15話 再会
「薬草採取の依頼の報酬はこちらになります。それとは別に、ケルベロスの討伐の報酬と素材の換金がありますが、鑑定や計算などで少し時間が……また後日、来てもらえますか? 申しわけありませんが、よろしくお願いします」
リリーナに謝罪をされて。
気にしないように言って。
それから、俺とアルティナは冒険者ギルドを後にした。
「師匠、あたしが使っている宿はこっちよ。案内してあげる」
「ああ、頼むよ」
勢いのまま冒険者になったものの、宿を確保することを忘れていた。
そのことをアルティナに話したら、良い宿を紹介してくれるという。
「ねえねえ、師匠」
「うん?」
「えいっ」
アルティナが抱きついてきた。
俺の腕を掴み、胸を押しつけてくる。
「こら、はしたないぞ」
「むぅ、ぜんぜん動じていない」
「驚いてはいるよ」
「ねえねえ、師匠。こうしていると、あたし達、どんな関係に見られるかな? やっぱり恋……」
「そりゃ、親子だろう」
「……」
なぜか、アルティナがとても不機嫌そうに。
「えっと……ああ、そうか。すまない、アルティナ。言い方が悪かったな」
「わかってくれたんですか、師匠!?」
「仲の良い親子だな」
「……」
睨まれてしまう。
なぜだ……?
「まあ、わかっていたけどね。師匠はそういう人だって。鈍いだろう、って」
「す、すまない……?」
「そりゃまあ、あたしも悪いというか、いきなり察しろ、っていうのはちょっと無茶かもしれないけど……あら?」
アルティナが拗ねていると、後ろから豪華な細工が施された馬車がやってきた。
追い抜くかと思いきや、俺達の横で足を止める。
馬車の扉が開いて、金髪の令嬢が降りてきた。
歳はアルティナと同じくらいだろうか?
利発そうな瞳、人形のように整った顔。
ただ、どことなく子供らしさも残っていて、美人というよりは美少女だ。
肌は白く、陶器のよう。
その身にまとうドレスは白を基本とした穏やかなものではあるが、華やかさもきちんと兼ね備えていた。
「ようやく見つけましたわ!」
少女はこちらに駆け寄ると、俺の手を笑顔で取る。
隣のアルティナの頬が膨れた。
「師匠……こんな子に手を出していたの?」
「ご、誤解だ!? そんなことはしない。というか、そもそも、この子は知らない」
「そんなっ……ひどいですわ。あのような熱い一夜を過ごしておいて……」
「師匠……?」
「ま、待ってくれ!? 俺は本当に……」
「ふふっ、冗談ですわ」
少女は、いたずらっ子のようにぺろっと舌を出した。
その背中に小悪魔の羽がぱたぱた……と動いているような気がした。
「あのような状況なので、わたくしのことを覚えていないのも無理はないかと」
「あのような……?」
「あなた様は気にするな、とおっしゃいましたが……さすがに、そういうわけにはいきません。近くの街にいるのではないかと、あれからずっと探していたのですが……よかった。こうして、お会いすることができて」
「……あっ」
思い出した。
街に来る途中、魔物に襲われていた馬車を助けたことがあるが……
「そうか。キミは、あの時の……」
「思い出していただけたのですか!? 嬉しいです」
「すまない。物覚えは悪くない方なんだが、あの時は急いでいたものだから……」
「いいえ、気にしておりません。ただ……今度は、ゆっくりお話をできますでしょうか?」
「それは……」
ちらりとアルティナを見る。
「……好きにすれば」
拗ねていた。
うーん。
隠し事をしていたわけではないし、悪いことをしたわけでもない。
それなのに、なぜ、こんなに罪悪感が……?
「彼女も一緒でいいかな?」
「はい、それは構いませんが、えっと……」
「あたしは、師匠の弟子よ! 一番弟子だから、い・ち・ば・ん、親しい関係なのよ!」
「……そうですか、ふふふ」
「ふふふ」
乙女二人、視線を激突させる。
この険しい雰囲気は、どういうことだ……?
「改めて……自己紹介をさせていただきますわ」
少女は優雅に一礼する。
「わたくしは、セリス・アルスティーナと申します。改めて、先日は危ないところを助けていただき、ありがとうございました」
「これは丁寧に。俺は、ガイ・グルヴェイグ。ただの冒険者だ」
「……アルティナ・ハウレーン。師匠と同じ冒険者で、剣聖よ」
「では、ガイ様と呼んでもよろしいですか? わたくしのことも、どうか、セリスと」
「……こいつ、剣聖のあたしに目もくれず、師匠に色目を……むぐぐぐ」
アルティナとセリスは仲が悪いのだろうか?
初対面で会ったばかりだから、互いをよく知らないだけ、と思いたいが……うーん?
「では、お二人共、馬車へどうぞ。当家に案内させていただきますわ」
「えっと……行こうか、アルティナ」
「……まあ、師匠がそう言うのなら」
こうして、拗ねるアルティナと一緒に、俺達はセリスの家に招待されたのだった。
【作者からのお願い】
「面白い」「長く続いてほしい」と思っていただけたら、是非ブックマーク登録をお願いします
また、広告下の『☆』評価で応援していただけると嬉しいです(率直な評価で構いません)。
皆様の応援が作品を続けるための大きなモチベーションとなりますので、よろしくお願いします!
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!




