67話 キバ・シュロウガ
ノドカ宛の手紙が届いて、さらに1週間が経過して……
ついに、ノドカの婚約者であるという、キバ・シュロウガがやってきた。
「よう、おっさん」
いつものように家の周りの掃除をしていると、突然、声をかけられた。
振り返ると、二十代半ばくらいの男性が。
逆立つ髪は燃えるような赤だ。
瞳も同じ色で、意思の強さと強気な性格であることが伺える。
腰に二本、剣を下げていた。
ノドカと同じ『刀』だ。
……この男が、キバ・シュロウガなのだろう。
そう直感した俺は、警戒しつつ、言葉を返す。
「なんだい?」
「ここに、ノドカ・イズミっていう女がいるだろ? そいつを出しな」
問答無用という感じで、いきなり本題を切り出してきた。
ふむ。
こちらの話を聞くつもりはない、という意思の現れなのか。
それとも、単にせっかちなだけなのか。
「すまないが、どちらさまかな? キミが何者かわからない以上、こちらも……」
「うるせえなぁ……いいから俺様の言う通りにすればいいんだよ! おっさん如きが口答えするな!」
男は苛立った様子で、近くにある我が家のポストを蹴った。
……どうやら、前者のようだな。
さて、どうしたものか?
ノドカに伝えるべきなのだけど……
男の態度が予想していた以上に酷いな。
このような男をノドカに会わせていいものか?
「……わかった。少し待ってくれるかな?」
どちらにしても、ノドカを抜きに話を先に進めることはできない。
なにかあれば、俺が対処をしよう。
そう決めて、俺は、ノドカを呼びに家に戻った。
――――――――――
「よぅ、ノドカ」
「……シュロウガ……」
ノドカを呼んで、アルティナも呼んできた。
シュロウガの顔を見ると、ノドカは思い切り嫌そうな表情に。
本当に嫌いなのだろう。
「……なんの用でありますか?」
「はっ、バカか、お前? 少し考えればわかることだろう……ったく、これだから女ってのは」
女性を軽視するような発言に、隣のアルティナも眉をしかめた。
「婚約者の俺様が、わざわざ迎えに来てやったんだ。泣いて喜ぶか、今すぐ裸になって俺様を喜ばせるか、それくらいのことはできないものかね。ったく、気が利かねえったらありゃしねえ」
アルティナが俺にだけ聞こえる声で、そっと問いかけてくる。
「師匠……あいつ、斬ってもいい?」
「やめておきなさい」
気持ちはわかるものの、いきなりそんなことはできない。
できないから……剣の柄に手を伸ばすのはやめてくれないかな?
「おら、さっさと帰るぞ。街では、俺様とノドカの結婚の準備が進められているんだ」
「お断りします」
「……あ? 今、なんつった?」
「お断りします、と言ったのであります」
ノドカは、シュロウガを睨みつつ……
しかし、その手がわずかに震えていた。
親に決められた婚約者。
そして、その婚約者は獣のようで、まるで人の話を聞かない。
こんな者と一緒にいたら、それなりの恐怖を覚えてしまうだろう。
俺にとってのハイネのようなもの……だな。
ノドカは今、越えるべき壁と向き合っている。
だからまだ、なにも行動しないでいた。
「お前さぁ……舐めてんのかっ、あぁ!!!?」
「……っ……」
シュロウガが獣のように吠えて、ノドカはびくりと震えた。
でも、彼の前から逃げ出すようなことはない。
「てめぇは俺様のものなんだよ! 道具が主人に口答えしているんじゃねぇ、ボケが! いいか? ノドカがすることは、ただ一つ。今すぐに俺様についてきて、俺様に恥をかかせたことを全員に謝罪して、それから裸で土下座してもらおうか。そうすりゃ、俺様の子供を産む名誉を与えてやるよ」
「よし、ブッタ斬ルワ」
「待て待て待て」
アルティナがやばい。
それ以上、刺激するようなことを言わないでくれ。
シグルーンと同じくらい……いや、それ以上に酷い男だな。
うちの弟子は男運が悪いのだろうか?
「断るのであります」
ノドカは、あくまでもシュロウガを拒む。
本当は怖いと思っているはずなのに、それをほとんど表に出していない。
すごいな。
俺は、この子の強さを見誤っていたのかもしれない。
「てめぇ……あくまでも俺様に逆らうっていうのか? ぶっ殺すぞ?」
「自分は……」
ノドカは拳をぐっと握り、シュロウガ睨みつけて言い放つ。
「あなたのような獣以下……いいえ。魔物以下の外道と結婚するなんてことは、絶対にありませぬ! あなたには嫌悪感しか持っておらず、好意なんて欠片もありませぬ!」
「この……クソアマがぁっ!!!」
シュロウガがキレて刀を抜いた。
神速の一閃でノドカを害そうとして……
「そこまでだ」
「なっ!?」
「ガイ師匠!」
俺も剣を抜いて、シュロウガの一撃を受け止めた。




