17話 セリスの依頼
夜。
アルスティーナ家の……セリスによる歓待を受けた。
肉、海鮮、野菜。
それらを見事に調和した豪華な料理。
メイドと執事達による合奏。
どちらも素晴らしいもので、とても楽しい時間を過ごすことができた。
アルティナとセリスは意外と気が合うようで、話が弾んでいた。
なぜか、俺に関する話題が多いようだけど……
仲が良いことは良きことだ。
これを機会に、友達に、なんてことを思う。
……師匠というよりは親目線になっているな。
これも歳のせいだろうか?
食事が終わり、素晴らしい演奏も終わる。
宴が静かに閉じようとしていたが……
「ガイ様。アルティナ様」
メイド達が食事を下げて……
三人になったところで、セリスが背筋を伸ばして、静かに口を開いた。
「今日は楽しんでいただけたでしょうか?」
「もちろん。食事も演奏も、その他、とても素晴らしいものだった」
「ならよかったです。でしたら……」
「回りくどい真似はしなくていいわ」
セリスの話をアルティナが遮る。
その目は鋭く、やや警戒している様子だ。
……さっきの話に関連しているんだろうな。
「あたし達……というか、師匠に頼みたいことがある。でしょう?」
「……お見通しですか」
「ひとまず、話はちゃんと聞いてあげる。だから、話してみて。師匠もそれでいい?」
「ああ、問題ないよ」
アルティナとは話をしていたが、元々、こうするつもりだった。
セリスが困っているのなら力になりたい。
問題の内容にもよるが……
ひとまず、話を聞くくらいは問題ない。
「……ありがとうございます」
セリスは深く頭を下げた後、本題に入る。
「冒険者であるガイ様とアルティナ様に、依頼をさせていただきたいのです」
「ふむ。ひとまず、話を聞こうか」
「依頼内容は、とある魔物の討伐。報酬は、金貨300枚です」
「さっ……!?」
1年は暮らせる額だ。
それだけの報酬を得るには、おそらく、かなり高ランクの依頼を請けなければいけないだろう。
それこそ、天災級の魔物の討伐とか。
「あんた、師匠になにをさせようっての? 金貨300枚の報酬なんて、そうそう聞かないんだけど」
「それだけの魔物を相手にしてもらう、ということになります」
「災厄級? それとも……天災級?」
「えっと……そういうカテゴリーはよくわからないのですが、そこまでの相手ではないと思います。たぶん」
セリスは語る。
エストランテの北は森林地帯になっていて、多くの動物が暮らしている。
動物を狩り、薬草などを採取するのに最適な場所だ。
ただ、当然ではあるが魔物も生息している。
とはいえ、街に近いため、強力な個体は確認されていない。
せいぜいがDランク程度。
Aランクの災厄級、Sランクの天災級などの存在はいない。
いないはずなのだけど……
「まだ完全な裏付けはとれていませんが……ドラゴンが出現したとの報告を受けました」
「なっ……!?」
「ドラゴンですって!? Sランクの、天災級の魔物じゃない! この前のケルベロスが可愛い相手に思えるくらいの、本物の化け物よ!? それ、本当なの? ここ数十年、ドラゴンが人里の近くに現れたなんて話、ないんだけど」
「確かな証拠は得ていません。ただ、様々な情報を統合すると、その可能性が非常に高いかと」
「最悪じゃない……」
アルティナが悪態をこぼしてしまうのも、よくわかる。
天災級の魔物は、国そのものを滅ぼす力を持つ。
そのようなものが出現したとなれば、国家の非常事態だ。
「今、父と母は諸事情で領地を空けています。なればこそ、わたくしがこの街を守らなければなりません。どうか、力を貸していただけませんか?」
「わか……」
「師匠、ストップ」
犬にやるような感じで、待て、をされた。
「まだ納得いかないところがあるわ。本当にドラゴンが出現したというのなら、それはもう、冒険者の管轄じゃないわ。国の仕事よ。王都に報告をあげて、討伐隊を派遣してもらうのが普通じゃないの?」
「……普通なら、そういう流れになりますね」
セリスが苦い表情に。
「その辺りは、今、色々と問題が起きていまして……正直なところ、王都からの援軍は望めません」
「はぁ?」
「ドラゴンの対処は、わたくし達だけでなんとかしなければいけないのです」
「……時間の無駄ね」
アルティナは席を立つ。
「行きましょ、師匠。こんなふざけた話に付き合う必要はないわ。さっさと別の街なり王都になり避難しましょう」
「……いや、そういうわけにはいかない」
「ちょっと、師匠! 今の話、ちゃんと聞いていたの? ドラゴンが出現した。上のゴタゴタで援軍はなし。そんな状況で戦うなんて、そんなふざけたこと……」
「だが、それで涙を流すのはこの街の人達だ」
こうして話をする時間があるということは、ドラゴンの襲来まで、まだ余裕があるのだろう。
今から街を出れば、アルティナが言うように安全なところに退避できる。
でも、街の人は?
避難は無理だ。
これだけの人数を受け入れてくれるところはない。
それ以前に、確実にパニックに陥る。
俺はエストランテに来たばかり。
正直、愛着なんてものはない。
でも……
リリーナの顔が思い浮かぶ。
一人だけど、優しくしてくれた人がいる。
守りたいと思う笑顔がある。
「俺は、戦うよ」
「ガイ様……ありがとうございます」
セリスは、深く深く頭を下げた。
それを見て、アルティナは再びため息をこぼす。
「まったくもう……これじゃあ、あたしが悪役みたいじゃない。わかったわよ。それに師匠なら、案外、ドラゴンもサクッと倒しちゃいそうで……ううん、なんかその未来予想図、本気で実現しそうで怖いわね……師匠って人間?」
「いや、待ってくれ。想像でそんなことを言われても、さすがに困るのだが……」
「でも師匠の場合、想像のさらに上を行くから困るのよね」
そんなことはあるだろうか?
俺は、どこにでもいるような、ただのおっさんなのに。
「こらっ、師匠!」
「な、なんだ?」
「今、卑屈なことを考えていたでしょう? 師匠はとても強いけど、でも、そういうことはダメダメね。もっと自信を持って」
「そう言われてもな……」
幼い頃の記憶が蘇り、どうにもこうにも萎縮してしまう。
「あたしの師匠なんだから。あたしの師匠はすごいんだぞ、って自慢させてちょうだい。ね?」
そっか。
俺だけじゃなくて、アルティナの問題でもあるんだよな。
師匠になった以上、責任は果たさないと。
「わかった、がんばるよ」
「それでこそ、師匠よ♪」
アルティナがにっこりと笑う。
「あ、それと、あたしも戦うわ。弟子として、師匠だけに任せておくわけにはいかないからね」
「アルティナ様、ありがとうございます」
「でも、勘違いしないでよ!? 師匠が戦うから、あたしも戦うだけよ。弟子としての務めだからね!」
「ふむ? これが、ツンデレというやつなのかな」
「ツンデレでございますわね」
「ちっがーーーーーうっ!!!」
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