25話 うまい具合に負けたいのだけど?
普段は露店や大道芸人達が仕事をする、街の広間。
そこで、俺とシグルーンは対峙して……
「おい、なんの騒ぎだよ、これ?」
「あのおっさんと勇者様が決闘をするらしいぜ。なんでも、互いの名誉と誇り人生……そして全てを賭けた、神聖な決闘らしい」
「勇者様に決闘を売るなんて、あのおっさん、バカなことをするわねー」
「いやいや。おっさん……ガイさんは、けっこう強いらしいぞ? なんでも、あの剣聖アルティナ・ハウレーンの師匠らしい」
「え、マジで? 剣聖アルティナ・ハウレーンっていえば、国で上から数えた方が早い実力者だよね? それに、いくつもの偉業を成し遂げて、国王から聖剣を授かった……っていう」
「おーし! なかなか面白そうな決闘だな。さあさあ、どちらが勝つか。どちらが負けるか。今のオッズは、8:2で勇者様に有利だが……どうだい? 一発逆転、大穴を狙う参加者はいるかい?」
「あたしは、もちろん勇者様よ」
「俺はおっさんに賭けるぜ!」
……街中の人が集まっているらしく、広間にはとんでもない数の人がいた。
どうして、ここまでの大騒ぎに?
俺はただ、事態を丸く収めるために決闘を受けたのに……
より事態が大きく、悪化しているような気がしてならない。
「さあ、愚かな冒険者よ。この僕に楯突いた報いを受けるがいい!」
シグルーンは得意そうな笑みを浮かべつつ、剣を抜いて、刃をこちらに向けた。
やや隙が大きいのだけど……
それは、絶対に勝てるという自信を持っているからだろう。
そうでなければ、『勇者』があのような隙を見せるわけがない。
「師匠ー! がんばってー! やっちゃえー!」
「ああ。応援、ありがとう。できる限り、食らいついてみるさ」
俺も剣を抜いた。
俺はおっさんで、初心者冒険者。
そんな男が、『勇者』の称号を授かるシグルーンに勝てるとは思えない。
彼は、性格に難があるようだけど……
でも、その実力は本物だ。
ドラゴンと真正面から戦うだけの力と度胸があることは、この目で確認した。
討伐に及ばなかったのは、武器が悪かったからだろうな。
たぶん。
「愚かな冒険者よ、その名前を聞いておこうか」
「前にも言ったと思うが……ガイだよ」
「ふむ。姓は?」
「あー……まあ、そんなことはどうでもいいだろう」
同じグルヴェイグを名乗ると、またややこしいことになるかもしれず、黙っておいた。
それにしても……
彼もグルヴェイグ姓だけど、なにか関係があるのだろうか?
もしかしたら血縁者なのだろうか?
後で調べた方がいいかもしれないな。
「確かに。キミのような卑怯者の名前を全て覚える必要はないな。ただ、決闘相手として、ガイという名前だけは覚えておいてあげようではないか。そうだな……愚かな卑怯者のド素人初心者冒険者ガイ、栄光ある勇者シグルーンに敗北して、その愚かな生を終える。キミの墓には、そう刻んでおいてあげようではないか」
命のやりとしなしの決闘のはずなのに、殺す前提で話すのはどういうことか。
「では、そろそろ始めようか。アルティナ、審判を頼むよ」
「ええ、いいわ」
「愛する僕のことがとても気になるだろうが、公正に頼むよ。このようなおっさんに不正で勝ったと思われては、決闘をした意味がないからね」
「あんたに贔屓することは絶対にないわ」
アルティナは呆れのため息をこぼしつつ、俺とシグルーンを交互に見る。
「いい? ルールは簡単。相手を戦闘不能にするか、降参させること。それ以外は続行。武器を失ったとしても、実戦を想定する、っていうことで続行。ただし、殺しはなしよ。双方、理解した?」
「ああ、問題ない」
「僕も問題ないよ」
「じゃあ、構えて」
アルティナの合図で、俺とシグルーンは剣を構えた。
たったそれだけで、すさまじい圧が俺を襲う。
これが勇者が持つプレッシャー……
しっかり集中していないと、意識を持っていかれてしまいそうだ。
相手は、俺よりも遥かに格上。
勝機はないに等しい。
しかし。
剣の道を歩む者として、逃げることはなく、全力で挑むことにしよう。
「……はじめ!」
合図と同時に、俺とシグルーンは前に出た。
互いの持つ木剣が激突する。
「ほう。僕の剣を受け止めるとは、なかなかやるじゃないか」
「……」
「初撃で仕留めるつもりだったのだけどね。それを阻止したことは、特別に褒めてあげよう」
「……」
「しかし、これはただの様子見だ。これから僕は少しずつギアを上げて……おい?」
「……え?」
「人の話を聞いているのか?」
「あ、いや……すまない」
まったく別のことを考えていて、シグルーンの話をぜんぜん聞いていなかった。
「戦いの最中に考え事だと……? この僕が、ここまでコケにされるとは……簡単に敗北して、決闘を終えられると思うなよ!? 貴様は、徹底的に痛めつけてやる!!!」
シグルーンは怒りに吠えて木剣を振る。
斬。
突。
薙。
打。
閃。
ありとあらゆる角度から。
ありとあらゆる剣撃を打ちつけてくる。
その剣技は勇者の名にふさわしく……
ふさわ……しい?
「ほう、多少はやるようだな。しかし、まだまだこんなものではないぞ! さあ、勇者の剣を受けるがいい!」
そう……だよな?
もっと上があるはずだよな?
本気なわけがないよな?
だって……
「はぁあああああっ!!!」
「……」
「せいやあああああっ!!!」
「……」
「てりゃあああああっ!!!」
「……」
シグルーンの剣の速度は、さきほどよりも上がっていた。
上がっているのだけど……
「……遅くないか?」
「なっ!?」
シグルーンが真っ赤になる。
「貴様ぁっ、この僕を侮辱するか!!!?」
「いや、しかしだな、このくらいでは……あぁ、そうか。手加減をしてくれているんだな? 口ではなんだかんだ言いつつも、俺のことを気にかけてくれているのか。その気持ちはありがたいが、気遣いは無用だ。決闘を受けた以上、俺も、負ける覚悟をしている」
「なっ、なっ……」
「しかし、このように手加減された状態では、負けるに負けられないからな。ほら、八百長だと思われてしまうだろう? キミも気にすることなく、本気で来てくれて構わない」
「……コロスッ!!!」
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