165話 真なる脅威
件を交えてわかったが、アロイスはそれなりの技術を持つものの、あくまでも『それなり』のレベルだ。
恐ろしい相手ではない。
ただ、彼の持つ魔剣は脅威だ。
以前、エストランテで起きた事件のように。
ゼクスと同じように、その身を魔族に変えてしまうかもしれない。
そんなことにならないように、魔剣の排除を最優先に考えなければいけない。
故に、小さな隙ができても攻めないでいた。
確実にこちらが優位に立てるような、大きな隙ができるのを待っていた。
……今、その機会が訪れた。
「消えろ、劣等種ごときが!!!」
怒りに突き動かされたアロイスは、単純な突撃を繰り出してきた。
動きは速く、直撃したらタダでは済まないだろう。
しかし、動きはまっすぐ。
軌道も単純で、なんの捻りも技術もない。
これだけの隙があれば……
「その魔剣……砕かせてもらう!」
「なっ……!?」
アロイスの突撃を回避すると同時に、下から上に剣を跳ね上げた。
魔剣が弾かれて、アロイスの手から離れる。
さらに一歩、踏み込む。
大地をしっかりと踏みしめつつ、ありったけの力を込めた一撃。
魔剣の柄から刃の根本までを両断した。
「「「嘘ぉっ!?」」」
こちらを見ていたらしく、アルティナとノドカ。
それと、ユミナの驚きの声が重なる。
そこに、アロイスの驚きの声も追加された。
「ば、バカな……!? 魔剣を……斬った、だと!?」
「魔剣だろうとなんだろうと、今の状態では、『ただの武具』だ。斬れない道理はない」
もっとも、真の力を発揮して、アロイスが魔族化していたら、とても厄介なことになっていたが……
そうなる前に対処できてよかった。
「くそっ……くそくそくそ! どこまでも、この私をコケにして……絶対に許さぬ! その身、その魂、徹底的に踏みにじり、凌辱してやろうではないか! この世に生まれてきたことを後悔させて、どうか殺してくださいと懇願させてやる!!!」
「……貴族が口にするようなセリフではないな」
「……ああいうヤツなのよ」
ユミナは、とても疲れた様子で言う。
彼女の苦労など、少しわかったような気がした。
さて。
魔剣は破壊したが、未だ窮地に立たされていることには違いない。
どうやって、この場を脱出しようか?
そして、その後はどうしようか?
うまく脱出できたとしても、エルフの国を敵に回した。
一生、追われることになるだろう。
その覚悟はしていたから、心の問題はない。
ただ、どこに行けば安息の地を得られるか?
果ての北方なんていいかもしれないな。
とても寒いが、しかし、自然が綺麗と聞く。
おじいちゃんと一緒に過ごした山のようなものだ。
そんなところで、みんなでのんびり過ごすのも悪くない。
……そんなことを考えるが、それは油断だったのかもしれない。
まだ、なにも終わっていない。
脅威は去っておらず、むしろ、ここからが本番だ。
「素晴らしい」
ぱちぱちぱちと、拍手の音が響いた。
何事かと視線を向けると、一人のメイドが笑っていた。
結婚式の準備などのため、たくさんの執事やメイドがいる。
しかし、この騒動で避難しているはずなのだが……
誰だ?
なぜ、こんなにも……おぞましい敵意を感じる?
彼女はいったい……?
 




