27話 無意識の追撃
「なぁっ……!!!?」
「は?」
シグルーンが繰り出した技は、俺に止められて……
ついでに、彼の剣が宙を舞う。
信じられない、という様子でシグルーンが唖然とした。
アルティナも、似たような顔をして、ぽかーんとしていた。
「……」
シグルーンは宙を舞い、地面に落ちた剣を見る。
それから、空になった自分の手を見て、再び剣を見て……
それの繰り返し。
アルティナは、呆然としたまま固まる。
「アルティナ」
「……」
「アルティナ?」
「……はっ!? な、なに、師匠……?」
「あまり脅かさないでくれ」
「脅かす、っていうのは……?」
「最上位の剣技とか、そういう。ものすごく警戒したけど、大したことないじゃないか」
「えぇ……普通、ギガブレイクをどうにかするなんて、不可能なんだけど。文字通り、一撃必殺の技なのよ? 根性で受け止めて我慢して耐える人はいるかもしれないけど……完全に無効化して、おまけに相手の剣を弾くなんて、見たことないわ。師匠って、本当に人間? 実は、魔族だったりしない?」
「さりげなく酷いこと言わないでくれ……」
師匠と言う割に、扱いが酷いぞ。
「ば、バカな……この僕が、この僕が……」
シグルーンは呆然とした様子で、ぶつぶつと呟いて、地面に膝をついていた。
おかしいな?
この結果は予想できたことで、引き続き手加減をしてくれていたはずだ。
「剣だけを狙い、弾いただけだから、ダメージはないと思うが……」
「勇者って誇りを持っているヤツが、そんな曲芸みたいなことされたら、一気に自信喪失するわよ」
「しかし、これくらいは一般的だろう? おじいちゃんは、何度も見せていたぞ」
「一度、師匠の頭を解剖して、一般の定義を見てみたいわ。あと、師匠のおじいちゃんもけっこうおかしい人みたいね」
最近、アルティナが辛辣なような気がする。
寂しいというか辛いというか……
これが、反抗期の娘を持つ父親の心境なのだろうか?
切ないな。
「まっ、師匠のおかしさは今更だから置いておいて……勝負ありのようね。勝者、ガイ!」
「「「おおおおおぉっ!!!」」」
アルティナの宣言と同時に、観客達が湧いた。
大勢は、シグルーンの勝利を予想していただろう。
しかし、それを裏切り、俺の大逆転。
劇的な展開に盛り上がっているようだ。
「ぐっ……!」
ふらふらとよろめきつつ、シグルーンが立ち上がる。
怒りに顔を赤くして、こちらを睨みつけた。
「貴様……よくも、この僕に、ここまでの恥をかかせてくれたな!」
「え? 手加減してくれたのはキミだろう?」
「ぐっううううう……まだ言うか!!!」
シグルーンの様子がおかしい。
もしかして俺は、大きな勘違いをしているのだろうか……?
しかし、どこをどう勘違いしているのか、いまいちわからない。
「もしかして……手加減をしていない? いや、まさか。俺のようなおっさんに、勇者が勝てないはずがない。あんなに剣も遅く、拙い。手加減をしているという理由以外、ありえないだろう。だとしたら、いったい……」
「あー……師匠? その辺にしといてあげたら? さすがにかわいそうになってきたわ」
「うん?」
見ると、シグルーンは涙目でぷるぷる震えていた。
怒りと屈辱が混ざり合っているみたいだ。
……なぜ、こんな状態に?
というか、まいったな。
うまく負けるつもりだったのに、勝ってしまった。
そして、そのことをシグルーンは不服に思っているらしい。
余計な恨みを買いたくなかったのだけど、失敗してしまった。
「今回のこと、必ず後悔させてやる! おぼ……」
「覚えていろよー、って?」
「っ!?」
アルティナがニヤリと笑い、シグルーンの台詞を先取りした。
その辺に、とか言っておきながら、アルティナの方が容赦ないような気がする。
「ちくしょうっ、くそっ!!!」
シグルーンは顔を真っ赤にして広場を立ち去る。
残された俺達は……
「おいおいおい、あんた、すげえな! まさか、あの勇者様に勝つなんてな」
「さぞかし名のある冒険者……じゃないんだよな? いやー、信じられないぜ」
「ねえねえ、今夜、ウチの店に来ない? サービスするわよ?」
「えっと……」
あれこれと話しかけられて、戸惑ってしまう。
誰もが好意的で、笑顔を向けてくれている。
ずっと、おじいちゃんと山で暮らしていて……
人と接する機会がなかった。
ちゃんとした話はほとんどしたことがない。
ただ、あえて接していないだけで、本当は避けていた。
人は怖い。
幼い頃のようにいじめられるかもしれない。
だから、逃げていた。
俺は、なんて情けない男だ。
でも……
「……思い込みだったんだな」
外の世界はこんなにも明るい。
もっと早く外に出て、世界に触れておけばよかったのかもしれない。
そうか。
最後に、おじいちゃんが残した言葉……
あれは、このことを指していたのかもしれないな。
最後の最後まで俺のことを気にかけてくれて、心配してくれて……
本当にありがとう。
俺は、あなたと一緒に暮らすことができて、剣を教わることができて。
そして、あなたの孫でいられてよかった。
ありがとう。
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