41話 切り札
「ここまで来て、出し惜しみはしていられないな」
俺も、切り札を使うことにしよう。
「一つ、策がある」
「聞かせてもらえるだろうか?」
「ギルドマスターは、少し、時間を稼いでください。できますか?」
「わかった」
「アルティナは、とっておきの一撃を繰り出すために、力を溜めておいてくれ。ヤツの心臓を叩き潰してほしい」
「それはいいけど……でも、どうやって? ギルドマスターが言っていたように、ヤツの骨格を貫くことは相当に難しいわ」
「それは、俺がやる」
「でも……ううん。師匠がやるって言うなら、弟子のあたしは信じないとダメね。わかった、任せるわ」
「よし。それじゃあ……スタート」
静かに合図を出した。
同時に、ギルドマスターが駆けた。
再びオーガデビルの懐に潜り込み、自慢の格闘術を披露してみせる。
かなりの歳のはずなのに、一撃一撃が重く、速い。
さすがだ。
現役は退いたとはいえ、その実力は未だ衰えていない。
将来は、彼のような人になりたいものだ。
「すぅーーー……ふぅーーー……」
一方で、アルティナは剣を鞘に戻した。
呼吸を整えて、深く集中して、気を練る。
その姿を見ていると、ゾクッと背中が震える。
とんでもない力を感じるからだ。
彼女は本当に成長した。
きっと、すぐに俺を追い越すだろうな。
ただ……
今の関係はとても心地いいから、もう少しこのままで、とは願う。
だからこそ、俺は、やるべきことをやる。
真の本気を出す。
「こいつを外すのは、本当に久しぶりだな」
服をまくると、両手首と両足首にアンクルが見えてきた。
一つ10キロ。
四つで、計40キロ。
鍛錬のために、ずっと身につけていたものだ。
最初はまともに動くことはできず、地面に這いつくばるだけ。
それでも、何度も何度も挑戦しているうちに、どうにかこうにか動けるようになって……
今では、普通の生活を送ることができるように。
俺にとって当たり前のことになっていたため、すっかり忘れていたのだけど……
今こそ、この枷を外す時だろう。
「ただ、面倒なんだよな」
これはおじいちゃんにつけてもらったものだけど、特殊な構造をしているため、簡単に取り外すことができない。
パズルをするような感覚で、一つ一つ、時間をかけて外していくしかない。
そして、やっとアンクルを全て外すことができて……
ズンッ!!!
地面に落とすと、アンクルが深くめり込んだ。
うん?
おじいちゃんからは、一つ10キロと聞いていたが……
これ、明らかに10キロより重くないか?
「って、確認は後でいい!」
今は、オーガデビルに集中しないと。
俺は剣を抜いて、地面を蹴る。
瞬間……
ガッ……!!!
加速。
加速。
加速。
音が遅れて聞こえてきた。
そして、すれ違いざまにオーガデビルに一撃を叩き込み、腕を切り飛ばして、さらに胴体の深くまで刃を走らせた。
その上で、一瞬でヤツの背後に回り込む。
「「は?」」
なにやら、アルティナとギルドマスターが呆然としていた。
ただ、俺も驚いていた。
アンクルを外せば、今までよりも多少、速く力強く動けるようになると思っていたが……
予想以上だ。
体が羽のように軽い。
それだけじゃなくて、体の芯が温かくて、圧倒的な力が湧いてくる。
いいぞ。
これなら……
「いけるっ!!!」
再び地面を蹴る。
アイスコフィンを構えて……
空間全体を薙ぎ払うかのように、力強く振る。
オーガデビルは本能的に危機感を覚えたらしく、残った腕でガードしようとした。
しかし、その腕を切断する。
さらに宙で回転して、空気を『蹴る』。
そのまま、直上から踏み潰すかのような一撃。
オーガデビルの右肩にアイスコフィンを叩きつけた。
剣に込められた力が伝わり、そして、爆発。
ヤツの右腕は根本から吹き飛ぶ。
再生能力があるとしても、ここまでのダメージを負えば、すぐに動くことはできない。
オーガデビルはぐらりとその巨体をよろめかせて、地面に膝をついた。
追撃のチャンスだ。
続けて地面に着地した俺は、アイスコフィンを持つ手を後ろに引いて、矢を構えるような体勢に。
姿勢は低く。
それでいて、足に力を込める。
そして……
全身のバネを使い、爆発的な速度で突撃。
前に。
前に。
前に。
ただそれだけを思い駆け抜けていく。
そのまま、最適なタイミングで剣を振る。
一回、二回、三回、四回、五回……
今の俺にできる最大限の斬撃を瞬間的に繰り出す。
そのまま駆け抜けて……
そして、足を止める。
アイスコフィンについた血を払い、鞘へ。
納剣すると同時に、オーガデビルの頭部が細切れとなった。
再生する気配は……ない。
巨体は地面に沈み、あれほど濃密だった魔力が一気に薄れていく。
「よし」
「よし……じゃないわよ!!!? あたしの出番は!?」
「……あ」
「なんかもう、あたしのやる気を返せーーーーー!!!」
アルティナのなんともいえない叫び声が響き渡るのだった。
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