44話 セリスからの依頼、再び
「うー……頭痛い」
「だから飲み過ぎには注意しろと言ったのに」
翌日。
アルティナは青い顔をして、時折、顔をしかめていた。
完全な二日酔いだ。
「ほら、薬だ」
「ありがとう、師匠……でも、いつの間に薬なんて?」
「こうなるかな、と思って、今朝、調合しておいた」
「えっ。師匠、薬の調合もできるの!?」
「簡単なものだけどな。ちょっと前までは、自給自足に近い生活を送っていたから」
「二日酔いの薬って、決して素人が作れるような簡単なものじゃないんだけど……ま、いいか。師匠だし」
その納得の仕方に納得がいかない。
「失礼します」
アルティナが薬を飲んだところで、宿の部屋の扉がノックされた。
とても丁寧なノックだ。
「はい?」
扉を開けると、執事が。
「えっと……ああ。あなたは、セリスに仕えている」
「覚えていてくださり、光栄です」
「なぜ、このようなところに?」
「朝から突然の訪問、申しわけありません。そして、不躾なお願いをしてしまうことを先に謝罪いたします。どうか、お嬢様に再び力を貸していただけないでしょうか?」
――――――――――
身支度を整えた後、俺とアルティナは、再びアルスティーナ家に赴いた。
すぐに客室に案内されて、セリスと再会する。
昨日、軽く挨拶をしたが……うん。
元気そうでなによりだ。
「突然のお呼び出し、申しわけありません……」
「いいさ、俺とセリスの間柄だろう?」
「そう言っていただけると助かります」
「むっ」
セリスは嬉しそうに微笑む。
一方で、アルティナは不機嫌そうに眉をしかめた。
まだ頭が痛いのだろうか?
「本日は、ガイ様とアルティナさんにお願いがあります。私の個人的な依頼を請けていただけないでしょうか?」
さきほどの執事は席を外して、部屋にいるのは、俺とアルティナとセリスだけ。
それなりに信頼は得ているだろうが、それでも、これはおかしな話だ。
主を一人だけにするなんてこと、普通はありえない。
……それだけ大事な話ということか。
「聞こう」
「……師匠、いいの? 間違いなく面倒な話よ」
そっと、アルティナが耳打ちしてきた。
「……だからこそ、放っておけないだろう?」
「……まったく」
アルティナは苦笑して、俺から離れた。
任せる、ということなのだろう。
「個人的と言っていたけれど、その依頼は冒険者ギルドに出せないものなのかい?」
「……はい。その通りでございます」
「理由を聞いても?」
冒険者ギルドに出せない依頼……普通に考えると、犯罪が絡んでいるだろう。
ただ、セリスはそんな人間じゃない。
信じているが……しかし、なにも聞かずに受けることはできない。
信じているからこそ確認が必要なのだ。
それすらしないというのは、ただのバカである。
「……今回の依頼は、わたくしの『敵』を倒すための手がかりを得ること。しかし、『敵』はとても狡猾で、誰が味方で誰が敵なのかわかりません。もしかしたら……」
「ギルド内にスパイがいるかもしれない、と?」
「はい、その通りでございます」
「ふむ」
冒険者ギルドは公正で、そして正しくあらなければならない。
その理念が歪められた場合、冒険者はまともな活動をすることができなくなり……
極端な話かもしれないけど、最終的に、冒険者というシステムそのものが崩壊する可能性がある。
その正しさを無視するということは、セリスの言う『敵』は、彼女と同じ権力者なのだろう。
だからこそ、ギルドの正を捻じ曲げることが可能なのだろう。
「ギルドを信じることはできない。だからこそ、俺達に依頼をした」
「はい」
「なぜ、俺達を信じるのかな?」
アルティナは『剣聖』という称号を持つが……
それでも、世の中、悪いヤツはいる。
そして俺は、初心者の冒険者。
最近、街にやってきたばかりで素性はよくわからない。
セリスと色々な関わりを持つけれど……
それだけで信じるというのは、少々、軽率なような気がした。
セリスは不思議そうに言う。
「人を信じるのに、あれこれと複雑な理由がいるのですか?」
「……」
思わず言葉を失ってしまう。
「わたくしが信じられると思ったから信じる。それだけですわ」
「ぷっ」
アルティナが小さく笑う。
「師匠と同じようなこと、言ってるわね」
「そう……か?」
「そうよ。セリスと師匠は似た者同士ね」
「ふふ、嬉しいことです。それに、ガイ様はすでに、この街を二度も救いました。それだけの功績を立てている、というのも理由になりますね」
「あれは、皆でがんばったからで、別に俺一人の力というわけでは……」
「師匠の謙虚なところは好きだけど、謙虚すぎると嫌味になるわよ?」
「むぅ」
難しいな。
幼い頃、毎日のように俺という存在を否定され続けてきて……
そのせいで、自分などは、と思うことが当たり前になってしまった。
染み付いた癖のようなもので、なかなか治らない。
とはいえ、治す努力をしていかないといけないか。
「どうするの、師匠? とはいえ、あたしは、もう答えは出ていると思うけどね」
その通りだ。
答えは出ている、考えるまでもない。
「わかった、請けよう」
「本当ですか!?」
「ああ。アルティナも、それで大丈夫か?」
「問題ないわ」
「お二人共、ありがとうございます!」
けっこうなところまで追い詰められていたのだろう。
セリスは安堵した様子で……
涙も少し浮かべつつ、深く頭を下げた。
いったい、どんなトラブルに巻き込まれているのか?
今の時点では、まるで想像はつかないのだけど……
彼女のために全力でがんばろうと思う。
おっさんではあるものの……
おっさんなりの意地を見せてやらないとな。
まだまだ若い子には負けていられない。
「師匠、それ、ものすごくおっさんくさい」
「マジか」
でも、おっさんだからなあ……
「開き直らないで。師匠は、その……かっこいいんだから。いけおじを目指して、がんばってよ」
「いけおじ……?」
最近の若い子は、よくわからない言葉を使うな。
……と、思考もすっかりおっさんになっている俺だった。
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