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47話 筋違いの復讐

「くっ、くくく……!」


 グルヴェイグ家、シグルーンの部屋。


 シグルーンは暗い笑顔を浮かべて、とある剣を手にしていた。

 ゆっくりと鞘から抜くと、漆黒の刀身が現れる。

 不気味なほどの黒で、一切の光を感じさせない。


 魔剣グラム。


 持ち主に不幸をもたらすという、いわくつきの剣だ。


 しかし、その威力は抜群。

 鉄でさえ紙のように斬ることができる。


「そうだ、この力さえあれば、僕は……!」


 シグルーンは勇者だ。

 敬われるべき存在であり、誰もが頭を下げなければならない。


 それなのに、ガイはなにをした?

 ギルドマスターはなにをした?


 いたずらの過ぎる子供をたしなめるように説教をした。

 それどころか、逆らい、刃を向けてきた。

 一度だけではなく、二度も。


 愚かの極みだ。


 故に、シグルーンはガイを断罪することにした。

 勇者に刃を向けた罪は重い。

 また、無知であることも罪だ。


 ガイを叩き潰して、己の分をわきまえさせて……

 それから、アルティナを手に入れる。


 なにやらガイを師匠と慕っているが、なにかの間違いだろう。

 ガイが卑怯な手を使い、アルティナを騙しているに違いない。


「そのために、父上に頼み、この剣を手に入れてもらったのだ。今度こそ、僕は負けない……! そうだ、あのようなおっさんに負けるはずがない、負けるわけがないんだ!」


 街の皆はガイを讃える。

 ギルドマスターですら、ガイを認めていた。


 なぜだ?

 なぜ、そのようなことになる?


 自分は勇者だ。

 対するガイは、駆け出しの冒険者で、冴えないおっさんだ。


 どちらが優れている存在なのか?

 考えるまでもない。

 一目でわかるだろう。


 それなのに……


「ちっ……クソが!」


 最近の出来事を思い返して、シグルーンは声を荒げた。

 そして、近くの花瓶を床に叩きつけて、ブーツで何度も何度も踏みつける。


 突然の発作のような行動に、部屋の端に控えていたメイドがびくりと震えた。


「くそぉっ!!!」


 敗北がシグルーンの心を蝕み、プライドをズタズタに傷つけていく。


 とても平静ではいられず、物に当たり散らす。

 それでも気が晴れることはなくて、むしろ逆に、鬱憤だけが積み重なっていく。


「このままで……終わってたまるものか!」


 シグルーンは怒りの形相でつぶやいた。


 ガイに借りを返す。

 今度こそ、絶対に彼を屈服させてみせる。


 いや、それだけでは足りない。

 傷つけられたプライドが元に戻ることはない。


「……そうだ、殺そう。殺せばいいんだ。ははは……殺してやるぞ、ガイ」


 シグルーンの中で暗い炎が燃え上がる。


「……その前に」

「ひっ」


 シグルーンの視線がメイドに向いた。


「少し、ストレス発散をするか。本番の前の準備運動といったところかな?」

「あっ、や……や、やめてください、どうか……」

「うるさいっ、黙れ! お前は、勇者である僕のものだ! グルヴェイグ家の長男である、僕のものだ! ならば、素直に言うことを聞け!」


 シグルーンはニヤリと下卑た笑みを浮かべて、メイドをベッドに押し倒した……




――――――――――




「師匠、この部屋が怪しいわ」

「なぜ?」

「見て。この部屋だけ鍵が三重にかけられているのよ。他の部屋は鍵がないのが基本。あったとしても、せいぜい一つよ」


 言われて見てみると、確かに鍵穴が三つあった。

 覗き込んでみると、それぞれ形状が違うのがわかる。


 アルティナの言う通り、ここまで厳重に管理されている部屋は他にない。


「調べてみるか」

「じゃあ、まずは鍵を探しましょう。ここは手分けをして……」

「あ、鍵ならもう斬ったぞ」

「……」


 アルティナがとても複雑そうな顔をした。


「普通、こういう鍵は魔法も組み込まれていて、物理的な破壊は困難なはずなんだけど……いえ、いいわ。師匠に一般常識を説くなんて、馬に言葉を教えるようなものだものね」

「い、言いたい放題だな……?」

「それくらい非常識なことをしている、っていうことをそろそろ自覚して」


 アルティナも、師匠に対する接し方がそれで正しいのか、ちょっと考えてほしい。


「まあ、いいか。行こう」

「ええ」


 アルティナと一緒に部屋に入る。


「ここは……倉庫か?」


 窓のない小さな部屋だ。

 壁一面に棚が取り付けられていて、さらに奥に金庫が見えた。


「宝物庫かもしれないわね」

「なんか、盗賊になった気分だな……」

「今更よ。あたしは棚を調べるから、師匠は金庫をお願い」

「おいおい、暗証番号なんて知らないぞ」

「斬ればいいじゃない」


 あっさりと言ってくれるな。

 まあ、たぶん、できるけど。


「……ふっ!」


 剣を走らせて、金庫の鍵を斬る。

 成功だ。

 問題なく金庫を開くことができた。


「金貨、宝石、権利証……ふむ」


 こちらは、文字通りの金庫かな?

 一応、権利証も目を通してみるが、おかしなところはないようだ。


「悪事の証拠、っていうほどではないか。アルティナ、そっちはどうだ?」

「……」

「アルティナ?」

「え? あっ……ごめん。ちょっと驚いてて……これを見て、師匠」


 アルティナは、棚に隠されていた宝石を取り出した。


 いや……これは宝石なのか?

 夜の闇を凝縮したかのような黒で、禍々しい気配をまとう。

 じっと見ていると背中が震えてしまいそうだ。


「これは……?」

「災禍の種、って呼ばれている、一級品の呪いのアイテムよ」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 師匠・アルテナ組は敵さん無視の無双ぶり大いに結構~このまましグルーんも切りましょうか! [一言] シグルーん出た~(笑い) しグルーん死刑!
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