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179話 セリスの個人的な依頼・極秘

「申しわけありません、わざわざご足労いただき……」

「いや、問題ない」


 場所は領主の屋敷。

 客間で、テーブルを挟んでセリスと向かい合っていた。


 ちなみに、俺一人だ。

 アルティナ達はいない。


 なんでも、極秘の依頼があるらしく……

 アルティナ達にも秘密にしてほしい、とのこと。


 いったい、どれほどの依頼なのだろう?

 どれだけ重要な内容を秘めているのだろう?

 これからの話を考えるだけで緊張してしまう。

 テーブルの上の紅茶を一口も飲めないでいた。


「……さっそくですが、依頼の話をさせていただいてもよろしいでしょうか?」

「ああ、頼む」

「このエストランテから、数時間ほど離れたところに湖があります。なんてことはない、普通の湖なのですが……その近くに咲いているという、花を取ってきていただけないでしょうか?」

「花……?」


 伝説級の魔物の討伐とか。

 危険なダンジョンの踏破とか。

 そんな物騒な依頼が来るのでは? と予想していたのだけど……


 実際は、なんてことのない採取依頼。

 拍子抜けしてしまう。


 ……いや。


 極秘の依頼なのだから、ただの花ということはないだろう。

 とても貴重な薬の材料になるとか、あるいは、その花が大金を生み出すとか。


 どちらにしても、とても貴重なもので……

 そして、入手難易度はかなり高いのだろう。


「どのような花を?」

「……こちらです」


 情報が記された紙を渡された。


 ……うん?


「アイビルカ……この花を?」


 アイビルカ。

 特定の時期、環境下でにしか咲かない花なのだけど……


 条件が揃えば、比較的簡単に咲く。

 手間はかかるが、栽培も可能だろう。

 事実、アイビルカを栽培する農家もいると聞いている。


 綺麗な花で、観賞用としては最適。

 プレゼントとしても好まれている。


 他にもなにか、特殊な効能があったような気がするが……

 それは忘れてしまったな。


「アイビルカの採取か……」

「ダメでしょうか?」

「いや、問題はないが……なぜ、わざわざこれを? セリスなら、探そうと思えば探せるだろうし、わりと簡単に手に入れられるのでは?」

「その……できることなら、わたくしがアイビルカを探していることは他の人に知られたくなく。それと、採ったばかりの新鮮なものの方が効能が高いと……」

「ふむ?」


 この依頼、なにか裏があるようだ。

 セリスは全ての情報を明かしていない。


「わかった、請けよう」


 とはいえ、彼女が悪巧みを考えているなんてこと、ありえない。

 そういう人なのだ。


 ならば、俺は、日頃から世話になっているお礼に。

 エストランテを平和に導いている感謝のため、依頼を請けるべきと判断した。


「わぁ……ありがとうございます、ガイ様!」

「じゃあ、さっそく行ってくる」

「はい! どうぞ、お気をつけて」




――――――――――




 半日後。


「……というわけで、アルビルカを採ってきた」

「わぁ♪」


 大きな鉢植えに移し替えたアルビルカの花を見て、セリスはキラキラ笑顔になった。


 できるだけ新鮮な方がいいということで、花だけを採るのではなくて、鉢植えを持っていき、移し替えたのだ。


「ありがとうございます、ガイ様。深く感謝いたします」

「いや。大して苦労したなかったからな」


 少々遠くに行っただけ。

 魔物とあまり遭遇することもなく、わりと簡単に依頼を達成することができた。


「しかし、どうしてその花を?」

「……アルビルカは、祖母が好きな花なんです。いつもアルビルカを育てていて、笑顔で話しかけたりもしていて……だから、アルビルカを見ていると、祖母を思い返すことができるんです」

「そうか」


 亡き祖母の形見のようなもの。


 その気持ちはよくわかる。

 俺も、たまにおじいちゃんが好きだったものに触れてみたいと思う時がある。


「ついでの質問なのだけど、どうして俺に? 他の冒険者でも問題はないのでは?」

「え? い、いえ……ガイ様か。あるいは、アルティナ様かノドカ様か……それくらいのレベルの方でないと、かなり厳しいかと」

「そう……なのかい?」

「はい。アルビルカが生息している場所は、とても危険な魔物の住処となっていまして……あっ、ですが、ガイ様ならばまったく問題ないと信じていましたが」

「ふむ?」


 魔物とあまり遭遇することはなかった。

 ただ、多少は遭遇したわけで……


 カエルを巨大化したような魔物に遭遇した。

 幸い、大した強さではなくて、わりと簡単に斬り伏せることができたが。


 俺の話を聞いたセリスは、顔を引きつらせる。


「……ガイ様。その魔物は、おそらく、アビスフロッグという、とても危険な魔物なのですが」

「あのカエルが?」

「Bランクほどの力ですが、群れを成すため、実質的な討伐指標はAランクでして……」

「……むう」


 あのカエルがAランク相当……か。


「世の中、わからないことが多いな」

「ガイ様も、わからないことが多いですが」


 セリスが苦笑して。


「しかし、本当にありがとうございました」


 にっこりと笑う。


 その笑顔は、春に咲く花のように優しくて……

 それを見ることができただけで、依頼を請けたかいがあったというものだ。


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他に理由が隠されてる気がしたのだけど。さて
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