表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/176

4話 街道をゆっくりと歩いて

 俺とおじいちゃんが暮らしていたところは、山奥の奥。

 街まで歩いて1ヶ月の場所だ。


「のんびりいくか」


 特に急ぐ必要はない。

 冒険者になりたいと思うものの、しかし、その後、成し遂げたい目標もない。


 人生と同じだ。

 焦ることなく、ゆっくりのんびりといこう。


 ……そんな感じで街道を歩いていく。


 辺境の中の辺境なので、あまり街道が整備されていない。

 伸びた草木をかきわけつつ、前に進む。


「うん?」

「ガル?」


 途中、狼と遭遇した。

 目と目が合う。


 餌になるつもりはない。

 俺は抜剣して……


「キャン……!!!?」


 なぜか、慌てた様子で狼が逃げていく。

 ひどく怯えた様子だ。


「あれ? どうしたんだ?」


 俺の後ろにさらなる大物がいて……というパターンを考えるものの、周囲に、俺以外誰もいない。

 別の動物も魔物もいない。


 まさか、俺に怯えたわけでもあるまいし……


「ふむ。突然の遭遇だったから、驚いたのだろうか?」


 臆病な狼でよかった。

 安堵しつつ、先を進む。


「ギャン!?」

「オォ!?!?」

「グルァ!?!?!?」


 再び狼と遭遇して、しかし逃げて。

 続いて熊と遭遇して、やはりというか、向こうが慌てた様子で必死で逃げて。

 挙げ句の果てに魔物と遭遇するのだけど、ひどく驚いた様子で、同じく逃げていく。

 まるで化け物を見たような反応だ。


 はて?


 出会う獣、魔物、全て逃げていくのだけど、どういうことだろう?

 いきなり遭遇した……から?

 獣はともかく、魔物は問答無用で襲ってくるはずなんだけど……うーん。


 意外と臆病な個体が多いのかもしれないな。

 この辺は人間が姿を見せることはほぼほぼないから、それで驚いているのかも。


「ラッキーだな……うん?」


 さらに道を進むと、喧騒が聞こえてきた。

 何事かと進路を変更すると、馬車が魔物の群れに襲われている。


 あの魔物は……確か、オーガだ。

 おじいちゃんに教えてもらったことがある。


 高い知能はないものの、強靭な肉体を持ち、攻撃力と防御力、共に優れている厄介な魔物だ。

 しかも群れで行動するため、旅の商人などが被害に遭うことが多い。


 おっさんである俺になにができるかわからない。

 でも、魔物に襲われている人を見捨てるなんてこと、できない。


 俺は剣の柄に手を伸ばして、駆け出した。




――――――――――




「怯むなっ、押し返せ! 連中は優れた能力を持つが、知性は高くない。連携を取り、一体ずつ、確実に仕留めていくんだ!」

「し、しかし、数の差があまりにも……ぐっ!?」

「おいっ、よそ見するな! 敵だけを見ろ!」


 馬車の窓から外を見ると、必死に戦う護衛の兵士の姿が見えた。


 選ばれた精鋭と聞いているが、しかし、相手が悪い。

 オーガの群れを相手にするとなると、圧倒的に数が足りない。


「……っ……」


 馬車の中の少女は顔を青くした。


 護衛の兵士が倒されてしまうのは時間の問題。

 そして、彼らに守られている自分が魔物の慰み物になってしまうことも時間の問題だ。


 自分は誇り高き貴族令嬢。

 そのような結末を迎えるくらいならば、その前に、自ら命を断とう。


 少女は震える手で、いざという時のための短剣を取り出した。


 敵に抗うための武器であり……

 そして、魂を汚されないための自害用だ。


 少女は短剣を抜いた。

 震える刃を喉に向けて、目を閉じる。


「お父様、お母様……申しわけありません……」


 短剣を持つ手に力を込めて……


「グァアアア!?」

「ギャグゥ!?」


 その時、馬車の外から魔物の悲鳴が聞こえてきた。

 驚き、びくりと震えて短剣を落としてしまう。


「えっ、えっ……いったい、なにが……?」


 少女は、恐る恐る窓の外を見る。


 護衛の兵士ではない、見知らぬ男がいた。

 太陽のように温かく、しかし、刃のように鋭い気配をまとっている。


「ふっ!」


 男が繰り出した剣撃は、護衛の兵士達があれほど苦戦していた魔物を一刀両断した。

 数の差があるとはいえ、後手後手に回り、防戦一方になっていたというのに……

 男は、いともたやすく魔物を屠る。


「ガガッ!?」

「ギィアアア!!!」


 突然の乱入者に、魔物達も驚きを見せていた。

 そして、仲間をやられた怒りに吠えて、男に飛びかかる。


「危ない!」


 護衛の兵士の誰かが叫ぶ。

 しかし、それは的はずれなものとなる。


 オーガの攻撃が男に届くことはない。

 それよりも先に、神速の斬撃がオーガを死にいたらしめていた。


 一撃で、まとめて三体のオーガを叩き切り。

 背後から襲いかかられたとしても、後ろに目がついているかのように華麗に回避してみせて。

 そして、さらに三体、まとめて両断する。


 神業というべき力だ。

 ベテランの冒険者、あるいは騎士団長だとしても、ここまでのことはできないだろう。

 あまりにも無茶苦茶な実力に、護衛の兵士達は己の成すべきことを忘れて、ぼーっと戦いを見てしまう。


「ガァアアアアアッ!!!」


 一際強烈な咆哮が響き渡る。


 他の個体の数倍は大きく、手足は丸太のように太い。

 オーガの上位種。

 たった一匹で街を壊滅させてしまうという、災厄級の魔物……オーガキングだ。


 巨人のごとき威圧感を放つオーガキングは、部下がやられたことに怒りを示していた。

 大木を削って作ったかのような巨大な棍棒を肩に担いで、突撃。

 男に強烈なタックルを見舞うのだけど……


「むっ」


 男は、小さくうめいただけで、重量級の大型馬車に匹敵するオーガキングの突撃を受け止めてみせた。

 ありえない。

 普通なら吹き飛ばされて、肉のミンチにされてしまうというのに。


 男は、剣を盾のように構えて、オーガキングの突撃を受け止めた。

 しかし、真正面から受け止めるのではなくて、剣をわずかに斜めにして、絶妙な具合に衝撃を逃している。

 その証拠に、男の足元は、逃した衝撃でヒビ割れている。


 咄嗟の判断で。

 瞬時の行動で。

 しかも、オーガキングという災厄級の魔物を相手に怯むことなく、実行してみせる。


 神業と表現しても過言ではない。


 この隙を狙い、皆で攻撃を叩き込めば倒せるのでは?

 護衛の兵士達は希望を抱くが……しかし、この後、さらに信じられない現実を目の当たりにする。


 男は剣の柄を握りつつ、一歩、前に出て……

 そして、なぜか体の力を抜いて、剣の柄から手を離した。


 なぜ?

 敵を目の前にして、戦いを放棄した?


 護衛の兵士達は混乱するが、すぐにその意味を理解した。


「……」


 オーガキングは断末魔の悲鳴をあげることもできず、その首を両断された。

 首が落ちて、続いて巨体が地面に倒れる。


 男は、誰にも見えないほどの神速の抜剣術を繰り出していたのだ。


「……すごい」


 男の活躍を見た少女は、本来なら馬車に留まらなければいけないのだけど、我慢できず、外に飛び出した。


「あ、あのっ……!」

「あぁ……大丈夫ですか? 邪魔になるかとも思ったのですが、そこそこ役に立てるのではないかと、思わず参戦したのですが……」

「い、いえっ! いえいえいえ! あなた様がいなければ、わたくしを含め、皆は……」

「はっはっは、そんな大げさな。みなさんのがんばりがあってこそ。おっさんである俺は、少し背中を押しただけですよ。おっさんだけにおっすん、って」

「え」

「あ、いや……と、とにかく、大したことはしていませんよ」

「そのようなことは……!」

「では、俺はこれで」

「あっ、お待ちください!」


 引き止めるものの、男はそのまま立ち去ってしまう。


 追いかけたい。

 名前を聞いて、心からの謝意を示したい。


 ただ、魔物の襲撃で受けた被害は大きい。

 男のおかげで死者はいないものの、早急に立て直しを図らないといけない。

 そうでなければ、二度目の襲撃は耐えられない。


 男の後を追いかけたい少女ではあったが、今は、ぐっと我慢した。


「……いつか、また会えますよね?」

【作者からのお願い】


「面白い」「長く続いてほしい」と思っていただけたら、是非ブックマーク登録をお願いします

また、広告下の『☆』評価で応援していただけると嬉しいです(率直な評価で構いません)。

皆様の応援が作品を続けるための大きなモチベーションとなりますので、よろしくお願いします!


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◇◆◇ 新作はじめました ◇◆◇
『追放された回復役、なぜか最前線で拳を振るいます』

――口の悪さで追放されたヒーラー。
でも実は、拳ひとつで魔物を吹き飛ばす最強だった!?

ざまぁ・スカッと・無双好きの方にオススメです!

https://ncode.syosetu.com/n8290ko/

GAノベル様から書籍1巻、発売中です! コミカライズ企画も進行中! こちらもよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ