140話 情報屋と商品と
「さてさて。それで、どんな情報が欲しいのかな?」
「ユミナエル・ネルゼ・ル・シルスアード、という冒険者について」
「……へぇ」
そう訪ねた瞬間、シデンの気配が変わる。
穏やかなものから、ピリピリとした鋭いものへ。
「彼女に目をつけるとは、なかなか……とても高いものになるけど、大丈夫かい?」
「ふむ。ユミナは、それほどまでに注目されている存在なのか?」
「もちろん、もちろんだとも。なにせ、エルフの王女様だからね」
「「王女様!?」」
アルティナとノドカが驚きの声をあげて、
「……」
俺も、驚きで声を忘れていた。
ユミナがエルフの王女?
そんなことは初耳だ。
「おや? まさか、知らなかったのかい?」
「あ、ああ……」
「まいったね、失敗したよ。情報をタダで渡してしまった。まあ……これくらいは、ちょっと調べれば素人でもわかることだから、いいか。サービスにしておこう」
「ありがとう。それで、エルフの王女というのは……?」
「その通りさ。彼女は冒険者でありながら、エルフの国の王女なんだ」
ユミナは、エルフの国の王女。
言われてみると、普通の人は持っていないような『品』を感じる時があった。
ただ、俺からしてみれば妹のようなもので……
だからこそ、彼女の素性を気にしたことがなくて、今まで気づかなかったのかもしれない。
「では、ユミナエル殿は、エルフの国の将来の女王……?」
「いや、そうはならないね」
情報屋は確信があるらしく、断言してみせた。
ここから先はタダというわけにはいかないだろう。
金貨の入った袋を差し出す。
「うんうん。あなたはよくわかっているね。そういう物わかりのいい客は好きだよ」
シデンは嬉しそうに袋を受け取る。
そして、続きを話してくれる。
「彼女は王女だけど、しかし、継承権は持っていない。他に王子や王女はたくさんいてね。国は兄弟が継ぐことになっているのさ」
「ふむ……だからユミナは冒険者をやれている?」
「正解」
継承権を持っていないからこそ、冒険者なんてものをやれている。
納得の話なのだけど……
継承権を持っていないとはいえ、ユミナは王族だ。
護衛の一人もついていないなんてこと、ありえるのだろうか?
俺の表情から疑問を読み取ったらしく、情報屋がさらに続ける。
「実は、ユミナエル王女は国を飛び出したようなものでね」
「飛び出した?」
「こいつは噂で、確かな情報ではないということを理解しておいてくれよ? 噂によると、ユミナエル王女は強制的に婚約させられたらしい」
「婚約……?」
「しかし、彼女はそれを拒み国を飛び出した。冒険者になったのは、一人でも生きていけることを証明するため……そんな噂が流れている」
「ふむ……その話の詳細は?」
「そこまではないね。言っただろう? 噂だって。ふわりとした話に詳細なんてものはないさ。もちろん、確証もない」
情報屋が情報を隠す必要はない。
その話は本当のことなのだろう。
「わかった。貴重な話をありがとう」
さらに、追加で金貨の入った袋を差し出した。
「ユミナについて、さらに情報を集めてほしい。そこらで聞けないような深い情報を」
「いいね。うん、あんたは実にいい客だ。任せておいてくれ」
満足そうなシデンと別れて、俺達は冒険者ギルドを後にした。
――――――――――
場所を変えて我が家。
「師匠は、ユミナエルさんが気になるのよね?」
「そうだな。どうして、このようなことになっているのか……詳しい事情を知りたい。そして、困っているのなら力になりたい」
「「むむっ」」
なぜか、アルティナとノドカが鋭い表情に。
「それは、その……ユミナエルさんのことが気になるから?」
「もちろんだ」
「……ど、どういう意味で気になるの?」
「? どうもこうも、昔、一時とはいえ剣を教えていたことがあるからな。正式なものではないとはいえ、弟子のようなものだ。気にかけることは当然だろう?」
「ああ、そういう……」
「安心したのでありますよ……」
今度は、二人はほっとした様子を見せた。
どうして安堵しているのだろう?
「本当は、ユミナはなにも困っていないのかもしれない。けれど、もしかしたら困っているのかもしれない。ならば俺は……」
「ええ、わかっているわ」
「シデン殿だけではなくて、拙者達も、独自に情報を集めてみるのでありますよ。また違う話を聞くことができるやもしれませぬ」
「そうね。同じ冒険者に……女性の冒険者がいいわね。あと、彼女がこなしてきた依頼の依頼主に話を聞くのもアリかも。まあ、普通に話を聞けるかどうか、そこは怪しいけど……やってみる価値はあると思うわ」
「……」
アルティナとノドカは、そうすることが当然のように話を進めている。
「えっと……二人はいいのか?」
「なにが?」
「ユミナのことは、二人に……」
「関係あるわよ」
「ガイ師匠の弟子ならば、自分達にとって兄弟弟子。なればこそ、困っているのなら力になるのは当然のことでありますよ」
ユミナを兄弟弟子と言う。
そんな二人のことを、とても誇らしく思う。
「そうか……ありがとう」
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
『「パパうざい」と追放された聖騎士、辺境で新しい娘とのんびり暮らしたい』
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