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134話 甲殻獣

 街の外に近い位置にある農家。

 そこにお邪魔して、依頼主から詳しい話を聞いた。


 最近、夜、畑から物音が聞こえてくるらしい。

 その翌朝、様子を見に行くと作物が荒らされている。


 最初は、獣なんてこの手で追い払ってくれる! と依頼主が意気込んで出たものの……

 夜の闇に紛れる獣は大きく、これは無理だと諦めたらしい。


 そこでギルドに依頼を出したものの、立て続けに失敗。

 ほとほと困り果てていたようだが……



「いやー、助かったよ。これで、害獣も最後だな!」

「いや。まだ成功したわけでは……」

「なにを言っているんだ。英雄であるガイさんが来てくれたんだからな。成功したも同然さ!」



 ……なんて、ものすごく期待されてしまう。

 その評価はありがたいのだけど、ややプレッシャーでもある。


 とはいえ、それくらいのプレッシャーを乗り越えないで、剣士としてやっていくことなんてできない。

 やってみせようではないか。


 こうして、俺達は準備をして、夜の畑に向かうのだった。




――――――――――




「……暗いですな」


 俺達は夜の畑に潜み、害獣がやってくるのを待つ。

 気づかれてはいけないので、当然、明かりは点けていない。


「ガイ師匠、ちょっとくらい明かりを……」

「すまないが、ダメだ。害獣が逃げてしまうかもしれないからな」

「うー……」

「なによ。ノドカ、あんた、暗いのが苦手なの?」

「拙者、あまり怪談などは得意ではないのでありますよ……」

「暗いところにいると、そういう話を思い出しちゃう?」

「……です」

「へぇ」


 アルティナが悪い顔に。


「ねえ、ノドカ。こんな話を知っている?」

「え?」

「それは……そう、ちょうどこんな新月の日。外は暗闇に包まれていて、誰もいない……そんな日に、若い女性が街を歩いていたの。友達と遊んで、ついついハメを外して遅くなっちゃったの。でも、その人は特に心配していなかったわ。治安のいい街だから」

「そ、そうでありますか……」

「でも……ね? その日は違ったの。暗いこと、人がいないこと。それはいつも通りなのだけど、でも、空気がまとわりついてくるかのようで、どこか気持ち悪さがあったわ。遠くから獣の雄叫びも聞こえてきた」

「ごくり……」

「ふと、女性は気付いたの。あれ……足音が多くない? って。自分一人しかいないはずなのに、足音は二人分。慌てて周囲を見るけど、やっぱり誰もいない。気のせいかしら? 女性は再び歩き出して……その時!」

「ひぃ……!?」

「そこまで」

「あいたっ」


 こつん、とアルティナの頭に軽いげんこつを落とした。


「ノドカをいじめないように」

「むー、軽いコミュニケーションよ」

「あと、騒がしくしないように。俺達は、依頼の途中なんだからな」

「はーい」

「ふぅ……た、助かったでありますよ。こんな話を聞かされたら……って、ひぃ!? い、いいい、今っ、足音が!?」


 ノドカの聞き間違い……というわけではない。

 確かに、俺も足音を聞いた。


「害獣か……?」

「みたいだけど……」


 困惑するアルティナの視線の先。

 縦横三メートルくらいの岩が動いていた。


 いや。

 岩ではなくて、それこそが害獣だ。


 岩に見えるのだけど、短い手足が生えている。

 それと、牙の並んだ口。


「なるほど、甲殻獣か」

「それって、外皮が鎧並に硬いって言われているヤツ?」

「攻撃力は高くありませぬが、防御力に特化しているため、並大抵の攻撃では通りません。魔法ならば討伐は可能ですが、ここは畑なので、そのようなことはできないのでありますよ」

「討伐が失敗した理由が見えてきたな」


 だとしたら、害獣が甲殻獣という情報も載せておいてほしかったのだけど……

 夜にしか現れないみたいだから、迷い、断言することができなかったのだろう。


「よし、いくか」

「えっと……師匠は、甲殻獣を斬るつもりなのよね? 誘い出して捕獲とか、穴に落とすとか、そういうことを考えているわけじゃなくて」

「ん? もちろん、斬るに決まっているだろう。あいつには悪いが、畑を荒らしている以上、放っておくことはできない。追い払ったとしても、作物の味を覚えたから、またやってくるだろうからな」

「斬る、っていうところに迷いを抱かないのね……」

「拙者でも刃が通るかどうか、けっこう怪しいのでござるが……」

「まあ、師匠なら楽勝っぽいわね。さすが師匠!」

「その剣、しっかりと見て学ばせていただくのでありますよ!」


 俺がやる流れになっていた。


 それは問題ないのだけど……

 ふむ?


「どうしたの、師匠?」

「……少し様子がおかしいな」

「え?」

「甲殻獣だけじゃなくて、他の気配がする」


 そう……

 これは、人の気配だ。


「……あなただね? 人様の畑を荒らす、悪い子は」


 ふと、そんな声が聞こえてきた。

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