14話 修行
模擬戦が終わった後、俺とアルティナは、引き続き訓練場を使わせてもらうことになった。
色々とあったから、今日の分の訓練を終えていない。
なので、場所を借りることにした。
アルティナも俺の訓練に興味津々らしく、目をキラキラと輝かせている。
この子は、本当に剣が好きなんだな。
「ねえねえ、師匠。師匠は、いったい、どういう訓練をしているの? それを真似すれば、あたしも、師匠と同じくらい強くなれるかしら?」
「俺なんてすぐ追い越せると思うけど……ああ。簡単な訓練だから、誰にでもできるさ」
「本当!?」
「とても単純だ。なにせ、素振りをするだけだからな」
手本を見せるため剣を構えた。
深呼吸をして、体を巡る気を整える。
剣をまっすぐに構えて……
そして、一気に振り下ろす。
最後に、再び剣を構える。
「とまあ、これが一連の流れだ。簡単だろう?」
「……え?」
なぜか、アルティナはぽかーんとしていた。
「どうしたんだ?」
「いや、えっと……」
「簡単だろう? 一応、アルティナも真似してみてくれないか? とはいえ、ただの素振りなんだけどな」
「だから、その……」
アルティナは、とても困惑した様子で言う。
「今……なにをしたの?」
「え?」
「師匠、剣を構えて……ずっとそのままじゃない。いや? わずかに動いたような……でも、よく見えなかったわ。いったい、なにをしたの?」
「なにを、って……ただの素振りだよ。気を整えて、祈り、剣を振る。それだけだ」
「それだけ、って……えぇ……あたし、まったく見えなかったんだけど」
「え?」
「え?」
おかしいな。
俺とアルティナの間で、重大な齟齬が発生しているような気がする。
「ちゃんと見ていなかったのか?」
「見ていたわよ。師匠の素振りが、あまりにも速すぎるの」
「そんなわけないだろう。ほら、こんな感じだ」
「……だから、見えないから」
もう一度、素振りをしてみせるものの、アルティナは首を横に振る。
演技……という風には見えない。
本当に見えていない?
「いい? 師匠は自覚がないみたいだけど、師匠の素振りはめちゃくちゃ、とんでもなく、恐ろしく速いの。一連の動作をこなすのに、1秒もかかっていないわ。ってか、素振りをする度に空気がかき乱されて、軽い衝撃波が発生しているわ」
「そんなバカな。ありえないさ」
「ありえるのよ、もうっ……! 師匠って、規格外だとは思っていたけど、まさか、ここまでだったなんて……」
「ふむ……そうか、なるほど。そういうことだったのか」
「ようやく理解してくれた?」
「アルティナは視力が悪いんだな? メガネをつけないのか? それとも、コンタクトを忘れたのか?」
「なんもわかっていない!!!」
頭を抱えつつ、アルティナが叫ぶ。
どうしたのだろう?
「あ、そうか」
「こ、今度こそ理解してくれた……?」
「目が悪いんじゃなくて、目にゴミが入っただけなんだな?」
「違うわよっ!!! 師匠ってば、アホじゃないの!?」
「アホ!?」
一応、師弟関係を結んでいる仲なのに、アホは酷いのではないだろうか……?
なぜ、アルティナはここまで怒っているのだろう?
「まあ、師匠だからね。ただの素振りでも、ここまでの極致に到達していたとしても不思議じゃないわ」
「ありがとう?」
「ごめん、話が逸れたわね。それで、師匠の訓練は、その素振りをすること?」
「そういうことだ」
「なるほどね……師匠の強さをちょっと理解できたかも。師匠がやっていることは、ただの素振りじゃない。超々高等技術の素振り……というか、素振りを超えたナニカ。そんなものをやっていたのなら、師匠の力も納得ね。それで、素振りは1日に何回くらいやっているの? 1回やるだけでも、相当な訓練になると思うけど……30回くらい?」
「いや、1万回だ」
「……は?」
アルティナの目が点になる。
ついでにフリーズした。
「……あー、今、なんて?」
「1万回」
「あたし、耳が悪くなったのかしら……ああ、そう。そういうことね。1年で1万回とか、そういうことね」
「いや、1日だぞ?」
「……は?」
再び同じ反応に。
どうして、そんなに驚いているのだろう?
「1万回といっても、ただの素振りだぞ? そこまで驚くことじゃないだろう」
「驚くことよ!!! バカじゃないの!?」
今度はバカ呼ばわりされてしまった……
「師匠の素振りはめちゃくちゃ難易度が高いもので、しかも、それを1日1万回とか……ありえないんだけど!?」
「嘘は吐いていないぞ?」
「わかっているわよ! わかっているからこそ、もう、混乱しているの! はぁあああああ……ホント、師匠は規格外ね。っていうか、あんな素振りを1万回なんて、よくできたわね?」
「最初は、だいぶ苦戦していたよ。それだけで1日が終わっていたな。挫けそうになった時もあった。でも……」
おじいちゃんのことを思い出した。
優しく育ててくれて、俺に剣を教えてくれた。
おじいちゃんと剣、両方に対する感謝の念。
「なんとか、がんばることができたよ。おかげで今は、1時間くらいで終わるようになったんだ」
「い、1時間……!? 1万回を、1時間……!?」
アルティナの顔がひきつる。
「俺の真似をしたい、ってことだけど、アルティナもやってみるか?」
「やってみる、けど……あたし、師匠に追いつける気がぜんぜんしないわ……」
「大丈夫。アルティナの剣は綺麗だ。きちんと訓練を積めば、俺なんて、すぐに追い越せるさ」
「師匠……それ、ホント?」
「本当だ。その歳で剣聖になった自分を信じろ。それと、俺のことも、少しは信じてほしい」
「師匠のことは、誰よりも信じているわ」
アルティナは優しく笑う。
それから、よし、と気合を入れた。
「師匠が優しいから、やる気出てきちゃったじゃない。やってやるわ!」
「ああ、その意気だ」
「師匠は、側であたしのことを見ていてね? そうしてくれれば、あたし、かなりがんばれると思うから」
「ああ、見ているよ。がんばれ」
「ええ、がんばるわ!」
アルティナは笑顔で剣を握り、素振りを始めた。
とても気合の入った剣閃だ。
俺も負けていられないな。
剣を再び構えて、俺も素振りを始めるのだった。
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