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21話 ドラゴン討滅戦

 いよいよ作戦が開始された。


 第一陣である、武装した冒険者達が前に出て、森へ向かう。


 その後方に、第二陣。

 こちらは後方支援担当だ。


 そして、最後に第三陣。

 全体の指揮を取りつつ、切り札である『撃竜砲』の運搬を担当している。

 『撃竜砲』を放つのも第三陣の役目だ。


 当然ながら、俺達は第一陣に配置された。

 森の中を慎重に進む。


「……動物だけじゃなくて、魔物もいないわね。普段なら、何匹かとっくに遭遇しているはずなのに」

「たぶん、ドラゴンの気配に怯えて逃げたんだろうな」


 セリスの情報は間違っていない。

 ドラゴンはこの森にいる。


 だというのに……


「ふむ? 静かな森だな。このようなところに、本当にドラゴンがいるのかい? 情報に疑いを持ってしまうな」

「……情報源は、領主の娘のセリスよ」

「おぉ! あのセリス嬢か! ならば、間違いはないな。ここにドラゴンがいることは確実なのだろう。なにせ、彼女もまた、僕の嫁候補なのだからね!」

「あんたね……」


 アルティナが頭を抱える。


 大丈夫。

 俺も頭が痛い。


 大丈夫じゃないか。


「というか……」

「なんだい?」

「もう敵の生息圏内だ。下手に大きな声を出さない方がいい」

「なに? この僕が、ドラゴンを相手に遠慮しろというのか?」

「え? いや、そういう意味じゃなくて……」

「僕は、どのような場であろうと僕であることをやめない! それを止めることは、ドラゴンであろうと不可能だ!」


 そういう問題じゃないだろう?

 無駄に相手を刺激することになるし、できれば先制攻撃をしたいから……


 って、ダメだな。

 彼は、本当に人の話を聞かないタイプだ。


 できれば、作戦に支障をきたすことがないようにしてほしいものだけど……


「グルァアアアアアアアァッ!!!」


 ……手遅れのようだ。


 待機を震わせる咆哮が響き渡り、巨体が姿を見せた。


 空を覆うほどの翼。

 槍のように鋭く、歪な形をした牙。

 刃を弾いて、魔法も弾く、強靭な鱗に身を包む。


 天災級。

 Sランクの魔物、ドラゴンだ。


「なっ!? こんな浅いところにいるなんて聞いてないぞ!?」

「やばっ……い、急いで陣形を、いや、それよりも……」

「待って待って待って!? あたしは後方支援なのに……」

「みんな、落ち着くんだ!」


 見つかった以上遠慮はいらないと、俺はありったけの声を響かせた。

 突然の遭遇に浮足立つ冒険者達は、ぴたりと動きを止める。


 よし、うまくいった。

 こういう時は、さらに驚かせるようなことをしてしまえばいい。

 そうすれば、わずかな間ではあるものの、なにも考えられなくなる。


 その間に、本来、やるべきことを思い出してもらう。


「予定と違うけれど、俺達のやるべきことは変わらない! そうだろう?」

「そ、それは……」

「ドラゴンを討伐して、街を守る! 街にいる大事な人達を守る! 俺達は今、そのためにここいる……そうだろう!?」

「……っ……」

「だから、やるべきことは一つだ。みんな、がんばろう!」

「「「おう!!!」」」


 さすがだ。

 冒険者達は我を取り戻して、それぞれの配置に即座に移動した。


 一方で、えぇ……と思える男もいた。


「さあ、ドラゴンよ。正義の剣を受けてみるがいい!」


 誰よりも早く動いたのは、シグルーンだった。

 彼は動揺することなく剣を抜いて、やや迂回しつつ、ドラゴンに突撃する。


 強烈な一撃。


 その剣の閃きは勇者の称号にふさわしい。

 力強さだけではなくて、速さも感じられる。


 シグルーンの刃がドラゴンに届いて……


 ガキィーーーンッ!!!


 甲高い音を立てて、シグルーンの剣が折れた。


「……は?」


 呆然と立ち尽くすシグルーン。

 対するドラゴンは、激しい怒りを見せていた。


「ガァッ!!!」

「ひっ……!?」


 ドラゴンが吠えて、シグルーンが逃げ腰になる。


 慌てて予備の剣を抜いて、斬りかかるものの……

 やはり結果は変わらない。

 予備の剣も折れた。


「なっ、なっ……バカな!? この僕の一撃が通らないだと!?」

「いや、当たり前でしょ。ドラゴンの鱗は、鋼鉄よりも硬いのよ? 剣で切れるわけないじゃない。バカなの?」


 アルティナは冷めた目でツッコミを入れつつ、自慢の聖剣を抜いて、ドラゴンの注意を他に逸らす。

 シグルーンのようなヤツでも、さすがに死なれては目覚めが悪いのだろう。


 なんだかんだ、優しい子だ。


「ガァッ!」

「ひぃっ……!?」


 ドラゴンに食われそうになり、シグルーンが悲鳴をあげた。


 そんな二人の間に割り込み、とある袋を投げつける。


「ギァッ!?」


 赤い粉が散り、ドラゴンが悲鳴を上げた。


「師匠、今のは……」

「ああ。激辛香辛料だ。こうして、目眩しとして使うこともできる」

「へぇ、そういう使い方は考えたことなかったわ」

「これで、ちょうどいい感じに注意がこちらに向いたな」


 ドラゴンが怒りに吠えて睨みつけてきた。

 俺とアルティナの間に緊張が走る。


「俺が切り込むから、アルティナは援護を頼む」

「無茶よ。いくら師匠でも、ドラゴン相手には敵わないわ……」

「まあ、時間稼ぎくらいはできるさ」

「……わかったわ。でも、戦うなら比較的装甲の薄い翼や口内を狙って。鱗を真正面から斬るなんて、自殺行為よ。剣が折れてしまうだけで……」


 ザンッ!


「お、斬れた」

「なんで斬れるのよっ!!!?」


 試しに斬撃を放つと、鱗を貫くことができた。


「あたしの話、聞いていた!? ドラゴンの鱗は鋼鉄よりも硬いの! あたしの聖剣でも、鱗に傷をつけることで精一杯! ぶち破ることなんて不可能なのよ!?」

「でも、斬れるからなあ……」


 ザクザクザク。


「……あたし、もしかして夢を見ているのかしら? 師匠の非常識さは知っているつもりだったけど、まさか、ここまでだったなんて……」

「は、ははは! おっさんにできて、この僕にできないことはない! さあ、喰らえ、正義の一撃を!」


 ギィンッ!


 シグルーンが元気を取り戻して、再び斬りかかるものの、やはり剣が折れてしまう。


「ひぃっ……!?」


 全ての武装を失い、シグルーンは慌てて後退していった。


「むぅ? あれが勇者なのか……?」

「そこそこの実力があるのは確かよ。でも、称号は金で買っているのよ、あいつ」

「なるほど」


 困ったものだ。

 おっさんである俺も、こうしてドラゴンと対峙できるくらい強くなれるのだから、きちんと鍛えればいいのに。


 とはいえ、今はシグルーンを責めている時ではない。


「師匠!」

「ああ!」


 アルティナとアイコンタクトをして、俺達はさらに前に出た。


 突然の遭遇で、完璧な布陣を敷くことができていない。

 その時間を稼ぐために、俺とアルティナがドラゴンに突撃する。


 最初に俺が刃を振る。


 いつもの素振りを思い出して、剣に心と気を込めて……一閃。

 鱗を切り裂いて、その下の肉も切り裂いた。


 反動を利用して軸足を回転させつつ、もう一撃。

 ドラゴンが悲鳴をあげて後退するけれど……


「こ……のぉっっっ!!!」


 俺を隠れ蓑にして接近したアルティナが追撃を放つ。

 その刃は鱗を砕き、身を傷つける。


「やった、あたしもできた!」

「さすがだな」

「師匠の真似をしただけだから、師匠のおかげよ」

「ガァアアアッ!!!」


 ダメージは与えているものの、致命傷は遠いようだ。

 ドラゴンは嫌がるような咆哮を上げつつ、上空に逃げた。


 小さなダメージではあるが、そもそも、ドラゴンがダメージを受けることは滅多にない。

 久しぶりに味わうであろう『痛み』という感覚を恐れ、逃げた様子だ。


 ただ、問題はない。

 多少ではあるものの、時間を稼ぐことができたため、後方支援部隊が動きを整えた。

 矢で牽制した後、複数人が同時に魔法を放つ。


 十を超える火球が、それぞれ複雑な弧を描きつつドラゴンに迫り……

 着弾。

 ゴガァッ!!! という轟音と共に、炎と衝撃を撒き散らした。


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