23話 手柄なんてくれてやればいい
「「「おおおおおぉ、やったぞーーー!!!」」」
ややあって、他の冒険者、後方支援の部隊が歓声をあげた。
今回のドラゴン討伐は、わりと絶望視されていたのだろう。
参加したメンバーは、それこそ相打ち覚悟だったのだと思う。
しかし、思わぬ形で討伐することに成功した。
誰一人、脱落者を出すこともなく。
『撃竜砲』を使うこともなかった。
完勝。
喜んで当然だ。
笑顔で抱き合い、歓声をあげて、ひたすらに騒いでいる。
ドラゴンは討伐したものの、ここは街の外なので、他にも魔物がいるだろう。
あまり騒ぐとそいつらが寄ってきてしまうかもしれないが……
まあ、今はいいか。
今はこの喜びをみんなで……
「ふんっ!」
一人、冷静に動いていたシグルーンは、地に落ちたドラゴンの元へ向かい、その頭部に剣を突き立てた。
強靭な鱗に覆われているものの、動けない状態なら、さほど頑丈ではない繋ぎ目を狙うことは簡単だ。
「ちょっとあんた、なにを……」
「これで、僕がドラゴンを討伐したことになる」
「なっ……!?」
得意そうに笑うシグルーン。
眉を吊り上げるアルティナ。
俺は……
特に感情を乱すことなく、成り行きを見守ることにした。
「あんた……どういうことよ? どこからどう見ても、ドラゴンを討伐したのは師匠でしょ」
「おっさんがドラゴンを討伐? はは、バカな話はやめてくれ。そんな話、誰が信じるっていうんだい?」
「でも、実際に……」
「ドラゴンは、勇者である僕が討伐した。それが事実だ。そこにいる君達も、そういう認識で問題ないね?」
「「「……ぅ……」」」
笑顔を浮かべていた冒険者達は、みるみるうちにおとなしくなってしまう。
まるで蛇に睨まれたカエルだ。
「僕は勇者だ。そして、とある有力貴族の息子でもある。その意味は……理解できるね?」
「「「……」」」
誰もなにも言わない。
反論もしない。
つまり、そういうことなのだろう。
「そう、この僕こそが勝者なのだ。それは絶対。違えることのない世界の真理なのさ」
「……あほくさ」
アルティナから殺気がこぼれていた。
落ち着いてくれ。
ドラゴンを討伐した今、冒険者同士で戦う必要はない。
ただの私闘になってしまうし、ヘタをしたらアルティナが罪に問われかねない。
「ところで……キミ」
「なんだい?」
「賭けのことを覚えているかい?」
「そう、だな……ああ、ちゃんと覚えている」
その点についてだけが問題だ。
ドラゴン討伐の手柄なんてくれてやるのだけど、しかし、アルティナを好きにさせるわけにはいかない。
いざという時は、前言撤回するか?
しかし、そうなると衝突は必須だ。
「キミも多少ではあるが、役に立った。その実力、それなりに認めてあげようじゃないか」
「それは……ありがとう」
「賭けの内容も、一部、取り消してあげよう。本来なら、愛するアルティナを取り戻したいところだけど……」
「……ブッコロス、ブッコロス、ブッコロス」
お願いだから、光の消えた瞳で物騒な言葉を連呼しないでほしい。
「キミの活躍に免じて、別のものを要求する、ということでどうだろう? 彼女の目は、これでもまだ覚めていないみたいだからね」
「わかった。そうしてくれるなら、こちらも助かるよ。それで、俺はなにをすればいいんだ?」
「簡単なことさ。謝罪をしてもらおう」
「謝罪?」
「そうだね……こう謝罪してもらおうか。『偉大な勇者シグルーン様に逆らった愚か者を、どうかお許しください』……とね」
「……ヨシ、コロス!」
「まてまてまて」
アルティナが剣の柄に手を伸ばしたため、慌てて止めた。
静止しつつ、彼女の前に立つ。
「謝罪をすれば、許してもらえるのかい?」
「ああ、約束しよう。僕は心が広いからね」
「わかった」
「師匠!? こんなヤツに、そんな理不尽な謝罪なんて……」
「いいんだよ。俺のことよりも、アルティナの方が大事だ。なら、俺にできることはなんでもやるよ」
「……師匠……」
この謝罪で問題があるとすれば、俺のプライドの問題だけ。
でも、それは問題といえるほどのものじゃない。
些細なこと。
一番大事なのはアルティナだ。
そこを間違えたらいけない。
俺はシグルーンに向けて深く頭を下げた。
「偉大な勇者シグルーン様に逆らった愚か者を、どうかお許しください」
「……くっ、くははは! まさか、本当に謝罪をするとは……なんていう腰抜けなんだ! なんていう間抜けなんだ! ドラゴンを落としたのは、本当にただの偶然だったようだね」
「これで許してくれるんだろう?」
「ああ、いいさ。許してあげよう。僕は優しいからね。はーっはっはっは!!!」
シグルーンは高笑いを響かせつつ、先にこの場を後にした。
「やれやれ、元気だなあ。まあ、冒険者なら、あのくらい元気があった方がいいのかな?」
「……マジコロス」
「落ち着いて、アルティナ」
「でも師匠!」
「いいんだよ、俺のことは。おっさんが持つプライドなんて、大したことないからな。それよりも、アルティナになにもなかった方が嬉しい。もしも、前言撤回しないでアルティナに手を出すようなら、俺は、徹底抗戦しただろうけどな」
「え? そ、そうなの……?」
「もちろんだ。アルティナは、俺の大事な弟子だ。家族のように思っている」
「か、家族!?」
「師匠らしいことはしてやれていないが……まあ、だからこそ、たまにはこういうところでかっこつけさせてくれ。かっこよくなかったかもしれないが」
「ううんっ、そんなことないわ! 師匠はかっこよかった、世界で一番かっこいいわ! だって、あたしを守ってくれたもの! 拳じゃなくて、知性と理性で守ってくれたもの!」
「うん、俺もアルティナが無事でよかったよ」
にっこり笑うと、アルティナが赤くなる。
「えっ、あぅ……や、やばい。その笑顔、反則すぎる……」
「アルティナ?」
「だ、ダメ……今、あたしの顔を見ちゃ……ダメ」
「どうしたんだ? 顔が赤いぞ?」
「な、なんでもないわよ! だから、見ないで!」
なぜ怒る?
むう……年頃の乙女は難しいな。
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