136話 ユミナエル
「誰!?」
エルフの女の子は鋭い声を飛ばすと、再び背中の大剣を構えた。
その切っ先をこちらに向けてくる。
細かくは確認できていないが……
俺達の存在は完全にバレている様子だ。
「落ち着いてくれ」
隠れていたら斬りかかられるかもしれない。
そう判断した俺は、両手をあげつつ前に出た。
「怪しい者じゃない……と言っても信じてもらえないかもしれないが、少なくとも、キミと敵対するつもりはない」
「そうよ。こんな可憐な美少女が、悪いことをするわけないじゃない」
「アルティナ殿……それ、自分で言ってしまうのでありますか?」
「じょ、冗談よ。ツッコミ待ちなの!」
「でも、実際、アルティナ殿は美少女なので……うーん。どうツッコミを入れればいいか、拙者は悩んでしまうのでありますよ」
「えっと……あ、ありがと」
「……」
俺達が姿を見せると、エルフの女の子は目を丸くして驚いていた。
アルティナとノドカの気の抜けるようなやりとりのせいだろうか?
……いや。
そういう感じではないな?
「……」
エルフの女の子は俺を見ていた。
じーっと。
じーーーっと。
じぃぃぃーーーーーーーっと。
穴が空いてしまうのでは?
そんなことを思うくらい凝視されていた。
「えっと……どうかしたのかい?」
「……はっ!?」
エルフの女の子は、我に返った様子で小さく震えた。
それから、気を取り直すように咳払い。
改めて、強い口調で詰問してくる。
「あなた達は誰? もしかして、盗賊の類?」
「違うよ。俺達は、そんなものじゃない」
「あたし達は冒険者よ。ほら」
「冒険者証なのでありますよ」
ノドカが冒険者証をエルフの女の子に渡した。
俺達もまた、エルフの女の子が悪人でないか疑わないといけないのだけど……
ノドカは、そんなことは気にした様子はなくて、まず最初に自分達の身の潔白を証明しようとしていた。
そんなことができるのは、ノドカの心が綺麗だから。
相手を疑うよりも先に、まず自分の身を証明する。
いい心の弟子を持つことができて、師匠として誇らしい。
「……本当に冒険者だ」
冒険者証を確認したエルフの女の子は、驚いた様子で言う。
それから冒険者証をノドカに返して。
大剣を背中に戻して。
ぺこりと頭を下げる。
「ごめんね……早とちりして、私、失礼なことを。本当にごめんなさい!」
「あ、いや。気にしないでほしい。このような場所に武装した者が現れれば、警戒するのは当たり前のことだ。気にしていないさ。なあ?」
「まあ……そうね。あたしは心が海のように広いから、これくらい、なんてことないわ!」
「拙者も気にしていないでありますよ。っと、まずは、色々と説明をしなければなりませんな」
「ノドカの言う通りだ。俺達は……」
冒険者であること。
甲殻獣討伐の依頼を請けて、待ち伏せしていたこと。
そこにエルフの女の子がやってきて……という、今までの流れを素直に説明した。
ともすればタイミングがよすぎると疑われてしまうのだけど……
「なるほど……うん、そういうことだったんだね。改めて、ごめんね。甲殻獣はずっと放置されていたから、もう誰も請けないのかな、って。なら私が、って思っていたんだけど……うー、横取りしちゃった。ごめんなさい……」
しゅん、と落ち込んでしまう。
この子、やっぱり悪人ではないようだ。
もちろん、これが演技という可能性はあるのだけど……
だとしたら、とんな食わせ物。
騙されたとしても、それはそれで仕方ないと思えるだろう。
「って、またまたごめんね! 自己紹介を忘れていたよ」
エルフの女の子は、ピシリと背を伸ばして、言う。
「私の名前は、ユミナエル・ネルゼ・ル・シルスアード。見ての通り、エルフだよ」
「あたしは、アルティナ。アルティナ・ハウレーン、冒険者よ」
「ノドカ・イズミであります。同じく冒険者なのですよ」
順番に自己紹介をして、
「ガイ・グルヴェイグ……冒険者だ。よろしく」
最後に俺が名乗る。
「……」
再びエルフの女の子……ユミナエルが目を大きくして驚いた。
それだけではなくて……
わずかに震えている。
感動……しているのだろうか?
そして……
「お兄ちゃん!!!」
エルフの女の子は、感動した様子で俺の胸に飛び込んできた。
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