37話 開戦前夜
……それから、急ピッチでスタンピードの対策が行われた。
打ち合わせを重ねて、完璧と言える策を練り。
同時に、街の四方にある出入り口にバリケードや罠を構築していく。
ここまでくると、さすがに箝口令は意味をなさない。
ギルドマスターが街の人々を集めて、事態の説明をした。
パニックが起きるものと思われていたが、意外にも、街の人々は冷静だった。
というのも……
「スタンピードは不安だけど、でも、ガイさんがいるから、きっと大丈夫さ!」
「そうだな! あのガイさんがいるなら、きっとなんとかなる! 俺は、信じる!」
「私達にも、なにかできることはないかしら? ガイさん達の力になりたいわ!」
……などなど。
なぜか、俺に対する信頼度が高くてびっくりだ。
この前のシグルーンとの試合を見ている人がいて……
それと、日々、コツコツと依頼をこなしていたことが、俺の知らぬところでけっこうな評価をされていたらしい。
感謝だ。
こうして街の人々もスタンピード対策に協力してくれた。
おかげで、想定していたよりも早くバリケードやトラップを構築することができた。
そして、王都から結界を展開する魔道具も届いて……
どうにかこうにか、2日と半日で対策を取ることができた。
――――――――――
夜。
俺は宿の裏手に出て、空を見上げていた。
明日はスタンピードにより、魔物の群れがやってくるのだけど……
そんなことは関係ないというかのように、星は綺麗に輝いていた。
「師匠」
振り返ると、寝間着にガウンを羽織ったアルティナの姿が。
「どうしたの、こんなところで?」
「ちょっと眠れなくて。アルティナは?」
「あたしも」
アルティナが隣に並び、同じように夜空を見上げた。
「明日、どうなると思う? ……勝てるかな?」
「もちろん」
「師匠にしては、やけに自信たっぷりね?」
「負けるかもしれない、なんて心構えで戦えるわけがないだろう? 必ず勝つ。そんな気合を込めて挑まないとな」
「そっか……そうね」
アルティナは、パン! と自分の頬を叩いた。
「よし! 今の師匠の言葉で気合が入ったわ!」
「そんなことして、いいのか? 眠れなくなるぞ?」
「そうしたら、徹夜で戦ってやるわ!」
「まったく、頼もしいな」
このやる気。
俺も、アルティナを見習わないといけないな。
「……ねえ、師匠」
「うん?」
「あたし、強くなっているかな?」
「ああ、なっていると思うぞ」
「本当!?」
「きちんと日々の鍛錬を積み重ねているし……この前、軽く手合わせをしただろう?」
「露店の肉串を賭けたヤツね? 師匠、ぜんぜん手加減してくれなくて、あたしが十本払うことに……くっ、師匠は食べ過ぎなのよ!」
「いや、その内の7本を食べたのはアルティナだろう?」
「……それはともかく」
ごまかされた。
「この前の手合わせがどうかしたの?」
「あの時のアルティナの剣は、最初出会った頃よりも、ずっとずっと洗練されていたよ」
「本当!?」
「剣のことで嘘は吐かないさ。それに、心が込められていた。一撃一撃に、アルティナのまっすぐな想いを感じたよ」
「そ、そう……なんか、別の意味に取られそうで照れるわね」
「別の意味?」
「なんでもないわ! それで、つまり……」
「自分だとなかなかわかりづらいかもしれないが、アルティナは、着実に強くなっている。俺が保証する。って、俺のようなおっさんに保証されても困るかもしれないが」
「ううんっ、そんなことないわ! 師匠に保証されたのなら、すごくすごく嬉しい! そっか、あたし、強くなれていたんだ……まだまだ成長できるのね」
アルティナは笑みを深くして、すごく嬉しそうだ。
気持ちはよくわかる。
剣を学んでいても、自分の力量は測りにくいからな。
俺もひたすらに素振りをしていた頃は、時に行き詰まり、悩んだものだ。
そんな時はおじいちゃんに指導してもらい、褒めてもらい……
何歳になっても子供のように喜んでいたことを覚えている。
「よーし! 強くなったあたしの剣で、明日はがんばるわ!」
「あまり調子に乗らないように」
「あいたっ」
弟子を諌めるのも師匠の役目と思い、ぽかっと軽く小突いておいた。
「嬉しいのはわかるけど、増長しないように。剣を誇るのではなくて、己の心を誇るように」
「はいっ、師匠!」
アルティナはぴしっと背を伸ばして、いい返事をしてくれた。
「まあ、アルティナなら問題ないだろうな」
「どうして?」
「先日、ギルドで言った言葉、かっこよかった」
「あれは……師匠の真似をしただけというか。かっこいいのは師匠よ」
「そっか、ありがとう」
称賛は素直に受け取ることにした。
でないと、相手に失礼だ。
アルティナは俺の剣の腕を褒めてくれるが……
それも、できるだけ素直にもらうようにしないとな。
「ねえ、師匠」
「うん?」
「……明日は、勝ちましょう」
「2日、粘ればいいんだぞ?」
「そんなのつまらないわ。スタンピードの核となっている魔物を倒して、勝利よ!」
「大胆だな」
「だって……そうした方が、被害は圧倒的に少ないじゃない」
「……そうだな」
「だから、がんばりましょう! 勝つわ!」
「ああ、勝とう!」
星空の下。
アルティナと、こつんと拳をぶつけ合うのだった。
【作者からのお願い】
「面白い」「長く続いてほしい」と思っていただけたら、是非ブックマーク登録をお願いします
また、広告下の『☆』評価で応援していただけると嬉しいです(率直な評価で構いません)。
皆様の応援が作品を続けるための大きなモチベーションとなりますので、よろしくお願いします!
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!




