43話 あまりにも酷い
「僕の冒険者資格を凍結するというのは、どういうつもりだ!?」
シグルーンの怒りの声がギルド内に響く。
心底怒っているらしく、その声は脳を揺さぶるほどだ。
しかし、ギルドマスターは動じない。
あくまでも冷静に、冷徹に、淡々と事実を告げていく。
「変異体を討伐する際、キミは手柄欲しさに独断専行した。その愚かな行為で、もしも作戦が失敗していたらどうするつもりだ? どう責任を取る?」
「変異体など、勇者である僕の敵ではないっ!!!」
「一撃でやられたというのに?」
「うぐっ……」
「実際に倒したのは……そこにいる、ガイ殿だ」
「なっ……貴様!?」
ようやく俺に気づいた様子で、シグルーンはこちらを睨みつけてきた。
「そうか、貴様だな!? この僕の功績を妬み、あらぬ嘘を吹き込み、ギルドマスターを抱き込んだのだろう!?」
「嘘というか……全て事実ではないか? キミは、オーガロードにならば圧倒していたが、オーガデビルを相手にした時、一撃でやられてしまったではないか。ああ、そうだ。生きていてよかった。もしかしたら死んでしまったのかもしれないと、心配していたんだ」
「うぐぅ……!?」
反射的に思ったことを告げてしまう。
その事実はシグルーンの中では黒歴史になったらしく、とても苦々しい表情になった。
「こっ、こここ、このおっさん如きが……!!! こ、この僕を、勇者である僕を、ここまでコケにするとは……!!!」
今にも殴りかからんばかりの怒りの形相だ。
はて?
彼は、なにをそこまで怒っているのだろう?
俺はただ、事実を告げただけなのだが。
剣士であるならば、己の不足を素直に認めることが大事だ。
そうして足りないところと向き合うことで、新しい力を得ることができる。
まあ、剣士に限った話ではないか。
故に、これは誰もが知る常識だと思うのだが……
「……つまり、そういうことだ」
再びギルドマスターが口を開いた。
「変異体の討伐において、キミは一切役に立っていない。それどころか、味方の足を引っ張る始末。あまりにも酷い」
「そ、それは、僕なりの考えが……!!!」
「黙れ」
「ひっ……!?」
ギルドマスターのドスの効いた低い声。
この場の空気が重くなり、数度、下がったような気がした。
その雰囲気に飲み込まれてしまい、シグルーンは声も出せない様子だ。
「本来ならば、永久追放としたい。そこを、キミの父親に免じて、一定期間の凍結にしたのだ。感謝こそすれ、恨まれるいわれはないな」
「だ、だが、しかしっ……」
「これ以上の問答は意味がない。そして、決定が覆ることはない」
「うっ……ぐぅううう!」
「資格の凍結は半年だ。その間、己を見つめ直すといい」
「……」
シグルーンは拳を強く握り、奥歯をギリギリと噛む。
ただ、ここで暴れるという愚はさすがに犯さないようだ。
「そうだな……半年の間、そこのガイ殿に師事するというのはどうだ?」
「はぁ!?」
「えっ」
俺とシグルーンの驚きの声が重なる。
「ガイ殿の元ならば、体だけではなくて心も鍛え直してくれるだろう。彼は、それだけの力と大きな器を持つ男だ。私も期待している」
「なっ、なっ……」
「彼ならば、次のギルドマスターにふさわしいかもな。どうだろう? 突然の話ではあるが、考えてくれないか?」
「えっ、いや、その……さすがにいきなりすぎるので」
「ふむ……それもそうか。まあ、私もすぐに辞めるつもりはない。ゆっくりと考えて……」
「ふざけるなぁっ!!!」
再びシグルーンの怒りが爆発した。
「なぜっ、この勇者である僕がっ、おっさんなんかに師事しないといけない!!!?」
「キミの実力がそれだけ不足している、ということだ」
「ぐっ、ぎぃ……!!!」
止めてくれ。
ギルドマスターがなにか言う度に、俺が睨まれているのだが……?
「キミはどう思う?」
「え? いや、確かに鍛錬は足りていないように見えるが……」
「きっ、貴様まで僕を愚弄するかっ!!!?」
「事実だろう? 先日の決闘も、聞けば、キミは本気だったというし……『勇者』だというのならば、もっと強く、心も鍛えておくべきで……あっ」
しまった。
突然、話を振られたものだから、ついついバカ正直に答えてしまった。
言い過ぎということは、さすがに理解できる。
フォローをしなければ。
「いや、すまない。少し言い過ぎたようだ。キミは、勇者としてがんばっているだろう。輝かしい偉業を成し遂げていると思う。そう、具体的に言うと……具体的に……言うと?」
どうしよう。
まったく思い浮かばないぞ?
「……むぅ、褒めるというのは難しいな」
「貴様は、本当にどこまで僕をコケにすれば気が済むんだぁっ!!!」
「いや、そのようなつもりは……ただ、俺は嘘を吐くのが苦手なんだ」
「やはりコケにしているじゃないかっ、ちくしょう!!!」
まいったな。
余計な恨みは買いたくないのだけど、これはもう……手遅れかもしれない。
「覚悟しておけ! この僕にこのようなことをして、タダで済むと思うな! ギルドマスターだとしても、容赦はしない。そこのおっさんも同罪だっ、必ず後悔させてやる!!!」
怒りに任せて言い放ち、シグルーンは荒々しく扉を閉めて出ていった。
やれやれ……
厄介なことにならないといいが、どうなるか?
――――――――――
「……と、いうわけなんだ!」
「ふむ」
とある屋敷の一室。
そこにシグルーンの姿があった。
話をしている相手は彼によく似た男性で、綺麗な服を身に着けている。
「とても酷く、そして愚かな話だと思わないかい!? この僕を、勇者である僕の冒険者資格を凍結するなんて!」
「確かに、とてもではないが見逃せない話だな」
「だろう!?」
同意を得たことで、シグルーンは嬉しそうな笑顔になる。
それから、いかに自分が有能であるか。
いかにギルドマスターが愚かであるかを語る。
思うところを一通り言葉にしたところで、
「……よし、わかった」
男は、一つ頷いた。
「なんとかしよう」
「本当かい!?」
「このような状況を放っておくわけにはいかない……貴族として、平民ごときに舐められるわけにはいかないからな。それに……未来の領主として、な」
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