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182話 二人目の剣聖

 ソーン・フォールブラッド。


 アルティナと同じ『剣聖』の称号を持つ。

 その腕を買われ、貴族だけではなくて国からも声がかかるものの、特定の組織に所属することはない。


 唯一、冒険者という枠に属しているものの……

 しかし、常に単独行動。

 誰かとパーティーを組むことは一切ない。


 孤高の剣聖。


 ただ、その腕は確か。

 ソロで長年、活動を続けられることで証明されていて……

 また、ドラゴンやヒュドラという、恐ろしい魔物の討伐も一人でやってのけている。


 ソーンは、いつも高難易度の依頼を請けて。

 大して体を休めることなく、戦場から戦場を渡り歩いていく。


 戦に飢えているようでもあり。

 あるいは、死地を探しているようでもあった。


 彼の剣は、なにを求めているのか?

 どこを目指しているのか?


 それは、ソーン本人しかわからない。




――――――――――




「……っていうのが、あたしの知っているソーンの情報ね」


 剣聖の話は同じ剣聖に聞くのが一番。

 そうリリーナにアドバイスされて、アルティナに話を聞いた。


 稽古をしていたアルティナはタオルで汗を拭い、ドリンクを一口。

 幸せそうな顔をしつつ、言葉を続ける。


「ソーン・フォールブラッド……か」


 聞いたことのない名前だが……

 それは、俺が世間知らずのせいだろう。


 長年、辺境の山にこもっていたせいで、未だそういう情報は疎い。


「師匠は、ソーンと会いたいの?」

「できることなら」


 ソーンさんと剣についての話をして。

 そして、できるのなら直接、教えを請いたい。


 ただ、今の話を聞いた限り、とても忙しそうな人だから難しいかもしれないな。


「んー……師匠の邪魔をするつもりなんてないんだけど、やめておいた方がいいわよ?」

「どうしてだ?」

「だってあいつ、めっちゃ頑固者だもん。それと無愛想で、なにを考えているかわからないし。ついでに言うと、デリカシー皆無。もしもあいつと結婚する人がいたら、ものすごく苦労するでしょうね」

「……」

「どうしたの、師匠?」

「もしかして、アルティナはソーンさんと知り合いなのか?」

「えっ」

「いや。色々と知っていそうというか、わりと砕けた感じで言うものだから、そうなのだろうか? と」

「えっと……」


 アルティナが、気まずそうに視線を逸らした。

 ここにノドカやユミナがいれば、あれあれー? と追求していただろう。


 ちなみに、今、二人はいない。

 日用品の買い出しに行っているらしい。


「無理に聞き出そうとは思わないが……」

「あー……まあいいわ。別に隠しておくようなことじゃないし」


 小さな吐息。

 それから、アルティナは、ちょっとぶっきらぼうな感じで言う。


「ソーンは……兄さんなのよ」

「……え?」

「だから、ソーン・フォールブラッドは兄さんなの。あたしの兄!」

「なんだって……?」


 まったく予想していなかった話に、ついつい思考が数秒間停止してしまった。


 アルティナは剣聖。

 ソーンさんも剣聖。

 まさか、兄妹で剣聖だとは……


「ん? しかし、姓は……」

「兄さんは結婚しているから。婿入りっぽい感じだから、相手の姓になっているの」

「そうだったのか」

「まあ、なんていうか……あたしも、そのうち姓が変わるかもだけど?」

「そうなのか!? アルティナに、そんな相手が……」

「……」


 まったくわかっていない、という感じで、アルティナが不機嫌そうになる。


 俺は今、なにもしていないよな……?


「はあ。とにかく、そういうこと。ソーンはあたしの兄さんだから、色々と知っているわ。そんなあたしに言わせると、会うことはオススメしない」

「オススメしないのか……」

「今言った通り、剣の腕はいいけど、性格の方がダメダメだから。まともな会話が成立するかどうか、かなり怪しいわね」

「そ、そこまでなのか……」

「会ってもストレスが溜まるだけだし。だから、あたしもぜんぜん会っていないし、手紙のやりとりもしていないし。最後に顔を会わせたのは、あたしが家を出る時だから……五年くらい前かしら? その間、一切、やりとりをしていないわ」

「徹底しているな」

「まあ、嫌いじゃないんだけどね。仲も、別に悪くないと思うわ。ただ単に、あたしとは合わないっていうだけ」

「ふむ」


 アルティナは、ソーンさんのことが本当に苦手みたいだ。

 話していると、何度も表情を歪めている。


 それでも家族としての情はあるらしく。

 苦手そうにするけれど、嫌そうにはしない。


 なんだかんだ、兄を慕っているのだろう。


「……それでも、あえて頼むことはできないだろうか?」

「師匠、あたしの話を聞いていた?」

「もちろんだ。ただ、それでも話をしてみたいんだ」


 アルティナは、ソーンさんの剣の腕は認めていた。

 つまり、『剣聖』の称号に恥じない実力者ということ。


 できることなら、剣の話をしたい。

 そして、教えを請いたい。


 無論、俺のわがままにアルティナを付き合わせるわけにはいかないから、無理を言うつもりはないが。


「……はぁ、わかったわ」


 ややあって、アルティナはため息と共に言う。


「兄さんがエストランテに来たら、紹介してあげる」

「本当か?」

「あたしも、さすがに無視するわけにはいかないし……ついでよ、ついで」

「ありがとう、アルティナ。助かるよ」

「そ、そう? 師匠の役に立てるのなら、まあ、それはそれでアリかもね♪」


 アルティナは機嫌よさそうに、そんなことを言うのだった。

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