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50話 どうしようもない親子

「ば、バカな……この私が、出来損ないに負けるだと……!?」


 ハイネは現実を認められない様子で、悔しそうにうめいていた。

 ただ、刃を突きつけられているため動くことはできない。


「旦那様!?」

「お前達は動くな。動けば……わかるな?」

「……っ……」


 執事とメイドが足を止める。


 ……これ、完全に俺が悪役だな。


 まあ、いいか。

 悪役だろうとなんだろうと、問題の貴族がハイネと知った以上、俺が止めなければいけない。


 グルヴェイグ家の一員として……

 認められてはいないだろうけど、それでも、務めは務め。

 きちんと果たさなければいけないだろう。


「くっ……貴様は、なぜ、ここに来た? なにが目的だ?」

「あなたの企みを阻止するために」

「なっ……!?」

「最近、色々と企んでいるらしいな? アルスティーナ家に代わり、この街を治める領主になる……それが目的か?」

「……なにをバカな。そのようなこと、欠片も考えたことはない」


 さすがに、簡単に口を割るほどバカではないようだ。

 ただ、揺さぶるための証拠、情報はすでに手に入れた。


「災禍の種」

「……っ……」

「あんなものを所持して、どうするつもりだ? なにを企んでいる?」

「……なんのことだ? そのようなもの、私は知らぬ」

「それはおかしいな。この屋敷で見つけたが?」

「だから知らぬ!」

「なら、冒険者ギルド。それと、騎士団の捜査を受けてもらおうか。あれだけの物だ。入手経路はとても複雑だろうが、だからこそ記憶と記録に残りやすい。きちんと調べてもらい、身の潔白を証明してみせるといいさ」

「貴様っ、兄を売るつもりか!?」

「自業自得だ。ギルドや騎士団に手を伸ばしているらしいが、全てではないだろう? これだけの事件を起こしたとなれば、あなたを見限る連中も出てくるだろうな」

「くっ……!」


 ハイネは射殺すような目で睨みつけてきた。


 しかし、俺は動じることなく、次の質問へ移る。


「もう一つ尋ねるが……シグルーンというのは、あなたの息子か?」

「なに? 貴様、息子を知っているのか?」

「やはりか」


 グルヴェイグ姓なので、関係者だと思っていたが……

 ハイネの息子だったか。


 彼は、シグルーンの教育をきちんとしているのだろうか?

 なかなか酷いことになっていると思うが……たぶん、気にしていないのだろうな。


「そうかっ、そういうことか! 私の可愛いシグルーンに恥をかかせたというおっさんは、ガイ、貴様のことか!」

「恥というが、彼の自業自得な気はするな」

「くっ、愚弟ごときが……!」

「たぶん、彼も一連の事件に関わっているんだろう? おとなしく裁きを受けるといい」

「この……出来損ないがぁっ!!! この私に指図をするなっ、愚か者め!!!」


 激怒したハイネは獣のように吠えた。

 同時に烈風が吹き荒れて、部屋の中の物が飛ばされる。


「なんだ……!?」


 魔法だろうか?

 しかし、詠唱をしていない。


 ハイネの攻撃の正体を掴むことができず、俺は、一度部屋の外まで退却した。


 わりと強引な手段になってしまったけれど……

 可能なら、あのままハイネを拘束。

 後をセリスに引き継いでもらう、という方法を取りたかったのだけど、そう簡単にはいかないようだ。


「旦那様、それは……!?」

「いけません、おやめください!」


 部屋の中から慌てた声が聞こえてきた。

 執事とメイドが、必死にハイネを諌めているようだけど……なんだ?


「グルヴェイグ家の恥晒し……クズめ。この私が直々に掃除をしてやろう」


 ハイネが姿を見せるが、その様子は一変していた。


 だらしのない体をしていたはずなのに、今は、歴戦の戦士のように鍛え上げられている。

 獣のような激しい気迫をまとい、触れるもの全て切り刻むかのようだ。

 そして、右手に剣を握り締めていた。


「なんだ……?」


 真の実力を隠していた?


 いや。

 だとしても、体型まで変えるのは不可能だ。


 ハイネの変貌が理解できない。


「死ねぇいっ!」

「っ……!?」


 転移したかと思うように、ハイネが一瞬で目の前に。

 そのまま、音を超えるような斬撃を繰り出してくる。


 まるで見えない。

 ありえない速度に動揺してしまうものの、体は勝手に動いていた。

 毎日の鍛錬のおかげで、無意識に剣を動かすことができた。


 刃を斜めに。

 ハイネが繰り出した斬撃を刃に沿わせて、滑らせるようにして逸らす。


 そして、反撃の蹴撃。

 防がれてしまうものの、構うことなく、そのままハイネを強く蹴りつけた。

 その反動で後ろに跳んで、もう一度、距離を取る。


「ちっ、ネズミのようにちょろちょろと」

「その力はなんだ? なにをした?」

「貴様のようなグズには理解はできぬ!」


 ハイネが再び突撃を……


「あたしの師匠を……バカにするんじゃないわよ!!!」

「がっ!?」


 横から跳んできたアルティナが、ハイネを思い切り蹴り飛ばした。

 ハイネは大きく吹き飛んで、そのまま階段を転がり落ちる。


「アルティナ!? どうして……」

「大丈夫! アレなら、ちゃんと騎士団に預けてきたわ。それで、師匠が心配だからダッシュで戻ってきた!」

「それならいいんだけど……ずいぶん早かったな?」

「そりゃもう。師匠のために、全速力で駆け抜けてきたわ。それで、師匠に褒めてもらおうと、えへへ……っていうか、あの気持ち悪いヤツは誰?」

「事件の黒幕だな」

「なるほどね。なら、あいつをぶちのめせば解決ってこと。わかりやすくていいわ。ただ……そう簡単にはいかないかも」


 アルティナは剣を構えて、ハイネが吹き飛んだ方を見る。


 ズンズン、という床を強く踏みしめる足音。

 怒りの形相のハイネが現れた。


 かなり強烈な一撃を受けて……

 その上で、階段から派手に転がり落ちたはずなのに、大して負傷していないように見える。

 というか、ノーダメージ?


 こいつ、化け物か?


 幼い頃のハイネは、運動は得意ではあったものの、ここまで人間離れした能力は持っていなかったはずだ。

 ならば、この数十年の間に鍛えた?


 ありえない。

 さっきの体を見れば、鍛えていないことは明白だ。


「ネズミが一匹、増えたか……まあいい。どちらにしても殺すだけだ」


 ハイネは鋭く言い放ち、剣を構える。


 その刃から黒いオーラが放出された。

 それは、夜の闇を凝縮したかのようで……

 悪意をまとめあげたかのようで……


 見ているだけで背中が震えてしまいそうだ。


「あれは……災禍の種?」

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