64話 ゆっくりとのんびりと
「んー……!」
朝。
目が覚めて、庭のテントから外に出た。
朝日をいっぱいに浴びるかのように、ぐぐっと伸びをする。
家は狭いので、アルティナとノドカが使うと、いっぱいいっぱいだ。
おっさんではあるが、俺も男。
さすがに一緒に寝るわけにはいかず、こうして、外にテントを張ることにした。
まあ、なぜかあの二人は、一緒でも構わないと言うが。
その上に、なぜか一緒のベッドで寝ようとしていたが。
「よし、朝食を作るか!」
――――――――――
「今朝は、パンでまとめてみたのだけど、二人は問題ないか?」
「問題はないけど……」
「これ、ガイ師匠が作ったのでありますか?」
ハムチーズトーストと、野菜とフルーツのサラダ。
スクランブルエッグと、燻製ベーコンを焼いたもの。
それと、おまけのチーズ。
「ああ、俺が作ったんだ。口に合えばいいが……」
「えっと……いただきます」
「そういえば、師匠の料理って初めてね……いただきます」
二人はハムチーズトーストを手に取り、ぱくっと食べた。
「「っ!?」」
そして、なぜか驚愕の表情。
「ど、どうしたんだ? もしかして、失敗してしまっただろうか……?」
「逆よ、逆! なんでこんなに美味しいの!?」
「ハムとチーズを挟んで焼いただけのはずなのに……あぁ、手が止まらないです! トーストはサクサクで、チーズはとろとろ。そこにハムのジューシーさが加わって……あふぅ♪」
「えっと……良い感じにできた、ということでいいのか?」
「「もちろんっ!!!」」
食い気味に肯定されてしまった。
「師匠って、料理も達人級なのね。うー……これは、ちょっと女として悔しいかも」
「ですな……拙者、剣だけではなくて、料理もガイ師匠に教わりたいです」
「いや、これくらい、簡単にできるのだが……」
「「できない」」
揃って否定されてしまう。
出会ったばかりなのに、二人は仲が良いな?
「まあ、口に合ったようでなによりだ」
俺も席について朝食を食べる。
うん。
我ながらうまくできたな。
しかし……
こうして自分の作った料理を食べると、おじいちゃんと一緒にいた頃を思い出すな。
おじいちゃんが生きていた頃、俺が料理を担当していた。
おじいちゃんは、剣の腕はすさまじく、神がかっていたものの……
それ以外は、ちょっと微妙なところが多かったからな。
いつも俺が料理を作っていたものだ。
それを、おじいちゃんが美味しい美味しいと言ってくれて……
「師匠、どうしたの……?」
「なにか、辛そうな顔をしていますが……」
「いや……なんでもないよ。少し、昔のことを懐かしんでいただけださ」
おじいちゃん……見てくれているかな?
こうして、一緒にごはんを食べて、俺が作った料理を美味しいと言ってくれる子達が弟子になったよ。
だから、安心して。
俺は、もう大丈夫だから。
「ねえねえ、ノドカ。そのスクランブルエッグ、ちょっとくれない?」
「ダメです。これは、拙者のものでありますよ」
「いいじゃない、少しくらい。あたし、もう全部食べちゃったの」
「嫌であります。拙者は、楽しみを最後にとっておいて……」
「いただき♪」
「あーーーーーっ!!!?」
アルティナがノドカのスクランブルエッグを、一口、横取りしてしまう。
「せ、拙者のスクランブルエッグが……楽しみにとっておいたのに……スクランブルエッグぅ……」
「ちょっとだけだからいいじゃない。ほら、まだ半分以上残っているわ」
「……許せぬ」
「え?」
「え?」
ノドカは、腰に下げている刀に手を伸ばした。
「いくら姉弟子であろうと、このような暴挙、許しておけぬ……斬り捨て御免!!!」
「ちょっ!? やめなさ……危な!?」
「ユルセヌ!」
あーあ……
いきなりケンカを始めてしまった。
やっぱり、仲は良くないのだろうか?
本来なら行儀が悪いと叱るところなのだけど……
二人は絶妙な立ち回りを見せて、朝食に被害が及ばないようにしていた。
周囲の家具もまったく傷つけていない。
とんでもなく器用なケンカだ。
「……まあ、これはこれで良い鍛錬になるかもしれないから、いいか」
そう納得して、俺はスクランブルエッグをぱくりと食べるのだった。




