表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/190

27話 無意識の追撃

「なぁっ……!!!?」

「は?」


 シグルーンが繰り出した技は、俺に止められて……

 ついでに、彼の剣が宙を舞う。


 信じられない、という様子でシグルーンが唖然とした。

 アルティナも、似たような顔をして、ぽかーんとしていた。


「……」


 シグルーンは宙を舞い、地面に落ちた剣を見る。

 それから、空になった自分の手を見て、再び剣を見て……


 それの繰り返し。


 アルティナは、呆然としたまま固まる。


「アルティナ」

「……」

「アルティナ?」

「……はっ!? な、なに、師匠……?」

「あまり脅かさないでくれ」

「脅かす、っていうのは……?」

「最上位の剣技とか、そういう。ものすごく警戒したけど、大したことないじゃないか」

「えぇ……普通、ギガブレイクをどうにかするなんて、不可能なんだけど。文字通り、一撃必殺の技なのよ? 根性で受け止めて我慢して耐える人はいるかもしれないけど……完全に無効化して、おまけに相手の剣を弾くなんて、見たことないわ。師匠って、本当に人間? 実は、魔族だったりしない?」

「さりげなく酷いこと言わないでくれ……」


 師匠と言う割に、扱いが酷いぞ。


「ば、バカな……この僕が、この僕が……」


 シグルーンは呆然とした様子で、ぶつぶつと呟いて、地面に膝をついていた。


 おかしいな?

 この結果は予想できたことで、引き続き手加減をしてくれていたはずだ。


「剣だけを狙い、弾いただけだから、ダメージはないと思うが……」

「勇者って誇りを持っているヤツが、そんな曲芸みたいなことされたら、一気に自信喪失するわよ」

「しかし、これくらいは一般的だろう? おじいちゃんは、何度も見せていたぞ」

「一度、師匠の頭を解剖して、一般の定義を見てみたいわ。あと、師匠のおじいちゃんもけっこうおかしい人みたいね」


 最近、アルティナが辛辣なような気がする。


 寂しいというか辛いというか……

 これが、反抗期の娘を持つ父親の心境なのだろうか?

 切ないな。


「まっ、師匠のおかしさは今更だから置いておいて……勝負ありのようね。勝者、ガイ!」

「「「おおおおおぉっ!!!」」」


 アルティナの宣言と同時に、観客達が湧いた。


 大勢は、シグルーンの勝利を予想していただろう。

 しかし、それを裏切り、俺の大逆転。

 劇的な展開に盛り上がっているようだ。


「ぐっ……!」


 ふらふらとよろめきつつ、シグルーンが立ち上がる。

 怒りに顔を赤くして、こちらを睨みつけた。


「貴様……よくも、この僕に、ここまでの恥をかかせてくれたな!」

「え? 手加減してくれたのはキミだろう?」

「ぐっううううう……まだ言うか!!!」


 シグルーンの様子がおかしい。


 もしかして俺は、大きな勘違いをしているのだろうか……?

 しかし、どこをどう勘違いしているのか、いまいちわからない。


「もしかして……手加減をしていない? いや、まさか。俺のようなおっさんに、勇者が勝てないはずがない。あんなに剣も遅く、拙い。手加減をしているという理由以外、ありえないだろう。だとしたら、いったい……」

「あー……師匠? その辺にしといてあげたら? さすがにかわいそうになってきたわ」

「うん?」


 見ると、シグルーンは涙目でぷるぷる震えていた。

 怒りと屈辱が混ざり合っているみたいだ。


 ……なぜ、こんな状態に?


 というか、まいったな。

 うまく負けるつもりだったのに、勝ってしまった。

 そして、そのことをシグルーンは不服に思っているらしい。


 余計な恨みを買いたくなかったのだけど、失敗してしまった。


「今回のこと、必ず後悔させてやる! おぼ……」

「覚えていろよー、って?」

「っ!?」


 アルティナがニヤリと笑い、シグルーンの台詞を先取りした。


 その辺に、とか言っておきながら、アルティナの方が容赦ないような気がする。


「ちくしょうっ、くそっ!!!」


 シグルーンは顔を真っ赤にして広場を立ち去る。


 残された俺達は……


「おいおいおい、あんた、すげえな! まさか、あの勇者様に勝つなんてな」

「さぞかし名のある冒険者……じゃないんだよな? いやー、信じられないぜ」

「ねえねえ、今夜、ウチの店に来ない? サービスするわよ?」

「えっと……」


 あれこれと話しかけられて、戸惑ってしまう。

 誰もが好意的で、笑顔を向けてくれている。


 ずっと、おじいちゃんと山で暮らしていて……

 人と接する機会がなかった。

 ちゃんとした話はほとんどしたことがない。


 ただ、あえて接していないだけで、本当は避けていた。


 人は怖い。

 幼い頃のようにいじめられるかもしれない。

 だから、逃げていた。


 俺は、なんて情けない男だ。


 でも……


「……思い込みだったんだな」


 外の世界はこんなにも明るい。

 もっと早く外に出て、世界に触れておけばよかったのかもしれない。


 そうか。


 最後に、おじいちゃんが残した言葉……

 あれは、このことを指していたのかもしれないな。


 最後の最後まで俺のことを気にかけてくれて、心配してくれて……

 本当にありがとう。

 俺は、あなたと一緒に暮らすことができて、剣を教わることができて。

 そして、あなたの孫でいられてよかった。


 ありがとう。

【作者からのお願い】


「面白い」「長く続いてほしい」と思っていただけたら、是非ブックマーク登録をお願いします

また、広告下の『☆』評価で応援していただけると嬉しいです(率直な評価で構いません)。

皆様の応援が作品を続けるための大きなモチベーションとなりますので、よろしくお願いします!


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◇◆◇ 新作はじめました ◇◆◇
『追放された回復役、なぜか最前線で拳を振るいます』

――口の悪さで追放されたヒーラー。
でも実は、拳ひとつで魔物を吹き飛ばす最強だった!?

ざまぁ・スカッと・無双好きの方にオススメです!

https://ncode.syosetu.com/n8290ko/

GAノベル様から書籍1巻、発売中です! コミカライズ企画も進行中! こちらもよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[良い点] 精神性が最底辺の勇者 VS 自己評価が最底辺のおっさん 勇者 肉体ダメージ 0 精神ダメージ 100000000 おっさんは勇者の精神を破壊したw これからも楽しみにしていますね(^…
[気になる点] しぐるーんに人の意識が残っていることを切人願う、なんか魔族が出てきて魂を売りそうだけど。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ