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3話 気がつけばおっさんになっていた

「9997、9998、9999……10000! ……ふぅ」


 いつもの日課を終えて、小さな吐息をこぼす。

 それから肩にかけておいたタオルで汗を拭う。


「うん、今日もいい感じだ」


 1日1万回の感謝の素振り。

 最初は半日以上かかっていたけど、今は1時間くらいで終わるようになっていた。

 朝の運動にちょうどいい。


「さて、朝食にするか」


 野草と獲物を採取して、山奥の家に戻る。


「ただいま、おじいちゃん」

「おぉ……おかえり、ガイ」

「今日のごはん、うさぎの香草焼きにしようと思うんだけど……食べられる?」

「そうじゃなあ……うむ。今日は調子がいいからのう、いけそうじゃ」

「よかった。じゃあ、さっそく作るよ」


 あれから30年。

 若々しかった祖父もすっかり老け込んでしまい、ベッドの上で1日の大半を過ごすようになっていた。


 家事は俺の仕事だ。

 最近は料理に凝っていて、色々と試しているところだ。


 おじいちゃんが美味しいと言ってくれると、すごく嬉しくなる。


「って、なんか主夫みたいだなあ」


 気がつけば、俺は四十歳。

 おっさんになっていた。


 その上で、家事をメインに過ごしている。

 主夫みたいだ。


 でも、日々は満たされていた。

 大好きなおじいちゃんと一緒に暮らすことができて。

 大好きな剣を振ることができる。

 小さな頃とは違い、なんの不満もない、満ち足りた人生だ。

 いつの間にかおっさんになっていたものの、こういう人生も悪くないだろう。


「よし、こんなものかな? おじいちゃん、ごはんが……」

「ごほっ、けほっ……」

「おじいちゃん!?」




――――――――――




 ベッドに寝ているおじいちゃんは顔が青く、とても具合が悪そうだ。

 薬草を調合したポーションを飲ませたものの、どうなるか……


「……ガイ……」

「おじいちゃん、気がついた!?」

「すまないのう、心配をかけて……ただ、儂は、どうやらここまでのようじゃ……」

「そんな……そんなこと言わないでくれよ!?」

「儂は、もう百を超える……天命じゃ。どうすることもできぬ……」

「そ、それは……」


 ポーションで病気を治すことはできても、寿命を伸ばすことはできない。


「……ありがとう、ガイ」


 おじいちゃんが俺の手を取る。


「ガイにとっては不幸なことかもしれぬが……ガイが儂のところに来てくれて、嬉しかったよ……大事な家族が一人、できた。ガイが笑顔をくれた。ありがとう……」

「俺こそ……ありがとう、おじいちゃん」


 しっかりと手を握り返す。


「おじいちゃんがいてくれたから、俺は……っ……幸せに生きることが、できたんだ……」

「これこれ、ガイも人生が終わるような言い方をするでない……」

「でも俺、もう四十だから……」

「なに。男は、そこからが本当の人生じゃよ……これからは、好きに、自由に生きるといい……」

「……おじいちゃん……」

「儂は……一足先に、休ませてもらうぞ。いいか……すぐにこちらに来たら、承知しないぞ? ガイは、人生を満喫するんじゃ……わかったな?」

「ああ……わかったよ。わかったよ、おじいちゃん」

「うむ……いい子じゃ」


 おじいちゃんは優しく微笑む。

 そして、俺の頭を一度、撫でてくれて……


 そのまま息を引き取った。




――――――――――




「おじいちゃん、今までありがとう。どうか安らかに眠ってください」


 おじいちゃんの墓は家の裏に作った。

 両手を合わせて祈る。


「さて……と。これからどうしようかな?」


 これからは一人で生きていくことになる。

 剣の鍛錬をすると同時に、サバイバル技術なども学んでいたため、このまま家に残ることは可能だ。


 ただ……


『自由に生きるといい』


 おじいちゃんの最後の言葉が頭に残る。


「……冒険者になってみようかな」


 おじいちゃんは昔、冒険者だったと言っていた。

 なら、俺も冒険者を目指してみたい。


 四十のおっさんが冒険者になれるかどうか、わからないのだけど……

 冒険者になって、そして、おじいちゃんのような立派な人になりたい。


「そうだな……よし。遅いかもしれないけど、手遅れ、ってことはないだろう。今からでも、やれるところまで、がんばってみるとするか」




――――――――――




 ガイ・グルヴェイグ

 この時、四十歳。

 おっさんだ。


 しかし、ただのおっさんではない。

 後に、『遅れた英雄』と呼ばれることになる、冒険者である。


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