52話 過去を跳ね除ける意思
「さあ、躾けてやろう! 二度と私に逆らえないように、二度とバカなことを考えられないように……あの世で反省してくるがいいっ!!!」
ハイネは、踊るような華麗なステップを踏む。
その状態から、次々と斬撃を繰り出してきた。
全てを叩き潰すような強烈な斬撃だ。
その上、速い。
さらに、変幻自在の軌道を描いて、四方八方から刃が襲ってくる。
「ちっ、厄介ね……!」
さすがというか、アルティナはハイネの攻撃を全て捌いていた。
まともに受け止めるのではなくて、剣を斜めに、刃を受け流している。
ただ、反撃のタイミングは掴めないらしく、防戦一方だ。
「はははっ、どうだ、見たか!? この私にかかれば、剣聖といえど敵ではないのだよ!」
「うっさいわね! あんたなんて、すぐにぶった切ってやるわ!」
アルティナが前に出た。
迫りくる無数の刃をミリ単位で見切り、その全てを避けていく。
なるほど。
今まで防御に徹していたのは、ハイネの刃を観察していたのだろう。
剣の軌道、速度、癖……その全てを記憶して、剣が届かない位置を覚えたようだ。
「このっ……ネズミが!」
「あたしのような可憐な乙女をネズミとか、見る目ないわね!」
苛立つハイネ。
ニヤリと不敵に笑い、距離を詰めるアルティナ。
彼女の援護をするため、俺も前に出た。
こちらにも刃が飛んでくる。
俺はまだ安全地帯を見極めていないため、アルティナの真似はできない。
ただ……
「くそっ、なぜ貴様ごときが私の剣を受け止めることができる!?」
ハイネの剣を全て受け止めて。
捌いて。
受け流してやる。
ヤツの剣はとても速く、威力も高い。
しかし、アルティナと比べると天と地ほどの技術の差がある。
とても甘い剣術だ。
強烈な力が込められていたとしても、受け止めて、衝撃を分散させることはできる。
「師匠、サンキュー! っていうか、あの斬撃を受け止めるとか、こんな時でも違いを見せつけられて、ちょっと凹みそう……」
「それは後にしてくれ。それよりも、気をつけろ。相手は……」
「切り札を隠し持っているかもしれない、でしょ? 大丈夫! あたしは、怒っているものの、油断なんかこれっぽっちもしていないわ」
アルティナは加速して、、さらにハイネとの距離を詰めた。
あと三歩でアルティナの剣が届く。
ハイネは焦りの表情を浮かべつつ、必死に迎撃の剣を繰り出していた。
ただ、それはアルティナに届かない。
彼女は華麗に避けて……
あるいは、俺が刃を放ち、相殺した。
あと二歩。
アルティナは剣の柄を強く握り、攻撃体勢に移行した。
その目は獣のように鋭い。
最後の一歩。
ダンッ! と、強く床を踏む。
そして、アルティナは全力て床を蹴り、加速した勢いを乗せて、強烈な剣撃を……
ザンッ!
「……え?」
斬られたのは……アルティナの方だった。
彼女は、信じられないという顔をして……
馬車にはねられたかのように吹き飛んで……
壁に激突して、力なく倒れる。
脇腹を斬られたらしく、血がじわじわとにじむ。
「アルティナっ!!!」
「だ……だい、じょうぶ……くぅっ」
よかった。
まだ意識は残っているみたいだ。
ただ、傷は深い。
早く手当てをしないと命に関わるかもしれない。
「師匠……気を、つけて。あいつの、剣……見え、なかった……」
「わかった……ポーションだ。そこで休んでいるように」
アルティナにポーションを渡して、今度は、俺がハイネと対峙する。
「今度こそ、貴様を排除しよう。栄光あるグルヴェイグ家に、貴様のようなゴミはいらぬ。私の汚れた過去を、今こそ精算するのだ」
「似たような意見だな。俺も、グルヴェイグ家はいらないよ」
家のことは、もうどうでもいい。
今はただ、過去に決着をつけるだけだ。
「終わりにしよう……兄さん」
【作者からのお願い】
「面白い」「長く続いてほしい」と思っていただけたら、是非ブックマーク登録をお願いします
また、広告下の『☆』評価で応援していただけると嬉しいです(率直な評価で構いません)。
皆様の応援が作品を続けるための大きなモチベーションとなりますので、よろしくお願いします!
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!




