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167話 恐怖と悲しみを喰らう

 死神が喉元に鎌を突きつけてきたかのような、そんな感覚。


 死が迫る。


 俺は攻撃を中止。

 無理矢理に体を動かして、その場から横に跳んだ。


 ザンッ!!!


 直後、さきほどまで立っていた場所を『なにか』が駆け抜けた。

 その証拠に、地面に深い斬撃の跡が刻まれている。


「へぇ……今のを避けますか。あなた、なかなかやりますね」

「いったい、今のは……?」

「バカ正直に自分の手札を晒すバカはいませんよ」

「……同感だ」


 体勢を立て直しつつ、改めて剣を構えた。


 無策で飛び込んでいい相手ではないな。

 かといって、のんびりと観察している余裕もない。


 ……厳しい戦いになりそうだ。


「怯むな! 我らエルフの力、見せてやれ!」


 エルフの兵士達が力強く言う。

 そうやって己を鼓舞しないと、恐怖に囚われてしまい、まともに動けないのだろう。


 ただ、今の鼓舞は有効だったらしく、いくらかの兵士達が武器を構えた。


「くっ……隊長、ど、どちらを狙えば……?」

「……両方だ! 我らエルフの国に土足で踏み込んだ賊も、アロイス様を害した化け物も、どちらも倒せ!」

「はっ!」


 接近するのは危険と考えたらしい。

 エルフの兵士達は十分な距離を取り、矢と魔法を雨のように放つ。


「ちょっ、あたし達も狙うとか、なに考えているのよ!?」

「今は、拙者達で争っている場合ではありませぬぞ!」


 アルティナとノドカは舌打ちをしつつ、それぞれの剣で迫る脅威を打ち払い。


「ユミナ!」


 俺はユミナを背中にかばい、矢を叩き落として、魔法を斬る。


「あ、ありがとう、お兄ちゃん……」

「怪我はないな?」

「ないけど……うん! 私も戦うよ!」


 ユミナは、決意した表情で頷いて、ドレスの裾を破いた。

 それから、アロイスが持っていた剣を奪い取る。


 ……ものすごい度胸のある子だな。

 思わず感心してしまう。


「足がここまで見えちゃうのは、ちょっと恥ずかしいけどね」


 そう言うユミナは、大物になるような気がした。


「うんうん。みなさん、やる気たっぷりですね。いいですよ、それでこそ……です」


 メイドは嬉しそうに笑う。


 にっこりとした笑みは、年頃の女の子のように無邪気で。

 それでいて、子供のような残酷さも兼ね備えていた。


「それだけやる気のあるみなさんを叩き潰せば、さぞ美味しい食事ができるでしょう」

「食事?」

「あら、知りませんか? 魔族は、恐怖や悲しみといった、負の感情を食べるんですよ。精神生命なので、食事も精神的なもの、というわけですよ」

「……悪趣味な」

「そういう生態なので、そこに文句をつけられても困るんですけどねえ……まあ、いいです。ここしばらく、ずっとおとなしくしてて、お腹が減っていましたからね。食事をさせてもらいましょう」


 メイドは微笑み、指先をクイクイと曲げて挑発をする。


「遊んであげましょう」

「くっ……舐めるなぁっ!!!」


 エルフの兵士達は激昂して、狙いをメイドに限定したようだ。

 矢と魔法をまとめて解き放つ。


 行く手を塞ぐものを砕く嵐のよう。

 それに耐えられるもの、防ぐものは、なかなかいないだろうが……


「いいですね、悪くない攻撃ですよ」


 メイドは、音楽の指揮をするように手を動かして……

 たったそれだけの行為で、エルフの兵士達が放つ攻撃は全て防がれた。


 まただ。

 彼女は手を動かしただけなのに、なにか強力な攻撃が行われた。

 いったい、なにが起きている?


 わからないが……

 しかし、彼らだけを戦わせて、俺がじっと見ているわけにはいかない。

 前に出て……


「ダメよ、師匠」


 アルティナに止められた。


「あいつの攻撃の正体がわからない。まずは、見極めないと」

「そのために、彼らを餌にしろと……!?」

「あの魔族を好きにさせるわけにはいかないわ。そうなったら、どれだけの被害が生まれるか……だから、あたし達は、絶対に止めないといけないの……なにをしても」

「……すまない」

「いいわよ」


 アルティナの言う通りだ。


 非情に徹したとして。

 誰かを利用したとしても。


 今は、魔族を倒すことだけを考えなければいけない。


 ……拳を強く握り、唇を噛んだ。

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