138話 結婚したい
「私は、お兄ちゃんと結婚したいかな」
「「えぇっ!?」」
ユミナの爆弾発言に、アルティナとノドカが大きな声を出して驚いた。
俺も驚いた。
いや、待て。
そんな話、まったく聞いていない。
「結婚の約束もしたんだよ」
「「えぇぇぇえええーーー!?」」
弟子二人がこちらを睨んで。
次いで、なぜか涙目になる。
「うぅ……ま、まさか、師匠がもう……」
「拙者、色々と遅かったのでありますね……」
「いや、待て。なにかおかしい」
約束なんてしていない。
ユミナと出会ったのは二十年くらい前だけど、そんな約束は……
「よーし! 私、絶対、強くなってみせるね! その時は……」
「私と結婚してね、お兄ちゃん♪」
「……ぁ……」
ふと、そんな光景が脳裏に思い浮かぶ。
思い浮かぶというよりは、思い出した。
そうだ。
確かな約束はしていないものの、あの時、確かにユミナはそう言っていた。
当時は、子供の言うことと、すぐに忘れてしまったのだけど……
あれは本気だったのか?
「なーんて」
ふと、ユミナがいたずらっぽい顔に。
「結婚してね、とは言ったけど、お兄ちゃんは特に返事はしてくれなかったし……あれも、子供の頃の話だからね。今は特に、っていう感じだよ」
「そ、そうなのね……」
「よかったでありますよ……」
アルティナとノドカは、なぜかほっと安堵していた。
なぜ、二人が喜ぶのだろう?
「あれ?」
次いで、アルティナが不思議そうに小首を傾げた。
「師匠とユミナエルさんが出会ったのが……」
「私のことは、ユミナでいいよ。お兄ちゃんのお弟子さんなら、私にとっても兄弟弟子のようなものだから」
「そうね……ええ、そうさせてもらうわ」
アルティナとユミナは笑顔を交わす。
この二人、性格は異なるものの、根本的なところで通じるものがあるのかもしれない。
……ユミナも、意外とやんちゃなんだよな。
「話を戻すけど、師匠とユミナが出会ったのが二十年くらい前なら……え? ユミナって、今、何歳なの?」
「アルティナ殿、女性に年齢を聞くのはマナー違反ですぞ」
「そうだけど、そうだけど! でも、おかしくない!? 二十年前に剣を学んでいたとか、なんかこう、色々と計算が合わないでしょ!」
「そう言われてみると……」
二人の懐疑的な視線を受けて、ユミナが苦笑する。
エルフである彼女にとっては、わりと慣れたこと。
慣れている反応なのだろう。
「ほら。私って、エルフだから。人間と比べたら、成長がとてもゆっくりなんだよ」
「っていうことは……」
「こう見えて、二十六歳なんだよ」
「「マジで!?!?!?」」
ものすごい驚きようだった。
いや、まあ。
気持ちはわかる。
当時のユミナは普通の女の子だったけど……
あれから二十年経っているのに、その三分の一くらいしか成長していない。
だからこそ最初は気づくことができなかった。
エルフは長命で、そして、成長が遅い。
だから、あれから二十年経っても、外見はあまり変わっていないのだろう。
「……これが本当の合法ロリ……」
「……プレシア団長よりも、ある意味ですごくありませぬか……?」
アルティナとノドカは、とてもショックを受けた様子だった。
女性は歳を気にするらしい。
だからこそ、ユミナの外見と実年齢の差に驚いたのだろう。
「ところで」
自己紹介はもういいだろう。
それよりもユミナの近況が知りたい。
「ユミナは、冒険者になっていたんだな」
「うん、そうだよ。お兄ちゃんに剣を教えてもらった時から、冒険者になる! って決めていたもの」
「俺が剣を教えたわけじゃないんだけどな……」
「同じだよ。おじいさまの剣もお兄ちゃんの剣も、すごくよく似ているもの。だから、私にとってはお兄ちゃんもおじいさまも、二人共師匠なの」
「そっか」
昔も、こうして慕ってくれたものだ。
懐かしくなり、ついつい昔のように頭を撫でてしまう。
「えへへ♪」
ユミナは、最初は驚いた顔をしたけれど、すぐに笑顔に。
そのまま、猫のような感じで甘えてきた。
「ところで!」
「ユミナ殿は!」
アルティナとノドカが間に入る。
「「こんなところでなにを?」」
強引に話を逸らしているが……
なぜ、そんなことをしているのだろう?
「えっと……たまたま、かな」
ユミナはちょっと苦い笑みを浮かべつつ、そう言った。
色々と疎い俺ではあるが……
そんな俺でも、ユミナの言葉が嘘であることは理解できた。
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