26話 色々と難しい
シグルーンの剣の速度がどんどん加速していく。
風を斬る音が響いて……
衝撃波が撒き散らされるようになる。
それでも、俺の目は、しっかりと彼の剣を捉えていた。
一度も受けることなく。
剣で捌いて、あるいは避ける。
「ふむ?」
彼は、まだ手加減をしてくれているみたいだ。
これは、俺にとって勝ち目のない決闘。
場をうまく収めるためにも、俺が負ける必要があったのだけど……
そうでもないのだろうか?
口ではあれこれ言いつつも、俺のようなおっさんに花を持たせてくれようとしているのだろうか?
そうでも考えないと、この剣の遅さ、剣筋の読みやすさは理解できない。
俺に勝ってくれ、とでも言わんばかりの拙い戦い方だ。
「おっさんごときが、僕の、邪魔を……するなぁ!!!」
怒りの剛剣。
しかし、俺に届くことはない。
力任せの剣は勢いこそあるものの、それだけだ。
場を支配するだけの力はない。
俺でも理解していることだ。
勇者なら、当たり前のように身につけていると思うのだが……?
「むう」
判断に迷う。
もしかして、これがシグルーンの本気なのだろうか?
だとしたら、おっさん以下の勇者とはいったい……?
アルティナがお金で称号を買っていたと言っていたが、本当のことなのかもしれないな。
「……いや、なるほど。そういうことか」
「なにをぶつぶつと! 僕との戦いに集中しろ!」
「あなたは、わざと負けようとしているんだな?」
「はぁ!?」
「勇者であるあなたが、おっさんである俺に負けるなんてことはありえない。しかし、あなたの剣はとても遅く、また拙い」
「なっ、なっ……」
「なぜ手加減をするのだろうか? 答えは簡単だ。言葉が過ぎたことを反省しているが、しかし、ここまで騒ぎが大きくなった以上、決闘は避けられない。ならば敗北することで責を負う……なるほど、勇者にふさわしい誠実な態度だ」
「そ、そんなバカなことを……本気で考えているのか?」
「もちろんだ。そうでもないと、ここまで剣のレベルが低いなんてこと、ありえないだろう?」
「っ……!!!」
ぶつん、となにかが切れるような音がした……ような気がした。
「師匠の、その色々な意味での自覚のなさ、天才的ね」
「無自覚の煽りも強烈ですね」
「どういう意味だ?」
「ま、いいわ。あたしとしては、すっっっごく楽しいから、このままやっちゃって♪」
「私も応援します、がんばってください! 受付嬢として、まだまだ、たくさんガイさんに依頼を斡旋したいです♪」
なんのことだろう?
「……お前は」
「む?」
シグルーンの放つオーラが変わる。
さきほどまでは怒りに支配されていたが、今は違う。
静かで、そして冷たい。
まるで幽鬼のようだ。
ゆらりと動いて……
これ以上ないほど鋭く、激しく、怒りに睨みつけてくる。
「この僕を、どこまでコケにすれば気が済むんだぁあああああっ!!!?」
「いや? いったい、なんのことか……うぉっ」
さらにシグルーンの剣速が上がる。
剣に乗せられている力も上がる。
油断していたら、剣を弾かれてしまいそうだ。
それでも……
「やはり、まだ手加減をしてくれている。俺の考えは正しいのだろう? でも、安心してほしい。勇者であるキミが負けるのは、色々とまずいだろう。俺は、負けても失うものなんてない。手加減はせず、全力で来てほしい。遠慮は無用だ! おっさんとて、覚悟はあるぞ」
「まだ言うか、貴様ぁっ!!!!!」
なぜ彼は、脳の血管を切れさせるような勢いで、怒り狂っているのだろう?
謎だ。
「貴様は、これで……死ねっ!!!」
シグルーンは一度退いて、剣を深く構えた。
その姿は、弓矢を射る姿のよう。
「っ!? まずい、師匠!」
「どうしたんだ、アルティナ? まだ決闘は続いているから、片方に助言をするということは……」
「それどころじゃないわよ! あいつ、ブチ切れて見境がなくなっているわ!」
「なに?」
「ギガブレイク……最上位の剣技よ、あれは。超々高速の斬撃から繰り出される威力は、岩を砕くと言われているわ!」
「岩なんて砕いて当たり前だろう?」
「ああもうっ、師匠に常識がないから、この危機がうまく伝わらない!」
なぜかアルティナは、とてももどかしそうにしていた。
「いくら師匠でも、ギガブレイクを受け止めることはできないわ! かといって、避けたら観客に被害が……!」
「それは本当か?」
ようやく手加減を止めてくれたみたいだが……
観客に被害が出るような技は許容できないぞ。
「待ってて、あたしが今……!」
「いや、ダメだ」
「師匠!?」
「もう発動する」
溜め込まれていたオーラが一気に爆発する。
「ギガ……ブレイクぅうううううっ!!!!!」
アルティナ曰く、最強と呼ばれている剣技が放たれた。
超加速で突撃してくるシグルーン。
それと、なにもかも砕くような勢いを乗せた、オーラをまとう剣。
「師匠、逃げてっ!!!」
やれやれ。
アルティナは心配性だな。
その必要はない。
だって……
彼は、まだ手加減をしてくれている。
「ほいっ」
シグルーンの突撃を受け止めて。
同時に、ヤツの剣を弾いた。
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