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183話 剣の兄妹

 数日後。


 俺達は、全員で街の酒場に赴いていた。


 昼から酒を飲むつもりはない。

 ただの食事なのだけど……

 今日はもう一人、客がいる。


「アルティナ殿、アルティナ殿。兄君はまだですか!?」

「アルティナちゃんのお兄さん、どんな人なのかなー?」


 ノドカとユミナはとても楽しそうだ。

 仲間の家族に会うということを、一大イベントとして捉えているらしい。


 気持ちはわからないでもない。

 ただ、普通は緊張しそうなものだが……


 これも若さだろうか?


「兄さんは見世物じゃないし、実際に会ったらがっかりすると思うわよ?」

「アルティナ殿の兄君なので、会えるだけでもいいのでありますよ」

「そうそう。友達のお兄さんとか、なんか、よくわからないけど見てみたいよね」

「もの好きねぇ……」


 はしゃぐ二人と対象的に、アルティナは落ち着いていた。

 というか、ちょっと嫌がっている様子。


 この前も言っていたが、ソーンさんのことは嫌いではないものの苦手みたいだ。


 いったい、どのような人なのだろう?


「ソーンさんとは、ここで待ち合わせをしているんだよな?」

「ええ。ちょっと連絡をとってみたら、時間を取ってくれるみたいだから」

「そうか。わざわざ来てもらうなんて、申しわけないな。きちんとお礼を言わなければ」

「いいのよ、そんなこと。兄さんのことだから、そういうことはまったく気にしないだろうし」

「ふむ?」


 本当に、どんな人なのだろう?

 話を聞けば聞くほど、ソーンさんという人物像がわからなくなっていく。


 実際に会い、話をするのが一番だろうな。


 ……そんなことを思っていると、一人の男が姿を見せた。


 巨人。

 まず最初に、そんなことを思ってしまう。

 背はとても大きく、ぱっと見ただけで二メートルを超えていることがわかる。


 特筆するのはそれだけではない。

 全身が鍛え上げられて、筋肉の鎧で覆われていた。

 手足が丸太のよう。

 俺の腕の倍の太さがあるのではないだろうか?


 腰に下げるのは一本の剣。

 妙な圧を感じて、鞘に収められていて見えないのだけど、かなりの業物ということが理解できた。


「兄さん、こっちよ」

「……」


 アルティナが手を振ると、男はこちらを見た。


 やはり……

 あの人がソーンさんなのか。


「久しぶり、兄さん。元気にしてた?」

「……」

「そ、特になにもないんだ。まあ、なにもないってことは平和っていうことだから、それはそれでいいんじゃない?」

「……」

「ところで、どうしてこんなところに? 義姉さんと一緒にいなくていいの?」

「……」

「ちょっと大きな依頼があった、って……普通に色々とあったんじゃない。まったくもう、いつも通り言葉足らずなんだから」

「……」


 久しぶりに会えたのが嬉しいのか、アルティナはご機嫌な様子で話をする。

 色々と言っていたものの、なんだかんだ、家族に会えて嬉しいのだろう。


 それはわかるのだけど……


「……ガイ師匠、アルティナ殿はなぜ独り言を?」

「……アルティナさん、どうしたんだろう?」


 二人の疑問はもっともだ。

 アルティナはあれこれと話をしているのだけど、ソーンさんはなにも応えていない。


 いや。

 よく見ると小さく相槌を打っているが……

 もしかして、俺達がわからないだけで、二人の間では会話が成立しているのだろうか?


「師匠、紹介するわ」


 少しして、アルティナはソーンさんに手をやる。


「この人があたしの兄の、ソーン・フォールブラッド。あたしと同じ冒険者で、『剣聖』の称号を授かっているわ」

「……よろしく」


 とても小さな声で言い、ソーンさんは頭を下げた。


「こちらこそよろしくお願いします。会えて光栄です」

「……」

「アルティナから簡単には話を聞いていましたが、とても優れた冒険者なのでしょうね。なんというか、とてもすごい圧を感じますよ」

「……」

「えっと……」


 返事がまったくない。

 ただ、視線はこちらに向いたまま。


 無視されているわけではなさそうだが……


 もしかして、気づかないうちに失礼をやらかしてしまったのだろうか?


 焦るのだけど、アルティナが呆れた様子で言う。


「師匠、気にしないでいいわよ。兄さん、別に怒っているとか、そういうわけじゃないから」

「と、いうと……?」

「兄さんって、ものすごい寡黙というか、コミュニケーション不足というか。ほとんど喋らなくて、それが当たり前。家族のあたしでも、一緒に家にいた頃、兄さんの声を一日に一回聞くかどうか、っていうところ。そんな人なのよ」


 だから会わせたくなかった……と、アルティナは最後に一言付け足した。


 な、なるほど。

 とても寡黙な人なのか。

 アルティナが渋っていたのも理解はした。


 ただ……


「……」


 ソーンさんは、相変わらず無口だ。

 その視線は、時折、アルティナに向けられていて……


 どこか穏やかで優しい顔をしている……ような気がした。

 詳しい違いはわからないけど、そう感じた。


 寡黙で無口。

 でも、妹であるアルティナのことを大事に想っていることが伝わってきた。


 きっと、彼はいい人なのだろう。

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― 新着の感想 ―
寡黙なモブなら良いが、ストーリー上の重要キャラにこの設定をブッ込む作者様に敬礼( ゜Д゜)ゞ
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