53話 過去を終わらせるために
「……」
「……」
互いに剣を構えて、無言で睨み合う。
ハイネの身体能力はすさまじいものがあるけれど、技術は拙い。
毎日、鍛錬を積んできた俺の方が上だ。
ただ……
さきほど、アルティナがやられたことを忘れていない。
確実に彼女の方が速く、的確に剣を振ることができていた。
それなのに、やられたのはアルティナの方。
なにかしらの切り札を持っていると考えるべきだろう。
「ふっ!」
守りに徹していてはハイネの切り札を見抜くことはできない。
そう判断した俺は、あえて前に出た。
剣をまっすぐ縦に振り下ろす。
誘いの一撃。
これに反応すれば、さらに痛烈な一撃を叩き込むことができるのだけど……
「ふんっ、その程度で!」
ハイネは見事にひっかかり、剣撃を走らせてきた。
回避と同時に、ヤツの剣の刃を肘で叩いて、その軌道を上に逸らす。
さらに、ハイネの爪先を踏み動きを止める。
その状態で斬……
「っ!?」
不意に悪寒を感じて、攻撃を中止。
急いで後退した。
「ほう……今のを避けるか」
「……なにをした?」
「自分の手札を晒すバカはいないだろう?」
ハイネは不敵な表情を浮かべつつ、距離を詰めてきた。
まだヤツの間合いじゃない。
剣が届くことはない。
それなのに……
「くっ」
悪寒が止まらないのはなぜだ?
頭の中で警笛が鳴り、その直感に従い、さらに後退した。
直後、さっきまで立っていた場所をなにかが駆け抜ける。
チリッ、と頬に生まれる熱。
避けそこねたらしく、血が一筋、垂れる。
「師匠、気をつけて……! あいつの剣、見えないのよ!」
「……ああ、その通りみたいだな」
ある程度回復したアルティナが、ハイネの手品を教えてくれた。
ハイネは、その手に持つ剣以外に、いくつか無数の刃を抱いている。
しかもそれは目に見えない。
なんて厄介な武器だ。
大抵の人……というか、ほぼ全ての人は『剣は見えるもの』という認識だ。
その前提ありで鍛錬を積み、剣を避けることを学ぶ。
剣が見える、という前提が崩れてしまうと、今までの常識、戦術は通用しない。
見えないという前提の鍛錬が必要となり、一からやり直しだ。
そして、そんなことを学んでいる人は、普通はいない。
「それもまた、魔剣の力なのか?」
「よくわかったな。しかも、私の剣の秘密に気づいたようだ。出来損ないにしてやるではないか、褒めてやろう」
体を強化するだけではなくて、剣の威力も上げて、特殊能力を付与する。
災禍の種は、なんて厄介なんだ。
「ぐっ……旦那、様……」
「おやめ、ください……」
逃げ遅れたらしく、執事とメイドが這っていた。
傷は受けていないはずなのに、その表情はとても苦しそうだ。
まるで、なにかに呪われている様子で……まさか。
「もしかして……魔剣を使用するには、なにかしらの代償を必要とするのか? そして、その代償を、お前は、そこの二人に……」
「ほう、それも見抜くか? いやはや、驚いたぞ。クズの割に、なかなか目が良いではないか」
俺の言葉を否定せず、むしろ肯定するようなことを口にする。
「災禍の種の研究は、八割済んでいる。ただ、残りの二割が厄介でな。力を利用して魔剣を作成したはいいものの、代償として大きなエネルギーが必要になる。私自身の魔力を差し出せば、5分と戦うことはできないだろう。そこで、発想の転換だ。私ではなくて、他者から魔力を奪えばいい。私は最強の力を得ることができて、同時に、他者を弱体化させることができる……どうだ、素晴らしいアイディアだと思わないか?」
「もしかして、そこの二人に代償を……」
「それも理解するか。なるほど。ただの出来損ないと侮るのは止めた方がよさそうだな。そこそこできる、ゴミと表現してやろう」
「ハイネ、あんたという人は……!」
自分が払うべき代償を、他の人に無理矢理払わせる。
外道と呼ぶ以外、何者でもない。
執事とメイドが戦うことを諌めていたのは、これを恐れていたのだろう。
いざとなれば主は自分達を切り捨てる。
切り捨てるどころか利用する。
それを理解していたからこそ、止めようとしていたのだろう。
「師匠……あたしも」
立ち上がる程度に回復したらしく、アルティナが隣に並ぶ。
ただ、まだ完全ではなくて、足は小さく震えている。
「……大丈夫だ」
「でも、あんなものを相手に……」
「俺を信じてほしい」
「……師匠……」
「あんな外道に負けることはない。ハイネの企み、その全てを打ち砕く」
「……うん、やっちゃえ」
任された。
だから、アルティナはゆっくりと休んでほしい。
俺は……
「もう、終わりにしようか」
過去に決着をつけよう。
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