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56話 真の災厄

 災禍の種の正体は不明だ。

 すさまじい力を持つものの、数え切れないほどの不幸と涙を撒き散らす。

 一級品の呪いのアイテム。


 シグルーンは、その災禍の種について知らされていた。

 それを利用して作られた、魔剣グラムを父から授かった。


 これで、ガイに復讐ができる。

 自分こそが正しく、一番強いのだと証明することができる。


 ただ……


 屋敷が襲撃された時。

 父を圧倒するガイを見て……

 シグルーンは逃げた。


 怖い。

 怖い。

 怖い。


 自分ではガイに勝てないと本能で悟った。

 魔剣を得たところで、どうしようもできないと感じた。


 そして……逃げた。


 その判断は正しい。

 ただ、それ故に、シグルーンのプライドはズタズタになった。


 ガイに勝てないと、自分で認めてしまったのだから。

 自爆したようなものだ。


 しかし、だからこそ。


 もう負けたくない。

 今度こそ勝ちたい。

 ガイを叩き潰すことで、己の自尊心を回復して、満たされなければいけない。

 そうでなければ、この先、一生を日陰で生きていくような気がした。


 そのためには、魔剣の力だけでは足りない。

 もっと、もっと力が欲しい。

 他者を圧倒して、笑いながら蹂躙できるような圧倒的な力が。


 シグルーンが、災禍の種が保管された騎士団にやってきたのは偶然ではない。

 同じ災禍の種の力で作られた魔剣を通じて、場所を感じ取ることができたのだ。


 元は同じもの。

 共鳴するかのように引き合う。


 災禍の種の研究で魔剣を作ることができた。

 なら、災禍の種そのものがあれば、さらに強力な力を得られるはず。


 シグルーンは、そんな安直な考えで騎士団支部を襲撃して、災禍の種を奪い……

 そして、そうすることが当たり前のように……食べた。


 武器だけではガイに勝てない。

 己の体も強くならないといけない。

 ならば、そのために災禍の種を取り込もう。


 これ以上、負けることはできない。

 ガイに勝つ。

 そして、自身が最強であることを証明する。


 そのために……

 シグルーンは、人間であることを捨てた。




――――――――――




 巨人のような化け物が暴れていた。


 人の形をしているものの、5メートルほどの巨体だ。

 両手足も胴も細い。

 骨と皮だけのよう。


 ただ、人とは異なる構造をしているらしく、その身に宿るパワーは圧倒的だ。

 腕を軽く振っただけで、数十キロはある大きなベンチが吹き飛んでいく。

 頑丈な石で作られた噴水などが破壊されていく。


 なによりも特徴的なのは、化け物が持つ剣だ。

 自身と同じ丈ほどもある巨大な剣。

 漆黒の刃は悪意を塗られているかのようで、見るだけで寒気が走る。


 その威力はすさまじく、石畳の道路を紙のように切断していた。

 鉄の街灯を簡単に切り裂いていた。


 ただ、適当に振り回しているだけなら、まだ対処はできたかもしれない。

 しかし、信じられないことに怪物は剣術を嗜んでいるように見えた。


 玄人のそれで、周囲にあるもの、全てを切り刻んでいく。


 街は壊れ、炎に包まれていく。

 悲鳴が連鎖して、血と涙が流れていく。


 なぜ、こんなことに?

 神はいないのか?

 見捨てられたのか?


 人々は絶望に打ちひしがれていた。


 それは、冒険者と騎士も同じだった。


 即座に情報が共有されたことで、化け物は、『勇者』であるシグルーンということが判明した。

 彼は、すでに人間を止めている。

 討伐することに迷いはない。


 全力で攻撃を始めるのだけど……


 しかし、化け物となったシグルーンは圧倒的だった。

 冒険者と騎士が一丸となり、持てる力の全てを振り絞るものの、傷一つつけることができない。

 逆に化け物の攻撃で、次々と味方が倒れていく。


 まるで、災厄級の魔物。

 いや……

 ここまで来たら、それはもう、天災級だった。


 人の身で抗うことはできない。

 できることといえば、ただ祈るだけ。

 故に、『天災』級。


 冒険者と騎士達は戦意喪失する。

 ダメだ。

 あんな化け物に勝てるわけがない。

 神でもないと、相手をすることは不可能だろう。


 戦う?

 無理だ、死にに行くようなものだ。


 援軍を呼ぶ?

 どこへ?

 仮に応えてくれたとしても、それまで保つとは思えない。


「……終わりだ……」


 その場にいる者の意思を代弁するかのように、誰かがぽつりとつぶやいた。


 この街は終わり。

 人々の命も終わり。

 化け物に全てを蹂躙されて、血があふれ、灰燼と帰すだろう。


 絶望。

 絶望。

 絶望。


 それ以外に思うものはない。

 誰もが諦めて、ここで全てが終わるとうなだれていた。


 ……その時。


 ザンッ!!!


 突如、繰り出された一閃。

 その剣撃は化け物の鋼鉄のような体を切り裂いて、確かなダメージを与えていた。


 誰もが驚く中、その偉業を成し遂げた人物が姿を見せる。


 ガイ・グルヴェイグ。

 最近、冒険者登録をした期待の新星。


 そして……

 ひたすらに剣の道を歩んできた、おっさんである。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おっさん格好いい [気になる点] おっさんの出番少ない [一言] 面白いです
[良い点] おっさん、真っ二つにしてくれ! もう、マジで天災勇者ですね(-∀-`; ) 人間までやめて始末に終えない(ーдー)
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