147話 婚約成立
「よう、そろそろ来る頃だと思っていたぜ」
冒険者ギルドを訪ねると、簡単にシデンと会うことができた。
俺達の来訪を予期して準備していたらしい。
シデンに促されて椅子に座り、四人で丸いテーブルを囲む。
「俺達は……」
「エルフのお姫様の情報だろう?」
「……わかっているのなら話は早い。あれから新しい情報はあるか? できれば、彼女が抱えている問題、あるいは巻き込まれているトラブルについてがいい」
「ああ、もちろん用意しているぜ」
シデンは得意そうな顔をした。
俺達の行動はお見通し、という感じだ。
そんなにわかりやすいのだろうか?
……わかりやすいか。
まあ、それはいい。
こうして話がスムーズに進むのなら、行動が読まれているなんてこと、どうでもいい問題だ。
「エルフのお姫様に関する情報だが、けっこう高くなるぜ?」
「問題ない」
こちらも、その言葉は予期していた。
だから、あらかじめ金を用意することができた。
家で用意した、金貨のつまった袋を差し出す。
「金貨百枚だ」
「……」
「足りないか?」
「い、いや……十分すぎる。というか、さすがにもらいすぎだな……高いとは言ったが、まさか、金貨百枚をぽんと出してくるとは思わなかったぜ」
「俺達にとっては、それだけ価値のある情報ということだ」
この金は、いざという時に備えて貯めておいたものだ。
簡単に使っていいものではないのだけど……
今がその時。
他に使うタイミングなんてない。
アルティナとノドカも、迷うことなく賛成してくれた。
「多すぎだ。半分でいい」
「そうか?」
「半分でももらいすぎだが……まあ、あんた達の行動を考えると、また新しく情報が必要になってくるかもしれないからな。次、なにか欲しい時はタダにするさ」
「それは助かるな」
シデンは、金貨を半分だけ受け取る。
そして、残りをこちらに戻してきた。
「さて、それじゃあ本題に入るが……」
シデンの言葉で、俺達の間に緊張が走る。
ユミナは、いったいどんな問題を抱えているのだろう?
どんなトラブルに巻き込まれているのだろう?
以前の話では、強制的に婚約させられそうになって、国を飛び出したと聞いていたが……
「エルフのお姫様の婚約が成立した」
「……成立した、だと?」
「ああ、成立だ」
どういうことだ?
ユミナは婚約を望んでいないと聞いていたが……
いや。
それも含めて、これから話をするのだろう。
「続きを」
「取り乱さない、っていうのは助かるね。客の中には、望まない情報を与えられると怒るヤツもいてね。なかなか困ったものさ」
「怒ることはないが、焦ってはいる。あまりのんびりしていられないことは理解してくれるか?」
「わかった。話は手っ取り早く、だな?」
シデンはニヤリと笑い、懐から小さな筒を取り出した。
それを受け取り、中を確認すると、数枚の紙が。
シデンの調査内容をまとめたレポートのようだ。
「その内容を簡単に説明すると、エルフのお姫様は、強制的に婚約させられそうになって、それが嫌で国を飛び出した。ただ、つい最近、婚約を了承して、国に戻ることを決めたそうだ」
「……それは本当なのか?」
「ああ、もちろん。情報屋がニセの情報を流したり、掴まされたりするわけないだろう? まあ、中にはそんな二流もいるかもしれないがな。俺は一流だぜ」
正直、シデンのことを深くは知らないため、彼の情報屋としての能力はわからないのだけど……
今は信じるしかないか。
常に最悪の想定をして動いた方がいい。
良い話だけを信じることはできない。
「ま、ここまでは表に出回り始めている、わりと簡単に手に入れられる情報だ」
「ということは、裏の情報が?」
「ああ。エルフのお姫様は、今でも婚約に納得していないらしい。ただ、これ以上のわがままを続けるのならばどうなるか……と、国から脅されたらしい」
「バカな!?」
思わず声を荒げてしまう。
ユミナは、エルフの国の王女。
それなのに、国が彼女を脅すというのか?
「……すまない。つい驚いて」
「いや、いいさ。そうやって、すぐに冷静になれるところは好感が持てるぜ?」
「続きを頼む」
「エルフは神聖な存在で、国はとても清らかなところ……なんて思う連中は多いけどな。しかし、実態は人間と変わらない。王室なんてところは、様々な権力闘争が行き交う、ドロドロとした場所さ」
「ユミナは、それに巻き込まれた……?」
「そうだな。とあるエルフの貴族が、手っ取り早く成り上がろうとした。そのための手段に、エルフのお姫様と結婚することを思いついた。あとは……まあ、言わなくてもわかるな」
ユミナは、王女という立場を利用されている、ということか。
酷い話だ。
王族ならば、政略結婚もあるのかもしれないが……
だとしても、ユミナの気持ちを無視しすぎている。
彼女は道具じゃない。
嬉しい時は笑い、悲しい時は涙する、どこにでもいる一人の女の子だというのに。
「ユミナの両親……王と王妃は、そのようなことを許しているのか?」
「あまり良くは思っていないらしいな。ただ、相手の貴族がけっこう力を持っているらしく、断りきれなかった、っていう話だ」
それもまた、よくある話なのだろう。
エルフでも、人間と変わらないところがある。
……できれば、こういう汚いところは変わっていてほしかったのだが。
「……その婚約者、許せないわね」
「……女の敵でありますよ」
女性陣二人は、ギラギラと殺気を放っていた。
よほど頭に来たらしい。
気持ちはわかるが落ち着いてくれ。
シデンがちょっと怯えているからな?
「まあ……おおまかな情報はそんなところだな。詳細はそのレポートに記しているから、あとで確認してくれ」
「わかった、ありがとう」
「なに、これが俺の仕事だからな」
「ついでに……さっそくだけど、追加の仕事を頼んでいいか?」
「ん? 本当に早いな……まあ、俺は構わないけどな。なにを知りたい?」
「ユミナの今後の予定。結婚式を挙げる会場や、相手の貴族についての情報も……そういうところを全部、調べてほしい」
◇ お知らせ ◇
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ざまぁ×拳×無双系です。よろしければぜひ!




