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46話 潜入調査

 セリスとの話を終えた後、俺とアルティナは、さっそくグルヴェイグ家の屋敷に向かった。


「……ここか」


 アルティーナ家と同じか、それ以上に大きな屋敷が見えた。


 ただ、アルスティーナ家と違い、こちらの屋敷は『華』がない。


 屋敷は、侵入者を防止する無骨な塀に囲まれている。

 四隅に見張り台があり、固定魔法砲台が設置されていた。


 さらに、屋敷の中と外。

 ありとあらゆるところに警備の兵士が巡回しているのが見える。


「すごい警備だな」

「なによこれ、まるで要塞じゃない……こんなの、どうやって気づかれずに侵入すれば……」

「ん? それは、そこまで難しくないだろう?」

「は?」


 なにを言っているんだ? という感じで、アルティナがぽかーんとなる。

 そんな彼女を手招きして、屋敷の裏手に移動した。


 裏手も警備は厳重だ。

 うさぎ一匹通さないという感じで、武器を持つ兵士達が目を光らせている。


「これを突破するのが、どう難しくないのよ? 強引にいくの? それならできるだろうけど、大騒ぎになるわよ?」

「まあ、見ていてくれ」


 アイスコフィンを抜いた。


「まさか、本当に強行突破するつもり……?」

「それこそ、まさか、だよ」


 見たところ、兵士達の練度はそんなに高くない。

 大した隠密術を得ていない俺達を見つけられないのだから、ほどほどに、というレベルなのだろう。

 おっさんの俺でも倒せるだろう。


 が、そんなことをしたら、アルティナの言う通り大騒ぎになってしまう。

 潜入調査どころではなくなってしまう。


「って……師匠の隠密術、けっこうおかしいレベルなんだけど。隣りにいるあたしでさえ、気を抜くと師匠が消えたような感じがしちゃうし……どこで身につけたのよ?」

「獲物を狩る時に、気づかれないように色々とがんばったことがあるから、そのおかげだろうか?」

「野生動物の感覚をごまかしていたわけ……? と、とんでもないわね……普通、野生動物の感覚は、私達、人間の数百倍、数千倍はあるって言われているのに……ありえないわ」

「できたものはできたからなあ……」

「どうやって?」

「……なんとなく?」

「師匠に論理的な説明を求めたあたしがばかだったわ」


 呆れなくてもいいだろう。


「それで、どうするつもり? これ以上進めば、得意の隠密もさすがに意味を成さないわ」

「わかっているよ。だから、光を斬る」

「へ?」


 アイスコフィンを鞘に戻した。


 剣の柄に手をかけたまま。

 右足を前に、体は前傾姿勢。


 集中。

 集中。

 集中。


 そして、溜め込んだものを一気に解き放つ。


「ふっ!」


 一閃。


 剣の軌跡に従い、光が吸い込まれていく。

 夜の闇が周囲を満たして、全ての視界を奪う。


「なっ……い、いきなりなにも見えなくなって……師匠、なにをしたの?」

「だから、光を斬ったんだよ」

「そんな当然のように言われても……意味不明なんですけど」

「空間を斬ることで周囲の光景を歪めて、この辺り一帯を夜の闇で満たす。まあ、月が雲に隠れるのと同じ感じだ。簡単だろう?」

「とんでもなく難しいわよ。ハチャメチャよ、滅茶苦茶よ。そんなことができる人、剣聖でも聞いたことないわよ」


 むぅ?

 おじいちゃんは、わりと当たり前のようにやっていたのだけど……ひょっとして、俺の方がおかしいのだろうか?


「まあ、そういう話は後にして……今のうちに行こう。一時的に光を斬っただけだから、時間が経てば元通りになる」

「ま、待って。こんなに真っ暗だと、なにも見えないんだけど……」

「大丈夫。俺は見えるから」

「……なんで?」

「田舎は、これくらいの暗闇が当たり前だったからな。もう慣れているよ」

「師匠の規格外って、野生から来ているのかしら……? 野生パワー?」

「ほら、いくぞ」

「ひゃっ」


 アルティナの手を掴み、前に進む。


「あ、あの、師匠? いきなり手を繋ぐなんて……」

「俺が誘導する」

「そ、そう……えへへ♪ 思わぬ形でラッキー、今日は運が良さそうだから、絶対に成功するわね」

「どうして、運が良いと思うんだ?」

「秘密♪」


 なぜかわからないが、とてもごきげんな様子のアルティナだった。




――――――――――




 大きなトラブルはなく、無事、屋敷内に潜入することができた。


 そして、各部屋の探索を進めていく。


 屋敷内を巡回する兵士は少ない。

 たぶん、家の中でまで兵士なんて見たくないと、追い出しているのだろう。

 それと、外の厳重な警備があれば問題ないと、油断もしているのだろう。


「……よし、ここまでは順調だな。まだ証拠は見つけられていないが、いくつかの部屋で、そこそこ大事そうなものを見つけることができた」

「まあ、順調いえば順調だけど……」

「どうしたんだ?」

「十メートル以上離れたところから、剣圧で意識を刈り取ったり。気配を斬るとか言って、あたし達の存在感を消したり。魔法で施錠された扉を物理で叩き切るとか。他にも色々と……ああもう。どうして師匠は、そんなに無茶苦茶なの?」

「……そこまでなのか?」

「そこまでよ」

「むぅ」


 俺は、しがないおっさんのはずなのだけど……

 もしかして、少しは誇れるほどの力を持っているのだろうか?

 素振りを続けてきたおかげだろうか?


「俺がそこそこ強いとしたら」

「そこそこ、じゃなくて、ばかばかしいくらいに、よ」


 どういう評価だ、それ……?


「それは、おじいちゃんのおかげかな?」

「師匠の師匠よね。たまに話を聞くけど、その人もとんでもなさそう」

「そうだな、とんでもなかったよ」


 おじいちゃんのことを思い返した。


 とても優しい人で……

 そして、恐ろしく強い人だった。


 おじいちゃんに剣を教わったものの、結局、俺は一度も勝てなかった。

 おじいちゃんが歳を取り、次第に衰えていった時でさえ、一本を取ることができなかった。


「俺にとっておじいちゃんは、超えるべき目標であり憧れであり……絶対的な壁だったよ」

「師匠にそこまで言わせるなんて、相当なのね」

「本当にすごい人だったよ。ただ……もう、どうやっても乗り越えることはできないけどな」

「……師匠……」

「すまない、しんみりさせるつもりじゃなかったんだ」

「ううん、あたしの方こそ、ごめん。自分で聞いておいて……ねえ、師匠。今度、おじいさんの話をもっと聞かせてくれない?」

「ああ、もちろんだ」

「約束よ♪」


 俺は、剣だけではなくて、他にも色々なものをおじいちゃんから受け継いだ。


 ならば今度は、アルティナにそれを教えよう。

 それが、師匠である俺の役目だろう。

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[一言] 今回の話で主人公が人間では無い何かという事が分かった。流石に光が届かない中で視認できるのは人間の想像を軽く超えてるわw もうこの主人公が「この世界の物理法則を切った」とか言ってブラックホール…
[一言] 暗いと光がないのって別だから斬って本当に光がないならなにも見えないと思うけど……
[一言] 師匠とあの腐れ貴族がつながっていようとは・・・ あの問題児はどうなってるやら・・
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