完了だ」
1時間ほどで採取は終わり。
街に戻り、ギルドに報告すれば依頼完了だ。
「初日から順調だ。俺、冒険者の才能があるかもしれないな……って、調子に乗るのはよくないな」
報告するまでが依頼だ。
最後まで気を抜くことなく、しっかりとやろう。
採取した薬草を肩掛け鞄に入れた。
そして帰り道を……
「うん?」
離れたところから物音が聞こえてきた。
「これは……剣の音?」
おじいちゃんが亡くなった後も、毎日、素振りは欠かしていない。
もはや剣は体の一部。
その音を聞き間違えるわけがない。
誰かが戦っているのだろうか?
興味と好奇心で音がする方に足を向けた。
――――――――――
「はぁっ!」
裂帛の気合と共に女性が剣を振る。
剣の軌跡は緩やかな弧を描いていて、なおかつ、速い。
彼女に襲いかかろうとしていた狼に似た魔物は、その牙を届かせることなく、両断されてしまう。
「ふぅ」
女性は剣を振り、魔物の血を払い落とす。
その拍子に銀色の髪が揺れた。
腰に届くほどに長く、宝石のような輝きを放つ。
誇張表現ではなくて女神のようだ。
それほどまでに美しく、また、力強さも感じた。
軽鎧に身を包み、腰にもう一つ、剣を下げている。
軽鎧は急所をしっかりとガードしつつ、体の動きを阻害しないものになっていた。
剣は鞘に包まれていて刃は見えないものの、柄だけを見て、かなりの業物とわかる。
それほどの一品だ。
いったい、彼女は何者なのだろう?
「っ」
不意に、女性は鋭い表情になる。
その視線は俺ではなくて、別のところに向けられていた。
再び剣を構える。
「グルルル……!」
木々を押し倒しつつ、巨体が姿を見せた。
狼に似ているものの、似ているのは外見だけだ。
五メートルに届きそうなほどの巨体。
槍のように伸びた爪と牙。
そしてなによりも、三つの頭部。
単体で街を滅ぼすと言われている、災厄級の魔物……ケルベロスだ。
「なっ……どうして、こんなところにケルベロスが!?」
「「「ガァッ!!!」」」
「くっ……!」
ケルベロスが飛びかかり、女性は応戦した。
前足による薙ぎ払いを剣で受け止めて。
頭部を蹴りつけて、噛みつきを防いでみせた。
続けて、カウンター。
風を断つような勢いで、刃を宙に走らせる。
たったの一撃を繰り出したように見えるが……違う。
一閃と見せて、計十二の斬撃を同時に放っていた。
その一撃一撃、全てが芸術のように美しい斬撃で。
そして、大地を割るほどの力が込められていた。
「ちっ」
舌打ちする女性。
彼女の剣はケルベロスに届いていない。
正確に言うのならば、刃は、確かにケルベロスを捉えていた。
防ぐことも避けることもできていない。
ただ、ヤツの毛は鋼鉄のように固く、全ての攻撃を弾いていた。
「さすがケルベロスね、並の剣じゃ歯が立たないわね。たった一回で、もうコレだもの」
女性が持つ剣は、すでに刃こぼれが起きていた。
あと数撃交わせば、そのまま折れてしまうだろう。
「こんなヤツがいると知っていたのなら、聖剣を持ってきたのに……あたしも迂闊ね」
うん?
今、聖剣と言ったような……?
「でも、ここで退くわけにはいかないわ! こんなヤツが街に来たら……想像もしたくないわね。あたしの命に替えても、絶対に止めてみせる!」
女性は刃こぼれした剣を捨てて、もう一本の剣を抜いた。
前に出て、斬撃を繰り出す。
一回、二回、三回……
十、二十、三十……
そして、百を超える斬撃を繰り出していく。
十秒にも満たない短時間で、それだけの技を魅せていた。
彼女は素晴らしい剣士だ。
機会があれば、ぜひ剣について色々なことを教えてもらいたい。
ただ……
「「「グガァッ!!!」」」
それでも、ケルベロスには届かない。
百を超える斬撃を浴びたはずなのに、ケルベロスは致命傷を受けていない。
それなりのダメージも受けていない。
むしろ怒りを誘うだけ。
「ちっ」
今度はケルベロスの番だ。
その巨体に似合わない速度で動いて、女性に喰らいつこうとする。
女性はしっかりと地面を踏みしめて、迎撃に移る。
ガガガガガガガッ!!!
女性とケルベロスの戦い。
それは、もはや嵐と表現するのが正しい。
剣撃と爪撃。
刃と牙が繰り返し激突して、そして、触れる者全てを切り刻む嵐と化す。
音を超えるほどの速度で動いて、激突して、技を繰り出して……
「はぁあああああっ!!!」
「ガァアアアアアッ!!!」
ありったけの力で攻防を繰り返していく女性とケルベロス。
一見すると、女性が押しているように見えるが……
このままだとまずいな。
女性は、『技』で負けていることはない。
むしろケルベロスを圧倒していた。
ただ、決定打に欠けている。
それと、ヤツに比べて体力が足りていない。
次第に動きが鈍くなり、それは、やがて致命的な隙を作ることになる。
「あっ……!?」
ケルベロスの渾身の一撃が女性の剣を弾き飛ばした。
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