151話 もはや忍者?
無事、エルフの国……イルメリアに潜入することができた。
とはいえ、まだ安心はできない。
当たり前ではあるが、中もたくさんの兵士がいる。
油断していたら潜入していることがバレてしまうかもしれないし、問題に巻き込まれてしまうかもしれない。
顔を隠すことができるフードを身に着けて、街中を進む。
やや怪しいが、これなら耳を隠すことができるため、すぐに人間だとバレないはずだ。
「わぁ……すごい街ね」
「ええ、とても幻想的で、壮観な光景なのでありますよ」
巨大な木々の上に建てられた数々の家。
木の幹をくり抜いて建てられたところもある。
その間に伸びる橋。
建物と建物の間に渡されているそれは、一見すると適当に見えるのだけど、よく観察すれば規則的なものであることがわかる。
乱雑に繋げるのではなくて、規則正しさを意識しているらしい。
そして、頭上に広がる木々の葉。
風に深緑の葉が揺れて、ザァという心地いい音が響く。
その隙間から陽光が降り注ぐ。
人間の街では決して見られないような、とても幻想的な作りになっていた。
「こんな状況でなければ、のんびり観光をしたいわね」
「あ、それは賛成なのでありますよ! きっと、美味しいご当地グルメがあるに違いないのです!」
「それも悪くないな。観光のためにも……」
しっかりとユミナを助けよう。
そう決意を固めて、みんなでユミナを探していく。
バレるリスクが上がるため、人に話を聞くわけにはいかない。
独自の調査で、自分の足で調べていく。
時間がかかるかもしれないと、焦りはあったのだけど……
幸い、わりと簡単に情報を手に入れることができた。
「ねえ、知っている?」
「うんうん。ホーンウォード様の結婚のことでしょう?」
「ついに姫様と結婚かぁ……うーん。嬉しいような寂しいような」
……などなど。
そんな話があちらこちらでされていた。
ホーンウォードという人は知らないが……
ただ、姫様というのはどう考えてもユミナのことだろう。
他にも王女はいるのかもしれないが、このタイミングで結婚する姫様というのは、ユミナ以外にいないはず。
街の人々の話を追いかけていくことで、現在、ユミナは城の近くにある神殿にいることが判明した。
なんでも、結婚の儀式が行われるまでの間、神殿で過ごして心を清めるのだとか。
「……あそこが例の神殿か」
街の奥。
森を抜けた先に山が広がり……
その麓に、斜面に沿うようにして高い塔のようなものが建てられていた。
あれが神殿なのだろう。
ちなみに、隣に横に大きな建物が見える。
あちらはエルフの国の城だ。
「無事、ここまで辿り着けたな」
「無事、っていう感じはあまりしないんだけどね……」
「何度バレそうになったことか……拙者、思い返すだけで心臓が痛むのでありますよ」
「そうか? あまりそんな危機感はなかったのだが……」
「師匠の心臓って、鋼鉄でできているの……?」
「というか、拙者達だけ見つかりそうになったり怪しまれそうになったりで、ガイ師匠はなんともなく……その隠密性はいったい? もしや、ガイ師匠は剣士ではなくて忍者……?」
ニンジャとはなんだろう?
「とにかく、ここまで来ることができた。あと一歩だ」
あとは神殿に忍び込んで、ユミナを助けるだけ。
言葉では簡単だけど、実際にやるとなれば恐ろしく大変だろう。
ただ、諦めるつもりはない。
ユミナの兄貴分として、剣の道を歩む同士として。
決して彼女を見捨てることはない。
困っているのなら手を差し出そう。
泣いているのならその心に寄り添おう。
それが俺のやるべきことだ。
「……ねえ、師匠」
「うん?」
「師匠がユミナを助けたいって思うのは、妹を見捨てられないとか、そういう感じなのよね?」
「ああ、そうだが……どうしたんだ、今更?」
「それは本当に?」
「え」
「本当は妹っていうことじゃなくて、もっと別の……」
そこでアルティナの言葉が止まる。
妹じゃなくて別の……というのは、どういう意味なのだろうか?
アルティナの言いたいことがわからず、首を傾げてしまう。
「それは拙者も気になっていたでござるが……むぅ」
ノドカも微妙な表情に。
どうしたのだろう?
二人は、なにを気にしているのだろう?
「……今聞くことじゃないか。あーもう、今回、気になることに考えることが多すぎなんだけど!」
「アルティナ?」
「ううん、なんでもないわ。気にしないで」
「えっと……」
「そうでありますよ、気にしないで大丈夫なのでありますよ。拙者達は、なにも問題ありませぬ」
「そう……か? まあ、二人がそう言うのなら」
二人の様子は気になるものの、ただ、このようなところでのんびりと話し合う余裕はない。
今は、ユミナのことを最優先に考えよう。
「よし……行くぞ」
「ええ」
「絶対に助けるのでありますよ」
……こうして、俺達はエルフの国の神殿に潜入した。
◇ お知らせ ◇
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ざまぁ×拳×無双系です。よろしければぜひ!




