18話 勇者と呼ばれている男
策を練り。
物資を補充して。
できる限りの準備をして……
あっという間に時間が流れていく。
セリスは、他にも一部の冒険者に依頼をしたようだ。
いくらかのパーティーが慌ただしく動いている。
そんな冒険者達を見て、街の人もなにか感じたのだろう。
硬い表情をする人が多くなり、街全体の空気がピリついていた。
「師匠、食料と水の手配、終わったわ。あたしの顔で、二割引きにさせたから、ちょっと資金に余裕ができたかも」
「ありがとう。さすが、アルティナだな」
「えへへー。師匠に褒められちゃった、えへへー♪」
「アルティナ?」
「はっ!? な、なんでもないわ! それよりも、激辛香辛料なんてなにに使うの? 師匠、辛いものが好き?」
「それは食べるんじゃなくて、別の用途があるんだ」
「んー?」
「後で説明するよ。とにかく、今は準備を急ごう」
セリスの見立てでは、ドラゴンの襲来は明日か明後日。
残された時間は少ない。
できる限りの準備をしないと。
「次は……他の冒険者達を集めて、策の最終確認か」
「ギルドに集められているらしいわ。行きましょう」
ギルドに向かう途中、街の人の様子を見る。
ピリついた雰囲気を感じているため、ややぎこちない。
ただ、子供達はなにも知らない様子で、笑顔で遊んでいた。
……この笑顔は守りたいな。
おっさんである俺になにができるのか、それはわからない。
しかし、大人の務めとして、子供を守りたいと思う。
その後、ギルドに到着した。
中に入ると、十数人の冒険者が集められている。
全員、今回のドラゴン討伐戦に参加する者達だ。
Aランク前後。
俺のような初心者が混じっていいのか、やや不安になるが……
今は、やれることをやろう。
「みなさん、集まってくれてありがとうございます。では、数日中に始まるであろう、ドラゴン討滅戦の策についてお話します」
場を仕切るのは、意外というかリリーナだった。
彼女は受付嬢ではあるものの、ギルド内の地位は高いらしい。
策はこうだ。
様々な情報を検討した結果、ドラゴンの大体の出現位置を特定したらしい。
その情報によると、北の森林地帯に出現するとのこと。
すでに森林地帯には、ありったけの罠を仕掛けておいた。
ただ、それで討伐できることはない。
せいぜいが足止めだろう。
でも、それで十分。
第二陣として、俺達、冒険者が切り込む。
相手はドラゴンだ。
まともな戦闘になるか怪しいが……
しかし、俺達も時間稼ぎ。
本命は、『撃竜砲』。
ドラゴンを討伐するために開発された最新兵器で、セリスが無理を言って、王都から取り寄せたものらしい。
俺達、冒険者が時間を稼いで、足止めをして……
後方部隊が『撃竜砲』を使い、ドラゴンを討つ。
「……以上が、今回の策になります」
言葉にすると簡単だけど、実戦となると、そうそう簡単にはいかないだろう。
想定外のトラブルなんて当たり前。
策が失敗して全滅、という可能性もある。
皆の顔は緊張に包まれていたが……
「一つ、いいかい?」
若い冒険者が挙手した。
アルティナと同じくらいの歳。
かなりの美男子で、街を歩けば、十人中九人の女性は思わず振り返ってしまうだろう。
「僕達、冒険者は囮で、本命が『撃竜砲』ということだけど……間違いないかい?」
「はい、そうですね」
「しかし、僕はそこに納得がいかない」
「え?」
「僕の力ならば、『撃竜砲』なんてものを使わなくても、ドラゴンを討伐することは可能だ」
周囲の冒険者達がざわついた。
本気なのか? という懐疑的な視線。
まさかこの人は、という驚きの表情。
彼は、いったい何者なのだろう?
「あんた、やけに自信たっぷりだけど……何者なんだ?」
「やれやれ、僕のことを知らないとは。これだから田舎は困る」
青年は不敵な笑みを浮かべつつ、名乗りを上げる。
「僕は、シグルーン・グルヴェイグ! 『勇者』の称号を授かる、Sランク冒険者さ」
『勇者』。
それは、歴史的な偉業を成し遂げた者に与えられる、究極の称号だ。
この若さで『勇者』の称号を持つ。
確かに、彼ならば、『撃竜砲』という切り札がなくても、ドラゴン討伐が可能かもしれないな。
「……ねえ、師匠」
「うん?」
「……そういえば、あいつもグルヴェイグ、って名前だけど」
「あ」
言われれて気がついた。
グルヴェイグ、なんて家名、そうそうない。
もしかして、シグルーンは親戚なのだろうか?
ただ、グルヴェイグ家と距離をとって30年。
本家が今、どんな状況なのかさっぱりわからない。
「あー……俺もちょっとよくわからん。ただ、もしかしたら関係者かもしれない。もっとも、顔を合わせたことはないだろうから、互いに相手のことを知らないが……トラブルの種になるかもしれないから、俺のことは黙っていてくれないか?」
「……オッケー、了解よ。それと、安心したわ」
なぜ安心?
「切り札が一つだけというのは、やや心もとない気がする。そこで、どうだろう? 僕を切り札として加えてもらえないかな? なに、安心してほしい。『撃竜砲』を使用することなく、ドラゴンを討伐してみせると、『勇者』の称号に賭けて約束しようではないか」
「えっと……」
リリーナは困り顔に。
この展開は予想しておらず、また、勝手に策を変更する権限も持っていない。
どうすればいいか悩んでいる様子だ。
そんなリリーナの沈黙を勝手に肯定と解釈したらしく、シグルーンは不敵に笑う。
「ふ、それでいい。僕の力を見せてあげようではないか」
「えっと……では、『撃竜砲』の前にあなたが交戦に出る、ということで」
「ああ、それで構わないよ。話がわかるね、キミは。どうだい? この後、一緒に食事でも……」
「あ、明日に向けて色々とやらなければいけないことがあるため、失礼します! あ、冒険者の皆さんも、今日は解散でお願いします! 明日はよろしくお願いします!」
リリーナは慌てて奥に逃げた。
そんな彼女を見て、シグルーンはやれやれと頭を振る。
「あそこまで照れなくてもいいのに。まったく……こういう時は、僕が僕であることを恨めしく思うね」
……うん。
彼のことはまったく知らないが、とても危なく、厄介な雰囲気がした。
関わらない方がいいだろう。
俺とアルティナはギルドの外に出ようとして、
「おや? アルティナ! アルティナじゃないか!」
当の本人に呼び止められてしまう。
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