51話 災厄の力
「あれは……災禍の種?」
アルティナが顔を青くしつつ、小さくつぶやいた。
「どういうことだ?」
「あたしもよくわからないけど……あいつがまとうオーラ、災禍の種に雰囲気が似ているわ。だいぶ薄いけど、でも、その性質はそっくり。もう一つ、持っていたみたいね」
「……よく気づいたな、小娘」
ハイネが誇るように言う。
「褒美だ。私の力の正体を教えてやろう……そう、災禍の種の力だよ」
「あんた、いったいなにをしたんだ?」
「災禍の種という宝を有効活用しただけだ」
ハイネ曰く……
災禍の種は危険なアイテムだけど、しかし、秘められた力はとても大きい。
その力を有効活用することをハイネは考えた。
そのために実験を繰り返して……
いくらかの実験の影響で、ドラゴンを招き寄せてしまうという事件が起きた。
スタンピードも発生してしまった。
しかし、それらは些細なこと。
この研究が完成すれば、人類は大きな恩恵を得ることができる。
「そして、研究は、八割方完成した! 結果、二つの力を生み出すことができたのだ……見よっ、これが災禍の種の力を組み込んだ武器、魔剣オートクレールだ! この魔剣があれば、人が人を超えることができる! 素晴らしいだろうっ、美しいだろうっ!?」
「あなたという人は……そんなくだらないことのために、街の人々を巻き込んだのか!? 下手をしたら、街が滅びていたかもしれないんだぞ!? そうでなくても、たくさんの人が傷つくようなことになっていたかもしれないのに……」
「ふん。私の役に立つことができるのだ。民として、これ以上の喜びはないだろう?」
「あー……師匠、あいつぶった切ってもいい? 本気でむかつくわ」
「奇遇だな、俺も同意見だ」
ハイネは、子供の頃しか知らないのだけど……
どうやら、昔以上に腐った性格になっていたようだ。
貴族は大きな力を持つ。
しかし、それは私利私欲のために使うものではない。
自分達を支えてくれる民のために使うべきなのだ。
貴族の務めは、民の剣となり盾となること。
そう、おじいちゃんに何度も何度も教えられてきた。
それなのにハイネは、己の欲望のために民を巻き込み、そのことになんら罪悪感を抱いていない。
むしろ、それが当たり前と思っている。
貴族である自分に尽くすべきと考えている。
許せるわけがない。
ないのだけど……
「……一応、聞いておく。この辺りで止めないか?」
「ほう、命乞いか?」
「違う。俺は、ただ……あなたを斬りたくないだけだ」
戦闘になれば手加減はできないだろう。
本気で戦い……
どちらかが命を落とすことになる可能性が高い。
もちろん、俺は負けるつもりはない。
ただ……
どうしようもないヤツだとしても、ハイネは兄だ。
血の繋がった家族なのだ。
それを、自らの手で消すようなことはしたくない。
「仲が良いなんてことはなくて、むしろ悪い。最悪だ。子供の頃だけで、それ以降、ほとんど付き合いはない。顔を合わせてすらいない。今頃の再会に驚いているくらいだ」
「そうだな」
「でも……それでも、俺達は家族だろう?」
隣のアルティナが驚いた顔をしていた。
そういえば、まだ俺とハイネの関係について説明していない。
後で、きちんと説明しないと。
ただ、口を挟むことなく、黙って様子を見てくれている。
「家族で殺し合いをするなんて、止めないか? これほど虚しいことはない」
「……そうだな。家族で殺し合いをすることは、とても愚かなことだ。虚しいだろう」
「なら……」
「しかし、貴様は家族などではないっ!」
ハイネから殺気が嵐のようにあふれた。
「私は、貴様を家族と認めたことなど一度もないわ! どうしようもない愚か者、なんの役にも立たないクズ。むしろ、グルヴェイグ家の血が流れていることに恥と嫌悪感を抱いていた!」
「……ハイネ……」
「なればこそ、これは好機! 私の人生の汚点を、今、ここで潰すことができるのだからな! あぁ、今日は素晴らしい日になりそうだ、はははははっ!!!」
ショックはない。
ただ、やはりこうなるか、という失望だけだ。
……ダメだ。
話が通じる相手じゃない。
「……仕方ない。なら、覚悟を決めるしかないか」
「師匠」
アルティナが隣に立つ。
「詳しい事情はわからないけど、あたしは、師匠の味方よ。その……家族のつもり。だから、一緒に戦わせてくれるわよね?」
「……ああ、もちろんだ。ありがとう、アルティナ」
彼女はとても頼もしくて。
そして、その優しい心に救われたような気がした。
「やるか」
「ええ、やってやるわ!」
俺とアルティナは、ほぼ同時に前に踏み出して、斬撃を繰り出した。
二人の息はぴったり。
二つの剣撃は一つのように重なり、数倍の威力となってハイネに襲いかかる。
しかし……
「舐めるなぁっ!!!」
ハイネの放つ一撃の方が強い。
俺達の同時攻撃はヤツに届くことなく、その手前でかき消されてしまう。
それだけではなくて、倍返しのカウンターが俺とアルティナに迫る。
「こんなもの……!」
「受けるなっ、避けろ!」
「っ!?」
とても嫌な予感がして、防ごうとしていたアルティナに叫んだ。
こういう時は直感に従うのが正しい。
俺は、ハイネの斬撃を避けて……
アルティナも回避に専念した。
ハイネの斬撃は壁を紙のように切り裂いて……
鉄が入っているはずの支柱も切断してみせた。
「なによ、今のでたらめな攻撃は!?」
「災禍の種の研究の成果……魔剣とやらの力なんだろうな」
「そう、その通りだ。この魔剣は素晴らしいぞ? どのような相手も虫のように叩き潰すことができる。ガイ……次は、お前だ!」
ハイネは暗い笑みを浮かべて、刃をこちらに突きつけてきた。
その表情は、勝利の確信を得ている感じで……
それと、昔見た、俺を虐げる時に浮かべていたいやらしい笑みと同じだった。
【作者からのお願い】
「面白い」「長く続いてほしい」と思っていただけたら、是非ブックマーク登録をお願いします
また、広告下の『☆』評価で応援していただけると嬉しいです(率直な評価で構いません)。
皆様の応援が作品を続けるための大きなモチベーションとなりますので、よろしくお願いします!
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!




