139話 気になる妹分
「じゃあ、またね、お兄ちゃん。アルティナさんとノドカさんも、また」
互いに近況報告をして。
それから雑談をして。
さすがにそろそろ寝た方がいい、ということで解散。
ユミナは自分の宿へ戻っていった。
送ろうとしたのだけど……
「私も立派な冒険者だよ? だから大丈夫」
そう断られてしまった。
心配ではあるものの、ユミナが冒険者であることは確か。
甲殻獣を一撃で倒すほどの力を持つ。
構いすぎては彼女のプライドを傷つけるかもしれないと、素直に引き下がることにした。
そして、俺達三人だけになったのだけど……
「ねえ、師匠。ユミナさんのことで、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
アルティナとノドカは、まだ寝るつもりはないらしい。
俺も、まだ眠気はない。
それに、ユミナについての話なら応えておいた方がいいだろう。
「彼女、今は、強くなるための武者修行で旅をしている、って言っていたけど……」
「それは本当なのでありましょうか?」
「うん? それは……ユミナが嘘を吐いている、と?」
「嘘ってほどじゃないんだけど、ただ、本当のことも言っていないようが気がするのよ」
「拙者は、武者修行というところに違和感を覚えたのでありますよ。旅をしているのは本当。でも、目的は別のものであるような……」
「その根拠は?」
「「女の勘」」
とても判断に迷う答えだった。
とはいえ、勘というものはバカにできない。
勘は、その人が積み重ねてきた経験則だ。
無意識化で最良の答えを選ぶことがある。
戦闘においても勘は大事だ。
体に染み込んだ技術が無意識に警報を発してくれたりする……それが勘というものだ。
アルティナだけではなくて、ノドカも同じことを言う。
なら、信じてみてもいいだろう。
「ユミナが嘘を吐いている、か……だとしたら、なぜだろう?」
「さすがにそれはわからないけど……」
「たぶん、ガイ師匠に知られたくないことなのかと」
「そうね。師匠に会ってからの彼女、嬉しそうだったけど、でも、同時に寂しそうでもあったから」
そう……なのか?
俺の目には、昔と変わらないように見えたのだけど……
まいった。
こういうことに関しては、アルティナとノドカの言うことは信用できる。
あと、俺自身で気づけるように、こういうことも鍛えた方がいいかもしれないな。
「ユミナに話を聞いて……いや、それはやめておいた方がいいか」
「そうね。なにかわからないけど、彼女は師匠に隠したいことがある。それなのに、なにか問題がある? なんて聞いて、素直に答えてくれるわけがないわ」
「まずは、身辺調査がいいと思うのでありますよ。ユミナエル殿のような目立つ冒険者なら、情報者も色々な話を取り扱っているかと」
「二人は詳しいな」
「師匠が知らなさすぎるの」
「ガイ師匠が知らなさすぎるのでありますよ」
まったくもってその通り。
さすがに反省しないといけないな。
思えば、おじいちゃんもこの辺りを心配していたような気がする。
俺が剣を学ぶのはいいことだけど……
でも、それだけに囚われないように、と言っていた。
視野、思考が狭まることを恐れていたのだろう。
事実、そのようになってしまい……
やれやれ。
俺はまだまだだな。
修行しなければいけないこと、学ばなければいけないこと、たくさんだ。
「明日、情報屋を訪ねてみよう」
――――――――――
日が変わり、翌日。
俺達は、さっそく情報屋を訪ねてみることにした。
「ようこそ、冒険者ギルドへ! あっ、ガイさん!」
冒険者ギルドに足を運ぶと、リリーナが笑顔で迎えてくれた。
いつも元気がいい。
でも、嬉しそうなのはなぜだろう?
「今日はどうされましたか? 新しい依頼ですか?」
「いや、情報を買いたい」
情報屋というのは、冒険者ギルドのことだ。
どこにも属さない。
あるいは、裏社会に属する情報屋というのは存在するのだけど……
ほぼほぼ非合法な存在なので、あまり関わりたくないというのが本音だ。
知識がないと鴨にされてしまう。
あったとしても、妙な連中が相手だとつきまとわれることもある……らしい。
おじいちゃんに聞いた話なので、真偽はわからない。
ただ、よほど切羽詰まった状況でない限り近づかないように、と強く言われていた。
代わりに、冒険者ギルドでも情報屋がいる。
冒険者のための情報を扱い、冒険者のために活動をする。
ギルドに所属しているため、非合法ということはない。
騙されることもぼったくられることもない。
情報を得るなら、まずは正規の情報屋で……というのが冒険者の基本だ。
「情報ですか。えっと……はい。今なら、ちょうどいい方を紹介できますよ」
「頼む」
「では、少々お待ちください」
リリーナが奥の部屋に消えて……
ややあって、フードで顔を隠した人を伴い戻ってきた。
「おまたせしました。こちら、当ギルドに所属する情報屋のシデンさんです」
「やあやあ。僕がシデンだ、よろしくね」
女性のように高い声だけど、しかし、男性らしさも感じる。
フードで顔を隠しているだけではなくて、ローブも着ているため、体の線がわからない。
「……この人、男なのかしら? それとも女?」
「むむ……難しい問題でありますな」
アルティナとノドカは迷っている様子だ。
「僕の性別が気になるかい? 素顔とか見たいのかな?」
「「うんうん」」
「そっか。でも、見せてあげられないな」
「「えーーー」」
「情報収集のためには、影になる必要があるからね。顔がバレていたら、適当なものはともかく、重要な情報を得ることは難しい。だから、僕の正体は秘密だ」
たぶん、シデンというのも偽名なのだろう。
とはいえ、それが情報屋というものなので不満を抱くことはない。
アルティナとノドカも理解しているらしく、それ以上、彼……あるいは彼女の正体について言及しようとはしなかった。
冒険者ギルドの一室を借りて、シデンと話をする。
「さてさて。それで、どんな情報が欲しいのかな?」
「ユミナエル・ネルゼ・ル・シルスアード、という冒険者について」
「……へぇ」
そう訪ねた瞬間、シデンの気配が変わる。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
『「パパうざい」と追放された聖騎士、辺境で新しい娘とのんびり暮らしたい』
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