189話 悩ましき剣聖
たまたま近くまで来ていたこと。
それと、妹から声がかかったこと。
その二つの要因で、ソーンはエストランテにやってきたと思っていたのだけど……
実際は違ったらしい。
アルティナにも話していない、厄介な依頼を抱えていたという。
その詳細は、まだ聞いていないものの……
ソーン一人では手に余るらしい。
いや。
手に余るというと語弊があるか。
ソーン一人でも依頼の解決は可能と予想される。
ただ、100パーセントの完璧な達成は難しい。
また時間もかかってしまう。
できるのなら完璧な形で依頼をこなしたいし、あまり時間もかけたくない。
そこで、協力者として俺達に声がかかったわけだ。
「……」
「報酬は……金貨500枚!?」
「なかなか聞かない破格の報酬ね」
「500枚……それだけあれば、おまんじゅうがどれだけ食べられるか……じゅるり」
「ノドカさんって、そんなに食いしん坊キャラだったっけ……?」
金貨500枚という依頼は、俺も聞いたことがない。
冒険者になってそこそこ経つが……
俺だけではなくて、他の冒険者もそのような依頼を請けたことはないはず。
以前、エストランテの近くにドラゴンが出現したことがあるが、その時でも、500枚の報酬はない。
ということは……
ソーンの依頼というのは、ドラゴン以上の脅威、難易度ということなのだろう。
「……強制はできない」
ソーンが低い声で言う。
今度は三人も聞き取れたらしく、真剣な表情に。
「死の可能性もある依頼だ……任せる」
「その依頼の内容をまず話してもらうことは……」
「……すまない」
ソーンは首を横に振る。
守秘義務があるのだろう。
難易度が高いだけではなくて、厄介な問題が絡んでいるのかもしれない。
その上で、俺達に協力を求める。
ソーンも、わりと追い詰められているのかもしれない。
「みんなは……」
「「「お任せ」」」
アルティナとノドカとユミナの三人は口を揃えて言う。
「あたしは師匠の弟子だから。師匠の行くところに、どこまでもついていくだけよ」
「同じくでありますよ。それに、それだけ危険ということは、それだけ大きな危機ということでありますよ。見過ごせません」
「私がそうしてもらったように、私も誰かを助けたいし……お兄ちゃんなら、もう答えは決まっているよね?」
「ああ」
ユミナの問いかけに、しっかりと頷いてみせた。
ソーンさんには、剣士として大事なことを教えてもらった。
それだけではなくて、アルティナの兄であり……
そうでなくても。
困っている人がいて。
なにか俺にできることがあるのなら、見なかったことにはしたくない。
自分できる最大限のことをしたいと思う。
おじいちゃんのような、そんな生き方をしたい。
「俺達でよければ手伝わせてください」
「……恩に着る」
ソーンさんは頭を下げた。
――――――――――
ソーン・フォールンブラッド。
アルティナの兄であり、同じく『剣聖』の称号を授かる。
ただ、もっとも『剣神』に近いと言われていて……
アルティナも認めるほどの超一流の剣士だ。
そんなソーンさんが助力を求めて、『困難』と言わせるほどの依頼とは?
「……魔族の討伐だ」
 




