5話 冒険者登録
家は山奥のさらに山奥。
街まで歩いて一ヶ月。
じいちゃんの代わりに街へ買い出しに出ていたから、特に迷うことはなく街へ辿り着いた。
「えっと、冒険者ギルドは……お、あそこだな」
剣と盾の紋章を掲げた建物。
冒険者に依頼を斡旋、仲介して、また、様々なサポートを行う。
それが冒険者ギルドだ。
中に入ると、途端に賑やかになる。
たくさんの冒険者。
彼らの依頼などを捌いていく受付嬢。
「おぉ」
これが冒険者。
冒険者ギルド。
いい歳をしておいてなんだけど、わくわくしてくるな。
「次の方、どうぞ」
俺の番になったようだ。
受付嬢のところへ向かう。
「ようこそ、エストランテ冒険者支部へ」
エストランテはこの街の名前だ。
広くもなく狭くもなく、都会でもなく田舎でもなく……そんな普通の街。
「ギルドに対する依頼の発行でしょうか?」
「あ、いや……実は、少し聞きたいことがあるんだ」
「はい、なんでしょうか? なんなりとお聞きください」
「えっと……冒険者になりたいのだけど、どうすればいいのか教えてくれないかな?」
「えっ」
受付嬢は目を大きくして驚いた。
「どうかしたかな?」
「えっと……その、あなたが冒険者登録を?」
「ああ、そうだ」
「そう、ですか……」
「? ……もしかして、冒険者になるには特別な資格が必要とか?」
「いえ、そういうわけではありませんが……その、すみません。今からとても失礼なことを言いますが、その……大丈夫なのかな、と」
そう言う受付嬢は、心配そうにこちらを見る。
バカにするわけではなくて、下に見るわけでもなくて。
ただただ単純に俺の身を案じてくれているようだ。
受付嬢は、二十くらいだろうか?
亜麻色の髪は肩で切り揃えている。
スタイルはよく、女性の魅力にあふれていた。
彼女に声をかけられたとしたら、大抵の男性は鼻の下を伸ばすだろう。
そんな受付嬢は、見た目だけではなくて心も綺麗なようだ。
「心配してくれてありがとう。やはり、冒険者というのは難しいものなのかい?」
「そうですね……間違えても安全で楽と言うことはできません。戦闘が目的ではない採取依頼だとしても、魔物と遭遇することがあります。討伐依頼なら戦闘は避けられません。護衛依頼も同じです。もちろん、依頼によって難易度は異なりますが、大半の依頼が戦闘とセットになってしまいます。なので……」
「それなりの腕がないと死んでしまうかもしれない、ということか」
「はい……その、すみません」
「謝ることはないさ。むしろ、心配してくれてありがとう」
「いえ、そんな……!」
受付嬢は、こちらをじっと見る。
それから、ふんわりと微笑む。
「私、リリーナっていいます。あなたは?」
「俺かい? 俺は、ガイっていうんだ」
「ガイさんですね。では、ガイさんの冒険者登録をさせていただきますね」
「いいのかい?」
「はい。本当はちょっと心配ですけど……でも、冒険者登録は一定の年齢以上なら、無条件で可能です。下限はともかく、上限は定められていません。ここで断るようなことをしたら、私は、受付嬢失格です」
「……リリーナさん……」
「あ。ただし、最低のGランクからですよ? Gランクなら、よほどの無茶をしない限り危険はないと思いますが……それでも、気をつけてくださいね? 私、ガイさんが怪我をしたりするの、嫌ですから」
リリーナ嬢の真摯な想いを感じた。
出会ったばかりの俺のことをここまで心配してくれる。
とても嬉しく、そして、その気持ちを絶対に裏切ることはできないと思った。
「わかった、約束するよ。絶対に無茶はしない」
「はい、約束です」
リリーナ嬢がにっこりと笑う。
俺も笑みを返した。
「まあ、もういい歳なのであまり体も動かず、無茶もできないけどね」
「えっと……」
しまった、不発だ。
自虐ギャグだったのだけど、恥ずかしい。
「き、気にしないでくれ」
「は、はあ。えっと……では、ここをこうして……それと、ここは……あ、ガイさんのフルネームを教えてください」
「ガイ……グルヴェイグだ」
少し迷ったが、本名を名乗ることにした。
後で偽称がバレて問題になっても厄介だ。
「ガイ・グルヴェイグ……ですね? では、ここはこうで……最後に魔導具で特殊な印刷を施して……はい、これで完了です」
リリーナが手の平サイズのカードを差し出してきた。
「これが、ガイさんの冒険者証明証となります。依頼を請ける時や報告の際、必要になりますので、決してなくさないでくださいね? 初回は無料ですが、二度目の発行はお金をいただくことになるので」
「それじゃあ……」
「はい。冒険者登録、完了です」
「そっか……これで、俺も冒険者か……」
カードを受け取る。
手の平サイズの冒険者証明証。
でも、今は、それがとても重く感じられた。
「よし、がんばろう」
「はいっ、がんばってください!」
リリーナの応援は俺に元気を与えてくれる。
冒険者として良いスタートを切ることができそうだ。
……なんて、そう思っていたのだけど。
「おいおい、おっさんが冒険者になるとか冗談だろ?」
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