143話 小さな違和感
詳しく調査をしたら、奥の方で穴ができているのか、風が抜けていることが判明した。
俺達がいる場所は、ちょうど風上。
これを利用しない手はないと、催眠性の高い薬品を使うことに。
うまくいけば、簡単に一網打尽できる。
「……そろそろかな?」
「ああ、行こう」
薬品を使い、三十分ほど。
十分な量を使ったから、効果は現れているはず。
「三人は俺の後ろへ」
ちょっと不満そうな顔をされた。
子供扱いしないでほしい、という感じだ。
とはいえ、ここは譲ることはできない。
剣の師というだけではなくて……
俺は、大人だ。
危険に晒されたとしても、三人を守る義務がある。
「いくぞ」
剣を手に、いつでも動けるように身構えつつ、ゆっくりとゴブリンの巣に侵入した。
「……ガガ」
「ピ……」
「グフゥ……」
ゴブリンがひっくり返るようにしていびきをかいていた。
一匹、二匹、三匹……数え切れないほど。
「……うまくいったみたいだな。たぶん、起きているやつはいない」
「順に処理をしていきましょう」
アルティナの言葉に頷いて、寝ているゴブリンに歩み寄る。
足音を殺して、決して悟られないようにして……
「っ!?」
そして、喉に剣を突き刺して、気道を塞いで声を封殺しつつ……倒す。
「こうすれば声を出すことはできず、悲鳴をあげられる心配もない」
「……師匠ってば、どこでそういう戦い方を覚えてきたの?」
「山で一人、長く暮らしていると、自然と身につくぞ?」
「あたしは身についていないけど、うーん……あたしと師匠、根本的に、なにかが違うのかしら……?」
アルティナは悩ましそうな声をこぼしつつ……
その傍ら、わりと慣れた様子でゴブリンを始末する。
「「……」」
「ん? どうしたんだ、二人共」
「えっと……」
「今の拙者達、まるで暗殺者みたいだなぁ……と」
薬で眠らせて、無抵抗の相手に刃を立てる。
なるほど。
二人は戦士というよりは剣士だから、やや抵抗があるのだろう。
「確かに、あまり人様には見せられない絵面だな。それに、相手の不意を意図的に突いているから、正しい勝負からはかけ離れている」
「なのでありますよ……」
「ただ、これは決闘じゃない。勝負でもない。生き残りを賭けた、殺し合いだ」
ゴブリンは低ランクの魔物だ。
放っておいても、街が滅びるとか、大きな被害に繋がることはない。
ただ……
家畜が襲われることがある。
時に、子供がさらわれたりすることもある。
害を及ぼしてくる以上、『敵』なのだ。
「卑怯かもしれないが、しかし、絶対に討伐しておかないといけない。そうしないと、どこかで誰かが泣いてしまうかもしれないからだ。そのために、今できることはなんでもやる」
「そう……だよね。うん、私が間違っていたかも」
「拙者も、少し甘かったのでありますよ……」
「いや、気にしないでほしい。二人が感じているものは、それはそれで、至極当たり前の感情だからな。そういうものはなくさないでほしい」
ただ強いだけの剣士なんて必要ない。
強い心を持つ剣士に育ってほしい。
なんて……
少しは師匠らしい言葉を贈ることができただろうか?
「……よし、こんなところか」
巣に潜んでいたゴブリンを全て倒した。
目に見えるところにいないし、気配もないから……
「……」
「師匠? どうかしたの?」
「いや……」
気配が……あるな?
ただ、これはゴブリンのものじゃない。
俺達と同じ人間の……いや? 少しおかしいな。
人間の気配にとても似ているのだけど、でも、どこか違和感があるというか……
「ねえ、師匠?」
「……なんでもない」
戸惑っている間に気配は消えた。
勘違い……か?
それとも……
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
『「パパうざい」と追放された聖騎士、辺境で新しい娘とのんびり暮らしたい』
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