34話 欲望にまみれた者の末路
「わ、わかった……! こ、降参する! だから、命だけは……!」
「ひぃっ……!?」
アイスコフィンを向けると、残った盗賊達は慌てた様子で武器を捨てた。
そのまま頭の後ろで両手を組んで、地面に膝をついてみせる。
「そのまま、おとなしくするように。変な気を起こしたのなら……」
アイスコフィンを振る。
近くの木が両断されて、大きな音を立てながら倒れた。
「このようになると思え」
「「「……っ……!?」」」
盗賊達は声も出ない様子で、何度も何度も頷いた。
この様子ならおとなしくしてくれるだろう。
そう判断して、次の命令を下す。
「そこのお前」
「は、はいっ!?」
「お前達が着ている服などを使い、仲間の手足を縛れ。最後は、自分の足を縛れ。いいな?」
「わ、わ、わかりましたっ!!!」
指名した盗賊は、素直に仲間達の拘束を始めた。
他の連中もおとなしく従っている。
こちらは問題ないだろう。
残りは……
「これで、残りはあんただけだ……ギド」
「ひ、ひぃっ……!?」
ギドは腰を抜かしている様子で、地面にへたりこんでいた。
ただ……
「ど、どうか、どうか命だけは! お助けください、お助け……死ねぇっ!!!」
怯える様子は演技。
ギドは隠し持っていたナイフを持ち、突撃してきた。
全て見抜いていたので、簡単に避けることができた。
アイスコフィンを一閃。
ナイフを持つギドの手を切り飛ばす。
「ぇ」
なにが起きたかわからない様子で、ギドは呆けた表情に。
「あっ、あああああぁ!!!? わ、私の、私の手がぁっ、手がぁあああああ!?」
遅れて痛みがやってきたらしく、ギドは涙目になって転がる。
今度こそ演技ではないだろう。
「これで傷口を縛っておけ。止血くらいはできるだろう」
ポーチから細い縄を取り出して、ギドに放る。
ギドは慌てた様子で縄を拾い、涙を流しつつ、どうにかこうにか止血をした。
ここまでしたのは、ギドの心を折るためだ。
盗賊達は諦めた様子だったが、ギドの目は、まだ野心に燃えていた。
だから、あえて片手を切り落とした。
これで諦めてくれるだろうと思っていたが……
「くぅっ……こ、この私にこのようなことをして、タダで済むとでも!?」
「まだ、そんな口を叩けるのか」
「わ、私は、裏世界ではそれなりの地位についているのだ! 貴様のようなおっさんなど、物理的にも社会的にも即座に殺すことができるのだぞ!? 勇者とて、私の……」
「……今、なんて?」
こいつ……
もしかして、シグルーンと関わりを持っているのか?
「……」
さすがに、今のは失言だったらしく、ギドは途端に黙ってしまう。
もう片方の手も切り落とせば吐いてくれるかもしれないが……うーん。
さすがに拷問の類はしたくない。
というか、そこまでしたら、さすがに失血死してしまうかもしれない。
「仕方ない。あとは、ギルドと街の騎士達に任せるか」
騎士達の仕事は治安維持だ。
ギドのような犯罪者が相手なら動いてくれるだろう。
ちょうどいいタイミングで、盗賊達の拘束も終わったようだ。
仲間を拘束していた者の両手を俺が縛る。
後は馬車を使い、連中を運んで……
「くそっ!」
「あ、おい!?」
突然、ギドが走り出した。
隙を見て逃げる算段だったのだろう。
もちろん、再び捕まえることは可能だ。
追いつくことはできる。
ただ……
「……まあ、いいか」
ここで盗賊達から目を離すわけにはいかない。
もっとも優先されるべきは、アルティナの安全だ。
ギドの持つ情報は気になるものの、アルティナの安全をおろそかにしてまで手に入れたいとは思わない。
それに……ギドはもう、終わりだ。
「さようなら、ギド」
――――――――――
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」
誰もいない森の中、ギドは息を切らしながら走っていた。
恐ろしい。
恐ろしい。
恐ろしい。
なんだ、あのガイという冒険者は?
Fランクと聞いているが、まるで話が違う。
Aランク……いや。
Sランクに匹敵するほどの実力者ではないか。
なによりも恐ろしいのは、あの目だ。
冷たく、鋭利で、無機質で……
目が合った瞬間、殺されると悲鳴をあげそうになった。
ギドは慌てて逃げ出した。
盗賊達を囮にして、とにかく、ガイから少しでも遠くに離れることだけを考えた。
結果、その試みは成功して……
ギドは、ガイの探知範囲外に逃れることに成功したのだった。
「くそっ、なんなんだ、あの冒険者は……! せっかくのチャンスが……くそっ、許さぬぞ! このままで済ますものか。絶対に……!」
見当違いの復讐を誓うギド。
しかし、彼は気づいていない。
……その復讐の機会は、もう永遠にないことを。
「グルル……!」
「なっ……!? えっ、あ……」
ギドは、ガイから逃げることに夢中になるあまり、森の深部に来ていることに気づいていなかった。
そして、そこは魔物の巣になっていた。
さらに言うと、ギドは片手を失い、多くの血を流している。
その血に魔物達が誘い出されていた。
「し、しまった……くっ、だ、だが、一匹くらいならば……ひぃ?!」
森の茂みに潜む魔物の瞳の輝き。
それがどんどん数を増していく。
十を越えて、百も越えて……
それは星の輝きようでもあったが、ギドからしたら絶望の光でしかない。
「な、なんで、これほどの大量の魔物が……!? も、もしかして、スタン……」
「ガァッ!」
「あぁ!? ま、待てっ、話し合おうじゃないか! 私ならキミ達、魔物とでもうまくやっていけ……ぎゃあああああっ!!!?」
森の深部に悲鳴が響くものの、それは、誰の耳にも届かないのだった。
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