28話 再びアルスティーナ家
「この度は街を救っていただき、誠にありがとうございました」
改めて、ドラゴン討伐の細かい報告をギルドで行い。
それに関連する後始末も行い。
その後、事の流れをセリスに報告するため、アルスティーナ家に顔を出した。
とても手厚い歓待を受けた。
それだけではなくて、セリスに深く頭を下げられてしまう。
「あ、いや。よしてほしい。キミのような人が、一介の冒険者に……しかも、おっさんに頭を下げるなんて」
「ガイ様は、それだけのことを成し遂げたのですよ? 頭を下げる程度では到底足りません。わたくしの体も差し出したいくらいですわ」
「なっ!?」
「ちょっ!? なに言っているのよっ!」
なぜかアルティナが怒る。
「あんた、なに考えてんのよ!? ふざけたこと抜かしてるんじゃないわ!」
「あら。とても普通なことだと思いますが」
「普通なわけないでしょ! 貴族令嬢がお礼に体を差し出すとか、聞いたことないから!」
「ですが、ガイ様がいなければ、今頃、街はドラゴンの炎に焼かれていたでしょう。ガイ様は、エストランテの救世主。英雄的行動に報いるためには、お金だけではなくて、この身も差し出さなければ釣り合いがとれないでしょう」
「いらないわよっ、んなもの!」
「なぜ、あなたが答えるのですか?」
「あたしが師匠の弟子だからよ! っていうか、礼うんぬんは口実で、師匠を仲良くなりたいだけでしょ!?」
「そ、そのようなことはありませんわ。ガイ様はとても素敵な殿方で、一緒になりたいなー、なんて思っていません。あわよくばー、なんてこれっぽっちも考えていません」
「めっちゃ考えてるでしょ!」
「気のせいです。そういうことをあなたが考えているから、そう見えるだけでは?」
「むうううっ」
「がるるるっ」
睨み合う二人。
バチバチと火花が散る。
うーん。
二人は相性が悪いのだろうか?
「とにかく……俺は、そんなものはいらないよ」
「そんなもの、なんて……ひどいですわ。これでも、それなりに自信があったのですが」
「あ、いや!? そういう意味ではなくて、えっと……すまない」
「ふふ。冗談ですわ。そのように慌てないでくださいな」
「むぅ」
セリスは深窓の令嬢と思っていたのだけど……
意外と小悪魔なのかもしれない。
「ですが……わたくしも、少々、先走りすぎていたかもしれません。ガイ様の言う通り、今の話はなかったことに」
「そうしてもらえると助かるよ」
「やはり、着実に距離を詰めて、しっかりと確実に既成事実を作ることが大事ですね」
「えっと……?」
「ふふ、冗談ですわ」
本気に見えたのは気のせいか?
「ですが、お金と、その他の報酬はぜひ受け取ってください。そうでないと、我が家の顔が立ちませんわ」
「お金は、まあ、受け取るが……その他の報酬っていうのは?」
「ガイ様が望むものを。アルスティーナ家にできる範囲となってしまいますが、できる限りのことを叶えてみせましょう」
それはすごい報酬だ。
領主に叶えられない願いなんて、そうそうないだろう。
無茶を言わない限り、大抵の願いは叶うはずだ。
とはいえ……
「うーん……すぐに思い浮かばないな」
「なんでもよいのですよ?」
「そう言われても、わりと現状に満足しているからな。これが欲しい、っていうものがないな」
「欲のない方。ですが、そこがガイ様の魅力なのかもしれませんわね」
セリスが小さく笑う。
それはとても綺麗な笑みで、天使のようだった。
「あいたっ」
アルティナに足を踏まれてしまう。
「ふんだ。師匠のばか」
「な、なんで怒っているんだ……?」
「なんでもないわよー、だ!」
あっかんべー、をされてしまう。
この子はこの子で、意外と子供っぽいんだよな。
「ねえ、師匠」
気持ちを切り替えた様子で、アルティナが普通の顔に戻り、提案をする。
「剣をもらう、っていうのはどうかしら?」
「剣?」
「ほら。師匠って、まともな剣を持っていないじゃない? とても頑丈だけど、それ以外に取り柄がないようなものを使っているし……って、よくよく考えれば、そんな剣でドラゴンを撃退したのよね? 師匠ってバケモン? 魔王?」
この弟子、口が悪い。
アルティナがセリスを見る。
「そんなわけだから……この家に、なにか良い剣はないかしら? それを報酬にする、っていうことで」
「えっと……ガイ様は、それで問題ありませんか?」
「そうだな……ああ、それでお願いしたい」
アルティナが言うように、新しい剣が欲しいと思っていたところだ。
毎日の鍛錬に使っている剣は、とても頑丈で、長い間使っているから愛着もある。
ただ、アルティナが言うように頑丈なだけで、切れ味はわりと絶望的だ。
斬るのではなくて、叩き潰す、という感じが近い。
「そんな状態の剣で、どうして師匠が今まで戦うことができたのか、わりと真面目に謎なんだけど」
「ものを斬る時は、摩擦か圧力、どちらかになるだろう? 俺の場合は圧力になるけど、一点に力を集中させることで、それなりの威力を確保しているんだと思う」
「師匠のことだから、そのうち、キッチン包丁でもドラゴンを討伐しそうね……」
「ふむ……キッチン包丁でも、今の剣よりは切れ味はいいだろうから、もしかしたら……」
「冗談なのに本気で検討された!?」
「はは、俺も冗談を返しただけだ。さすがに、包丁でドラゴンと渡り合えないさ」
「師匠の冗談は冗談に聞こえないわ……」
おかしいな?
おっさん冗談は気に食わないのだろうか?
「まあ……話を戻すけど、そんな感じで良い剣はある?」
「そうですわね……しばし、お待ちくださいませ」
考えるような仕草を取った後、セリスは部屋を出た。
10分ほどして、執事を伴い戻ってきた。
執事の手には一振りの剣が。
「こちらをどうぞ」
「見ても?」
「もちろんですわ」
執事から剣を受け取り、その場で抜いてみせた。
「これは……」
とても綺麗な剣だ。
刃は氷のように透き通っている。
一見すると耐久性に疑問を抱いてしまうものの、軽く触れた感じ、そこらの剣の何倍も頑丈にできている。
下手をすれば、俺が持つ、鍛錬用の剣よりも上だ。
そして、軽い。
羽のように軽く……しかし、無意味に軽くしているのではなくて、芯に重さを残している。
そのおかげで剣を安定して振ることができる。
「すごい業物だな」
「喜んでいただけたのなら、なによりですわ」
「うわっ。師匠、それ見せて!」
「知っているのか?」
「これは……うん、間違いないわ。アイスコフィンって呼ばれている、歴史に名前を刻んだことのある名剣よ」
「……アイスコフィン……」
「雪の精霊の力を宿していて、しかも、切れ味は抜群。耐久力もとんでもなくて、長い歴史を刻むくらい存在しているのに、刃こぼれ一つなし。文句なしの名剣よ。たぶん……これを競売にかけたら、金貨数千枚になるんじゃないかしら?」
「すぅっ……!?」
慌ててセリスを見た。
「このようなものをいただくわけには……」
「構いませんわ。当家が所有していたのは、ただの偶然。価値を知っているため大事にしていましたが、絶対になくては困らない、というものでもありませんから。価値を知っていて、そして、全てを扱える方こそが本当の所有者にふさわしいかと」
「しかし……」
「どうか、お受け取りください。それは、ガイ様にふさわしいものですわ。せめてもの気持ちを、どうか」
「……わかった。ありがたくいただこう」
セリスの真摯な想いが伝わってきて、断るのは失礼と感じた。
アイスコフィンを鞘に戻して、腰に下げた。
それから、セリスに頭を下げる。
「ふふ、喜んでいただけたみたいでなによりです。わたくしのこともいただいてもらえたら、なお良かったのですが」
「ちょっと……! そういうことなら、まず、弟子のあたしを美味しくいただくべきでしょう!?」
二人は冗談がうまいな。
ははは、と笑うと、なぜか白けた目を向けられてしまう。
なぜだ……?
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