40話 真の姿
辺り一帯を震わせるかのように、オーガロードが吠えた。
咄嗟に耳を塞がなければ鼓膜が破れていたかもしれない。
「こいつは……!?」
今の咆哮がヤツの切り札……
ということはない。
むしろ、これからが本番なのだろう。
オーガロードは一回りも二回りも大きくなり、10メートルほどの巨人になっていた。
肌の色は漆黒に。
角は一本に減っていたが、天を貫くかのように大きく鋭いものに変化している。
オーガデビル。
半分、魔族の領域に足を突っ込んだ、とんでもない怪物だ。
なるほど……この変身がヤツの切り札というわけか。
シグルーンと戦っていた時、変異体は、まったく本気を出していなかったことになる。
突然、自分のところまでやってきた人間。
その力を測るために、力を温存していたのだろう。
「まずいな……」
オーガデビルは、ケルベロスと並ぶ……いや、それ以上の化け物だ。
伝説の存在で、過去、国を滅ぼしたこともあるらしい。
ヤツのヘイトはシグルーンに向けられているのに、それでも、放たれる圧に体が震えてしまいそうだ。
直接、オーガデビルの敵意を向けられたらどうなってしまうのだろうか?
とはいえ……
相手がなんであれ、負けるわけにはいかない。
俺達の背中には、エストランテの人々の命がかかっているんだ。
この剣は大事なものを守るために。
今こそ、おじいちゃんの教えを見せる時だ。
「アルティナ、いけるか?」
「ええ、問題ないわ」
「ギルドマスターは……」
「もちろん、戦おう」
ギルドマスターは手甲をつけた拳を構えた。
それが彼の戦闘スタイルなのだろう。
「おいっ、これは僕の獲物だ! 手を出すな!」
「そのようなことを言っている場合じゃあ……」
「ふんっ、手柄を横取りするつもりか? 平民はどこまでも卑しい……うぉおおおおおっ!?」
がしっ、とシグルーンが掴まれて。
ぐわっ、と投げ捨てられた。
木をいくらかなぎ倒しつつ、遥か遠くに飛ばされていく。
悲鳴が遠ざかり、聞こえなくなる。
「……彼は生きているだろうか?」
「虫みたいなものだから、しぶといわ。大丈夫」
かなり辛辣な評価だった。
やや哀れである。
「それよりも……あたし達は、こいつに集中しないと!」
「そうだな!」
オーガデビルのヘイトがこちらに向いた。
空を震わせるような咆哮を響かせつつ、拳を振る。
その拳は木をおもちゃのようになぎ倒して、地面を爆撃したかのように深く抉り、土砂を巻き上げる。
化け物、の一言に尽きるな。
「おぉおおおおおっ!!!」
最初にギルドマスターが突撃した。
素早い動きでオーガデビルの攻撃を避けて、懐に潜り込む。
拳撃と蹴撃のラッシュ。
一撃一撃に鉄の板を砕くほどの威力が込められているだろう。
ただ……
「ガァッ!!!」
オーガデビルは煩わしそうに吠えただけで、ダメージらしきダメージはない。
「ならば……」
「師匠!」
「ああ、いくぞ!」
ギルドマスターが注意を引きつけてくれている間に、俺とアルティナも前に出た。
「これでも……」
「喰らいなさいっ!!!」
オーガデビルの腕を狙い、アルティナと同時に斬撃を叩き込んだ。
ヤツの漆黒の皮膚は鉄のように硬いが、ケルベロスやドラゴンに比べるとまだマシだ。
きちんと刃が通り……
そして、アルティナとの同時攻撃で腕の半ばまでを切断することに成功した。
よし。
これで、オーガデビルの攻撃力は半減したようなもの。
このまま一気に畳み掛けていけば……って、ちょっと待て。
切断面から触手のようなものが無数に生えて、絡み合い、結合していく。
ほどなくして傷はなくなり、再生してしまう。
「ちょ……再生能力まであるなんて、反則じゃない……?」
「それならば……これはどうだ!?」
一度、剣を鞘に収めた。
前傾姿勢を取る。
深く、深く腰を落とす。
そして、集中。
力を溜めて。
気を練り。
最大限に達したところで、抜剣。
ザッ……!!!
空気を、音を斬る。
オーガデビルの腕を、今度は完全に切断した。
巨大な腕が地面に落ちて、ズンッという重い音が響く。
「うわっ……マジで? 師匠の剣って、やっぱりデタラメだわ……あはは」
「む、すさまじいな」
二人は感心してくれているが……
「……ダメか」
切断面から、再び無数の触手が生えた。
それらは絡み合い、再生してしまう。
「なんて再生力だ」
「無茶苦茶よ! こんなヤツ、いったい、どうやって倒せば……」
「再生力を上回るダメージを与えれば、あるいは……」
「そのダメージというのは、どれくらいですか?」
「……各部をバラバラにするほどだろうな。この場に魔法使いがいないのが痛い……すまない、采配ミスだ」
さすがにバラバラにするのは難しい。
「……なら、脳や心臓を狙うというのは?」
「それもアリだ。しかし、急所であるだけにガードは硬いだろう。おそらく、こちらの攻撃が届かないほどの強靭な骨などに囲まれているだろう。やはり、魔法使いがいれば……」
「ふむ」
ギルドマスターは痛恨の表情を浮かべているが……
まだ終わりというわけじゃない。
変異体が切り札を隠し持っていたように……
俺もまた、切り札を持つ。
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