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58話 決着

「さーて、これであいつは料理し放題……」

「いや、待て」


 化け物は機動力を失い、移動は困難になった。

 体勢も完全に崩れているため、今までのように剣を振ることは不可能だろう。


 ただ……


 まだ嫌な感じがした。

 頭の中で警笛が鳴っている。


「油断するな」

「でも……」

「忘れたか? ハイネは切り札を持っていた。こいつも、同じように切り札を持っていてもおかしくない」

「あっ……うん、ごめんねなさい、師匠。ちゃんとやるわ」


 アルティナの表情が引き締まる。

 これでよし。


 あとは、慎重に動いて……


「って、これ……や、やばいかも」


 アルティナが顔をひきつらせる。

 その意味をすぐに理解した。


「グゥウウウ……オォッ!!!」


 どういう原理かわからないが、化け物が持つ剣が巨大化していく。

 大きく太く長く……剣はヤツの背丈を軽々と越えて、さらに大きくなる。


 魔力を込めているのだろうか……?


 対象的に、ヤツの体が小さくなっているような気がした。


 まさか……

 魔力だけではなくて、生命力そのものを込めている?


 そこから繰り出される特大の一撃は……

 下手をしたら街が壊滅してしまうだろう。


 これは切り札なんてものじゃない。

 自爆と同じだ。


「師匠っ、早くあいつの剣を……!」

「……もう遅い。今、ヤツの腕を切り落としたとしても、剣に込められた魔力や生命力が暴走して、大きな被害を出してしまうだろう」

「そ、それじゃあ、どうすれば……」

「俺が受け止める」

「えっ!?」


 剣は心を現している。

 持ち主の想いを体現して、刃を交わすことで、それを感じ取ることができる。


 おじいちゃんの教えだ。


 ヤツと剣を交わして理解したのは、化け物の……いや。

 シグルーンの嘆きだった。


 どうして、こんなことに?

 俺が一番のはずだ!

 それなのに、こんな現実は認められない。


 ……力を求めた慣れの果てだ。

 とても哀れで、これ以上、見ていることはできない。


「ここで終わらせる」

「……ん、わかった。でも、あたしにも手伝わせて?」

「しかし……」

「危険だから、とか言わないでよ? その危険なことに挑もうとしている師匠を放っておいて、弟子がのんびりしていられないわよ」

「むぅ」

「あたしは、師匠のなに? 弟子でしょ? それと……前に、家族のように思ってくれているって言ってくれて、すごく嬉しかった。だから、こんな時だけ仲間外れにしないで。ちゃんと……隣にいさせてよ!」

「……わかった」


 アルティナの想いを否定することはできない。

 そんなことをしたら、俺達の関係は、今、ここで終わってしまうだろう。


「やろう」

「ええ!」


 俺とアルティナは横に並んで、それぞれ剣を構えた。


「オレガ……コノ、オレガ……イチバンナンダ!!!」


 化け物の……シグルーンの声が聞こえてくる。

 それは、泣き声のようにも感じて……


「今度こそ、終わりにしよう」

「オォオオオオオッ!!!」


 特大の一撃が振り下ろされてきた。


 剣に込められた力は、到底、計り知れない。

 まるで空が落ちてくるかのようだ。


 真正面から受け止めるなんて、正気の沙汰ではない。

 普通に考えて、一瞬で叩き潰されて、そこで終わり。


 でも……


「「おぉおおおおおーーーーーっ!!!」」


 アルティナが一緒にいてくれる。

 だから、なんでもできるような気がした。


 二人、同時に剣を振る。

 迎撃の一撃を繰り出して、それぞれの刃が重なる。


 ガァッ!!!!!


 轟音が響く。

 同時に、衝撃波が撒き散らされた。


 まるで竜巻に飲まれたかのようだ。

 それでも、俺達は耐えた。

 化け物の力に負けることなく、それぞれの剣で受け止める。


「アルティナっ、まだ……いけるか!?」

「へっちゃらよ!」

「いい返事だ。なら……一気に決めるぞ!」

「了解!」


 アイコンタクトを交わして、心の中でカウントを刻む。


 いちいち口に出す必要はない。

 目を交わしただけで全て通じ合うような気がした。


 だから……


「「はぁっ!!!」」


 ゼロを唱えた瞬間、俺とアルティナは、ありったけの力を込めて化け物の剣を上に弾いた。


 まさか、弾かれるとは思っていなかったのだろう。

 化け物は驚きの声をあげて、さらにバランスを崩す。


 そこを狙う。


「これで……」

「終わりだっ!!!」


 俺とアルティナの斬撃が十字を描くように、交差しつつ走る。

 同時に叩きつけられた二つの斬撃は一つとなり、化け物の胸部を打つ。

 その一打は全てを打ち砕く『必殺』となり……


「ガッ……アアアアアァ……!?!?!?」


 俺とアルティナの斬撃が化け物の胸部を切り裂いた。

 それは心臓にまで届いて、その命を終わらせる。


「ボク、ハッ……コノヨウナ、トコロデェ……!?」

「いや、終わりだ」

「アァッ……!」

「もう……休もう」

「……」


 ぴたりと、化け物の……シグルーンの動きが止まる。


「無理にがんばらなくていい。休んでいい。だから……」

「……アリガ……」


 言い終える前に、シグルーンの体は黒い塵となり、風に流されて消えた。


「……おやすみ」

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