32話 裏の繋がり
「……ちょうどいい頃合いですね」
荷台で眠るガイとアルティナを見て、ギドは笑みを浮かべた。
馬車を進めるものの、村に続く道から外れた。
そのまま人気のない林道へ。
さらに5分ほど進んだところで馬車を止める。
「みなさん、出番ですよ」
「へへっ」
木陰に十数人の男が隠れていた。
盗賊だ。
いずれもニヤニヤと下品な笑みを浮かべている。
「よぉ、ギド。今回の獲物はどうだ?」
「男が一人、女が一人。いやぁ、今までにないほどの上物ですよ。装備はもちろん、なんと、女は剣聖ですからね」
「剣聖だって!?」
「おいおい、そいつは大丈夫なのかよ……?」
「問題ありませんよ。私の特性の薬の効果は知っているでしょう? 剣聖だろうとなんだろうと、半日は目が覚めることはありません。ドラゴンが相手でも、その効果は変わらないでしょう」
「その間に、装備を剥ぎ取り、ヤルことヤッて……っていうことか」
「へへ、頼もしいな」
盗賊達と一緒になって笑うギド。
彼は、商人だ。
ただし、盗賊と組んで人身売買を行う犯罪商人だ。
護衛の依頼を出して、適当な冒険者を雇う。
途中、薬を飲ませて意識を奪い……
協力者である盗賊達に引き渡す。
盗賊達は冒険者の装備などを奪うことができて、女性がいれば楽しむことができる。
最後は、冒険者を奴隷商人に売ればいい。
そしてギドは、その見返りとして金をもらう。
最低の方法ではあるものの、効率的に金を稼ぐことができた。
彼が捕まっていないのは、無事な者がいないからだ。
全て盗賊の餌食となってしまっている。
また、怪しまれることを避けるために、定期的に場所を変えている。
一度『仕事』をしたら、その街には半年は近づかない。
そんな用心深さが、ギドの犯行の露見を防いでいた。
ただ……
栄えないから悪とも言う。
「なるほど。妙な感じはしたが、そういうことか」
――――――――――――
馬車から降りると、ギドと盗賊達はぎょっとした顔に。
「おいっ、起きているじゃねえか!? どういうことだ!?」
「そんなまさか……!? 確かに、睡眠薬入りのドリンクを飲んだはずなのに……!」
「ギドさん……いや。ギドの態度に違和感があったからな。飲んだフリをして口の中に溜めて、そっと吐いておいた」
アルティナが剣聖と知り、喜ぶのではなくて警戒したり。
ドリンクを渡した後、じっとこちらを注視してきたり。
違和感が積み重なり、警戒して、寝たフリをしていただけ。
間違いであってほしかったが……
「どうして、このようなことを……?」
「ふんっ……どうして? そんなの決まっているだろう、稼ぐためですよ!」
今までの態度も演技だったのだろう。
途端に乱暴な口調になり、表情も歪なものに変化した。
「はは、お前達、冒険者は実に良い金になる。駆け出しでも、そこそこの装備を持っていますからね。それに、奴隷として売り、大金を得る。一石二鳥というやつですよ、はははっ!」
「こいつ……」
「あなたは、なかなか良い体をしている。きっと、労働奴隷として需要はあるでしょうね。そして、なによりも……ぐふふ」
ギドは舌なめずりをした。
「あの剣聖はいい……たまらないですね。剣聖というだけで破格の値がつくだろうに、それだけではなくて、若くて美しい。あぁ、たまらない! 奴隷として売る前に、ぜひ、味見をしたいところですねぇ。じっくりとねっとりと、隅々まで堪能してあげますよ、ひひひっ!」
ギドが笑うと、盗賊達も笑う。
おこぼれをくれよ、と笑う。
あぁ……そうか。
ギドもこの連中も、人間ではないのだろう。
魔物の方がまだマシだ。
人間の皮を被った、魔物以下のゴミだ。
頭がやけにクリアになる。
心がスゥッと冷えていく。
「あなたが眠っていないのは誤算でしたが、まあ、いいでしょう。たかが一人、なにができるわけでもない。みなさん、殺してください」
「おい、いいのか? 奴隷として売るんじゃないのか?」
「可能ならそうしたいですけどね。無傷か、あるいは軽傷で捕まえられますか?」
「……ちと厳しいな」
「でしょう? なら、殺してしまいましょう。ゴミは処分するに限る。売り物にならない人間なんて、ゴミですよ、ゴミ」
「了解だ」
盗賊達は次々に武器を抜いた。
「ああ、そうそう。男の武器は上物ですよ、それの回収は忘れずに」
「ギドさんも、獲物の分け前をくれよ?」
「ええ、もちろんですよ。剣聖は、私が最初に楽しませてもらいますが……ひひっ。その後は、あなた達で好きにするといい。とはいえ、やりすぎて壊さないようにしてくださいよ? その場合は、価値が下がってしまいますからね」
「ギドさんがそれを俺等に言うかね。何人も味見で壊しているくせに」
「仕方ないでしょう? ゴミを引いてしまう確率が高かったのですから」
そうだな。
うん。
この連中は……もうダメだ。
「へへ、そうと聞いたら……」
「たっぷり楽しむために、邪魔者は排除させてもらうか」
「ま、この数の差を覆すことなんて無理だからな。おっさん、運が悪かったな」
「……そうか」
一言、静かに返した。
ギドと盗賊達はろくでもないことに手を染めている。
捕まれば、まず極刑は間違いないだろう。
あるいは、一生の労働奴隷か。
ただ……
そうはならない。
なぜなら……
「おらっ、死ねよ、おっさん!」
「……死ぬのはお前だ」
セリスからもらった剣……アイスコフィンを抜いた。
そして、一閃。
キンッ、と斬りかかってきた盗賊の剣を切断した。
割るのではなくて、切断だ。
そのまま、盗賊の首も切り落とす。
悲鳴をあげることもできず、盗賊は血を撒き散らしながら倒れた。
「覚悟してもらおうか」
俺は、改めてアイスコフィンを構えた。
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