177話 平和はいいものだ
ユミナを発端にした、イルメリアの問題が解決して。
俺達は、エストランテに戻って。
そして……
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「ふぅ……」
我が家のリビング。
俺は、緑茶を飲んでいた。
ノドカの国で主に飲まれているお茶らしい。
やや苦みがあるものの、深い味と、独特の香りが病みつきになってしまいそうだ。
余っているからと、分けてもらったのだけど……
今度、商人などに交渉して、取り寄せてもらえないか話をしてみよう。
「平和だな」
窓の外を見ると、青い空が見えた。
雲一つ無い快晴だ。
今の心境を表しているかのよう。
イルメリアでは、本当に色々なことがあって……
苦難の連続だったから、少し休みをとることにした。
なので、こうしてのんびりしている、というわけだ。
「最近は、本当に色々とあったからな。こうしてのんびりするのも悪くない」
お茶をもう一口。
この苦いけれど奥深い味は、癖になってしまいそうだな。
「落ち着くな。今日は、このままのんびりと……」
「ぎゃああああああーーーーーっ!!!?」
庭からノドカの悲鳴が聞こえてきた。
「な、なんだ!?」
俺は、お茶をこぼす勢いで立上がり、慌てて庭に飛び出した。
アルティナ達は……
『休みっていうのはわかるけど、なにもしないと体がなまっちゃうから。みんなと一緒に、軽く体を動かしてくるわ』
と言っていたのだけど、いったい、なにが起きたのだろう?
「ノドカ、大丈夫!?」
「あいたたたたた……だ、大丈夫でありますよ。なんとか」
「うーん……やっぱり、止めた方がいいんじゃないかな?」
アルティナとノドカとユミナの三人がいた。
ノドカは、なぜかぷすぷすと焦げていた。
そんな彼女を見て、アルティナとユミナが慌てている。
……状況がまったく読めない。
「三人共、どうしたんだ?」
「あ、師匠。ごめんなさい、うるさくしちゃったからしら」
「いや、それは構わないが……ただ、中にいてもはっきりと聞こえるほどの悲鳴だったからな。さすがに、なにをしているか気になって」
軽い運動をすると聞いていたが、そんな感じはしない。
三人のことだから、本気の鍛錬をしていたのではないだろうか?
「師匠の真似をしてみようと思って。試しに」
「俺の真似?」
「ほら。この前、師匠が魔族と戦った時、目をつむって戦っていたでしょう? あれ、やれないかなー、って」
「あれか」
心眼。
心の目で敵を捉える、かなり難易度の高い技術だ。
俺も、完全に習得できているか、なかなかに怪しい。
極めれば、心の中に周囲の情景が自然と浮かぶらしいが……
さすがに、そこまでは無理。
せいぜい敵の気配や攻撃を感知する程度だ。
「それでも、十分、すごいのでありますが……」
「お兄ちゃんがすごいことをしているから、私達もやりたい! っていう感じだよ」
「それで、まずはノドカから、っていうことで……」
「さすがに、いきなり実戦は厳しいと思いますから、アルティナ殿とユミナ殿に爆弾を投げてもらい、避ける鍛錬をしていたのでありますよ!」
「……なぜ爆弾?」
「なんのリスクもない、生ぬるい鍛錬など意味はないのであります。拙者、常にこの命を燃やす覚悟にて、剣を学んでおります故!」
「やめなさい」
「あいたー!?」
ちょっと強めのげんこつを落としておいた。
「そういうのを学びたいという気持ちはわかるが、しかし、方法が危険すぎる」
「し、しかし拙者は……」
「強くなるために命を賭けてどうする? そもそも、命を賭けることでしか得られない強さというのは、それはもう人の道を外れている……悪鬼。あるいは修羅だ。そのような存在になることは、到底、認められない」
「うぅ……」
「それと、今は休息日だ。しっかりと体を休めることが大事。ランニングなどの多少の運動は構わないが、そんな無茶苦茶な鍛錬は、師として認められない。絶対にダメだ。わかったな?」
「……ふぇえええええーーー!」
ノドカが泣き出した!?
「拙者、とても浅はかだったのでござるよぉおおおおお、うぇえええ! ガイ師匠、すみませぬぅううううう!」
「い、いや。わかってくれればいいんだ。俺も、強く言い過ぎたかもしれない。すまない」
「いいえ。全て、拙者の未熟さが原因故……かくなる上は腹を切り、それをお詫びと……」
「「やめなさい!!」」
「みぎゃ!?」
アルティナとユミナの二人に同時にツッコミを入れられて、ノドカはくるくると目を回した。
なんとか止めることはできたものの……
こんな感じで、ちゃんと休むことはできるのだろうか?
なかなか……
いや。
かなり幸先不安だった。
 




