178話 ちょっとデートしてもらえませんか?
「ふふ。ノドカさんは、相変わらず楽しいですね」
「笑いごとではないのだが……」
冒険者ギルドに顔を出して、リリーナと話をする。
先のことを話してみたら、とても楽しそうな顔をされた。
別に依頼を請けに来たわけではない。
三人にも言ったが、しばらくは休息日だ。
とはいえ、街になにかあれば動かないわけにはいかない。
長く離れていたこともあり、現状を確認するために、こうして冒険者ギルドにやってきたというわけだ。
「それで、最近はどうだろう? なにか変わったことや、冒険者の力が必要になりそうな事態になりそうだろうか?」
「そうですね……特に問題ないと思いますよ。依頼は色々とありますが、他のみなさんで問題なく回っていますし、以前のような大きな事件が起きる気配もありません」
「そうか、それならよかった」
しばらくのんびりできそうだ。
街が平和というのも嬉しい。
「ところで……そのようなことを聞くということは、ガイさんは、今、お時間があるんですか?」
「ああ。ギルドマスターには話をしたが、一週間ほど、冒険者家業は休みにしようと思ってな。色々とあったから」
「なるほど、なるほど」
リリーナがにっこりと笑い、告げてくる。
「でしたら、これから私とデートしていただけませんか?」
――――――――――
特に予定もないし断る理由もないため、リリーナとデートをすることに。
といっても、文字通りのデートということはないだろう。
なにしろ、俺はおっさんだ。
リリーナのような若くて綺麗な子とデートなんて、普通に考えてありえない。
たぶん、ギルドのちょっとした雑用があり、それに付き添ってほしいのだろう。
あるいは、事務用品の買い出しで、その荷物持ちをしてほしいとか。
……そう思っていたのだが。
「ガイさん、おまたせしました!」
「あ、あぁ……」
待ち合わせ場所にやってきたリリーナは……とてもおしゃれだった。
若者のファッションについて、詳しいことはわからない。
ただ、おっさんである俺が見ても、とてもおしゃれで綺麗で……
気合が入っていることは理解できた。
……ここまでするということは、もしかして、本当のデートなのか?
俺は、いつもと変わらない、野暮ったい普段着で来てしまったのだが……
「待たせてしまいましたか?」
「い、いや。大丈夫だ。それよりも……ずいぶんと綺麗な格好をしているな」
「そう見えますか!? ふふ、ありがとうございます。ガイさんにそう言ってもらえると、がんばったかいがあります!」
「そ、そうか……」
もしかして、本当のデートなのか……?
なぜ、俺のようなおっさんを相手に……?
「リリーナ? 今日は、いったい……」
「さあ、行きましょう! 休日は、あっという間に過ぎちゃいますからね。一分一秒がもったいないです!」
「あ、ああ……」
疑問を口にすることはできず。
勢いに流されるまま、リリーナと一緒に歩きだした。
――――――――――
まずは、衣服やアクセサリーなどの店を一緒に見て回り。
買うのではなくて、見ることが目的だったらしく、それだけで楽しい様子で、リリーナは笑顔を浮かべていて。
続けて、いい時間になったところで昼を食べる。
冒険者で賑わうような食堂兼酒場ではなくて、綺麗で洒落たところのあるレストランだ。
値段は少々高くついたものの、どれも美味しく……
にっこり笑顔で食べるリリーナが印象的ではあった。
それから、腹ごなしの散歩として公園へ。
二人、並んでゆっくりと並木道を歩いていく。
「はぁ……落ち着きますね、こういうの」
「そうだな」
「日頃の仕事の疲れが抜けていくみたいです。ストレスも。あと、鬱憤とかも」
受付嬢は、大変なのだろうか……?
「気晴らしをしたいというのなら、俺が一緒でよかったのだろうか……? 一人の方が、あるいは親しい友人と一緒の方が、よりよい時間を過ごせたのでは?」
「……」
ものすごい目で睨まれてしまう。
怒っているというよりは……拗ねている?
どうして、こんな反応をするのだろう。
ややあって、ため息一つ。
「まあ、予想はしていましたけど……やっぱり、ガイさんはガイさんですね」
「どういう意味だろう……?」
「とても素敵ですが、ちょっともどかしい、っていう感じです♪」
……まったくわからない。
「さあさあ! まだ時間はありますよ。今日はいっぱい、デートを楽しみましょうね!」
「あ、ああ……」
「こっちですよ、ガイさん。ほら、行きましょう!」
元気なリリーナに手を引っ張られて、次の場所へ向かう。
色々と振り回されてしまうのだけど……
「……たまには、こういうのも悪くないか」
そんなことを思い、俺は、口元に小さな笑みを浮かべるのだった。