24話 隠し通すことができないから悪事という
無事にドラゴンを討伐することができた俺達は、みんなで協力してドラゴンを解体した。
肉、牙、鱗……その全てが貴重な素材だ。
ただ討伐するだけではなくて、その全てを最大限に活かしたい。
シグルーンは手柄だけ欲しかったらしい。
素材に興味はないらしく、一足先に街へ帰っていた。
その後、無事に解体も終わり、俺達も街へ戻る。
そのままギルドへ報告に向かうのだけど……
「あっ、ガイさん! アルティナさん!それにみなさんも……よかった、無事だったんですね。一応、討伐に成功したと聞いてはいたんですが、安全な姿を見れるまでは心配で……」
ギルドに入ると、リリーナが慌てた様子で駆けつけてきた。
俺達を見て、にっこりと微笑む。
その後ろに……シグルーン。
それと、討伐に参加していない冒険者達。
「そこで、僕はドラゴンの牙を受け止めて、弱者である皆の盾となったのだよ。そのおかげで今、彼らは無事に帰ってくることができた、というわけさ」
シグルーンが得意そうにドラゴン討伐について語っていた。
その話を聞く冒険者達は感心した様子で頷いて、あるいは、憧れの眼差しを向けている。
ただ……
「……おいっ、いい加減にしろよ!」
討伐に参加した冒険者の一人が声を大きくした。
「ガイのアニキは気にしてないっていうが、俺はもう限界だ!」
……アニキ?
「ドラゴンを討伐したのは、てめえじゃねえ。ガイのアニキだ!」
「……はは、なにをバカなことを」
シグルーンは嘲笑を浮かべる。
「彼が? 冗談もほどほどにしてくれ。冒険者になったばかりの初心者なのだろう? しかも、おっさんだ。そのような人物がドラゴンの討伐を為せるわけがないだろう」
「実際に、アニキがドラゴンを討伐しただろうが! てめえは、アニキの手柄を横からかっさらっただけだ」
「やれやれ……キミ、言葉には気をつけた方がいいよ? 僕は、Aランク冒険者で『勇者』の称号を持つ。それだけではなくて、とある有力貴族の息子だ。さきほどの繰り返しになるが、この言葉の意味がわからないほどバカではないだろう?」
「くっ……」
『勇者』の称号を授かる冒険者であり、貴族の息子でもある。
単純な力だけではなくて、大きな権力も持っているだろう。
シグルーンと敵対すれば、この街で生きていくことは難しいかもしれない。
だから、なにもしないのが一番だ。
皆、俺のことを気にかけてくれて、それはすごく嬉しい。
でも、シグルーンが言うように、俺はただのおっさんだ。
そんなおっさんのプライドなんて、皆の未来に比べればどうでもいい。
「みんな、落ち着いてくれ。俺は……」
「……あ、あたしもガイさんがドラゴンを討伐するところを見たわ」
他の冒険者が、意を決した様子で口を開いた。
それを合図にしたかのように、暴露が連鎖していく。
「俺もだ!」
「ドラゴンを討伐したのはシグルーンじゃない、ガイさんだ!」
「あの人は、ほとんど動けなくなっていた……というか、すでに死んでいたドラゴンにトドメを刺したフリをしただけよ。戦闘中も、勝手に前に出て勝手に自爆して、なにも役に立っていないわ」
「っていうか、勝手なスタンドプレーをして、皆を危機に晒していたよな? 邪魔者でしかないさ!」
不満が溜まっていたのだろう。
次々と暴露が飛び出して、シグルーンの顔色が悪い方向に変わる。
「貴様ら……この僕にそのような口をよくも効けたものだね。よほど冒険者を辞めたいと見える」
「おいおい、領主様に言って俺達をクビにしよう、ってのか?」
「やれるものならやってみやがれ! でもな、それは、自分の力じゃなにもできない、って言ってるようなものだぞ!」
「仮に冒険者を辞めさせられたとしても、あんたなんかに従うくらいなら、後悔なんてないわ! 正しいことを伝える!」
「ぐっ……」
勇者の威光が通用しない。
父の権力に怯むこともない。
そんな冒険者達を前にして、シグルーンは苦虫を噛み潰したような表情に。
まっすぐな性格の冒険者達は、彼にとって、もっとも厄介な存在なのだろう。
ただ……
このままだと、冒険者達は本当にクビにさせられてしまうかもしれない。
俺をかばってくれるのは嬉しいが、そんなことになったら後悔してもしきれない。
この場をうまく収める、いい方法はないだろうか?
……シグルーンのヘイトを俺に向けて、冒険者達への意識をなくす、とか?
「おいっ!」
ちょうどいいタイミングで、シグルーンがこちらを睨んできた。
「自分は後ろに隠れ、彼らに守ってもらうのか!? 情けないぞ! 男なら、正々堂々と前に出て、自分の声をぶつけてみせるがいい!」
「はぁ? 正々堂々とか、世界で一番似合わないことを言うんじゃないわよ」
アルティナも怒っている様子だ。
すでに殺気を放っている。
今日何度目だろう?
うちの弟子は、かなりのわんぱくです。
しかし……まずいな。
このままだと大乱闘に発展してしまいそうだ。
どうしよう?
「ぐっ……貴様!」
シグルーンがこちらに手袋を投げつけてきた。
「決闘だ!」
「え」
「僕の名誉とキミの名誉、それらを賭けて戦おうじゃないか! そして、勝者の言葉が正しいことを証明するのだよ。まさか、逃げるなんて言わないだろうね? それと、考える時間なんてものも……」
「よし、わかった!」
「え? あ……そ、そうか。決闘を受けるか」
食い気味に答えると、シグルーンは動揺した様子を見せた。
たぶん、俺が即答するなんて思っていなかったのだろう。
でも、これが最適解だ。
俺が決闘を受ける。
これなら、みんなにヘイトが向くことはない。
そして、敗北。
シグルーンは調子に乗るだろうが、まあ、それはそれ。
負けたとしても、俺の名誉が傷つくということなのだけど……
元々、そんなものはないので気にする必要はない。
よし、完璧な作戦だ!
「師匠、ようやくやる気になってくれたのね! あの勘違い野郎をぶっとばしちゃって!」
「絶対にアニキが勝つぜ!」
「あたし、街の人に声をかけてくるわ。もちろん、ガイさんの応援もする!」
……あれ?
なんか、思っていた以上に大事になるような……?
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