33話 鬼
「は?」
仲間が突然やられたことに驚いている様子で、盗賊達はぽかーんとした顔で足を止めた。
隙だらけだ。
戦場でそんな姿を見えたら命取りになる。
俺は前に出て、一人の盗賊の腹部にアイスコフィンを突き刺した。
そのまま横に引き抜いて、胴を両断してやる。
「がっ……!?」
そんなバカな、というような顔をして、盗賊が倒れた。
そのまま血を広げて絶命する。
こいつらはまるで怖くない。
剣の構えも動きも足さばきも、なにもかも、まるでなっちゃいない。
おっさんの俺でも勝つことができるだろう。
でも。
手加減はしないことにした。
全力で叩き潰す。
俺を狙っているだけなら、まだいい。
盗賊達が言うように、運が悪かっただけで済ませることができた。
しかし、こいつらはアルティナも狙った。
彼女に醜い視線を向けて、愚かな欲望をぶつけようとした。
許せない。
許せない。
許せない。
アルティナの明るくて、太陽のような笑顔に、俺は助けられてきた。
彼女が隣にいてくれたことで、どんなに心を支えられたことか。
それに、アルティナは俺の弟子だ。
きちんと師匠を務められているか、そこは言い切ることはできないのだけど……
しかし、家族のように大事に想っていると、そこは断言できる。
そんなアルティナを害すると言う。
汚そうとする。
そんな連中、許せるわけがないだろう?
俺の大事な人を傷つけようとするのならば……
「俺は、鬼になろう」
アイスコフィンを振り、刀身についた血を払う。
「ちっ……おい、囲め! このおっさん、けっこうやるぞ。数で押し切る!」
「タイミングを見て、矢と魔法をぶつけてやれ!」
続けて、三人の盗賊が前に出た。
武器は短剣。
刃が黒に濡れているところを見ると、毒を塗っているのだろう。
三人の盗賊は縦に並び、まっすぐに駆けてきた。
一人目が斬りかかってきて……
カウンターを叩き込もうとしたら、二人目がフォローに回り、防ぐ。
そして三人目が、カウンターを防がれて体勢を崩す俺にトドメの一撃を……
「死ねやぁっ!!!」
「死ぬのはお前だ」
「……えっ」
二人目に隠れて、三人目が飛び出してきた。
いきなり現れたように見えるのだけど……
ただ、相手の虚を突いているだけ。
そこに技術はなにもない。
俺は冷静に相手の動きを見切り、体勢を崩したという嘘も止めて、剣を振る。
……二つ目の首が飛んだ。
「っ……!?」
「お、おいっ、今だ! やれ!!!」
矢と魔法が放たれた。
連射だ。
雨のように飛んできて、避ける隙間は一切ない。
「甘い」
俺は、剣を持つ手に力を込めた。
そして、下から斜め上に勢いよく切り上げた。
ゴウッ!
魔法で作られた火球を切り裂いて。
同時に、剣から放つ衝撃波で矢を散らした。
その衝撃波は後ろに控えていた盗賊達まで届いて……
「ぎゃあ!?」
「ひぁっ!!!?」
三人の盗賊がまとめて吹き飛ばされた。
竜巻に巻き込まれたかのように、勢いよく吹き飛び、激しく木の幹に叩きつけられる。
骨の折れる鈍い音。
共に口から血を吐いて、がくりとうなだれる。
死んだか、あるいは気絶したか。
どちらにしても戦闘不能だ。
「な、なんだよ、このおっさん……」
「なんてデタラメな強さだ……」
「お、俺等が敵う相手じゃねえ……!」
一気に仲間達がやられたことで、盗賊達は戦意喪失した様子だ。
顔を青くして、その場で棒立ちになる。
隙だらけだ。
今なら、一気に殲滅することが可能だろう。
アルティナを害そうとした連中を許すわけにはいかない。
家族を奪おうとするのなら、俺は、命を奪う。
しかし……
戦意喪失して、涙を浮かべつつ震える者を斬るというのは、どうなのだろうか?
相手がどうしようもない愚か者だとしても、それは、アリなのだろうか?
『いいかい? 強くなるために剣を振るんじゃない。心と魂を鍛えるために剣を振るんだ』
ふと、おじいちゃんの言葉を思い出した。
そうだ。
俺の剣は、人を殺すためのものじゃない。
己を鍛えて……そして、大事な人を守るためのものだ。
盗賊達が諦めず、未だに襲いかかってくるというのなら容赦はしない。
しかし、彼らはもう戦意喪失している。
そんな連中を斬るということは、ただの『殺人』であり、剣の道からは外れているだろう。
おじいちゃんが見たら悲しむだろう。
俺は、一つ深呼吸をした。
そうやって、頭を冷やしてから、盗賊達に剣を突きつける。
「全員、武器を捨てて投降しろ。逆らう者は容赦しない。ただし、おとなしくするのならば命の保証はしよう」
盗賊達は我先に武器を捨てて、膝をついて両手を頭の後ろで組んだ。
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